第23話 二度目の決闘

「まず、名乗らせて貰おうか。国王陛下直属部隊所属のカムラン・ライトロードだ」


 国王陛下直属部隊?

 慌てて、膝を付き敬礼する。

 セバスチャンとシルビア、エリカも続く。遅れてレガートだ。アゲート子爵は、唖然としている。


「国王陛下が、どのような理由でこの開拓村に直属部隊を派遣したのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 質問は、不敬に当たるかもしれないが、僕は開拓村の村長である。

 この人は、言ってみれば不法侵入者だ。

 場合によっては、理由の如何を問わずに、僕に拘束する権利が発生する。

 言ってみれば、アゲート子爵と同じなのだ。他人の家に無断で入って来たのと同じなのだから。


「うむ。国王陛下は、貴殿のことを大層気にしておいででな。月に一回程度の見回りを指示している。

 だが、この情勢下に麦と肉を納税したことに大変お悦びになり、秘密裏に貴殿に護衛を付けるとの王命を下された。

 そして、私が潜伏していたのだが、今回の騒動が起きてしまった」


 国王陛下が僕を気にしている? ありえない。貴族の嫡子など、それこそ何処にでもいる。

 侯爵家が関係しているというのであれば、セバスチャンの同僚が来るはずだ。

 納税と言っても量はたかがしれているし……。

 それに、僕の護衛というのであれば、ダンジョンに隠れて付いて来たはずだ。

 本当の意図は伏せられていると思う。


「アゲート子爵が、村民に狼藉を働きました。お止めにはならなかったのですか?」


 少し怒気を含んでの質問だ。

 この人であれば、事前に止められたはずだ。


「……王命でな。貴殿に悟られぬように潜伏することが課せられていた。

 アゲート子爵が、開拓村を出た時点で拘束しようと思っていたのだが、いきなり貴殿が現れた。推測するに帰還石か?」


 奥歯を噛み締める。このひとであれば、止められたはずだ。

 死者は出なかったが、大勢の怪我人が出た。シルビアも切られている。

 それにシルビアが辱めを受けていた可能性だってあったのだ。それをこの人は見ていただけだ。

 何が護衛だ。見ていることを護衛とは言わない。


「……父上から帰還石を二個頂きました。少し胸騒ぎがしたので、急いで帰って来たのですが、正解でしたね。

 まあ、行きのマラソンが辛かったので、帰りは楽をしようと思ったのもあります」


 ここは、嘘を混ぜる。

 エリカが持って来たと言うより、僕が貰ったと言った方が、信憑性があるだろう。


「ふむ。近くのダンジョンへ行っていたのだよな? 二日程度だが、シルビア嬢を残して行く理由を聞きたい」


「……近場のダンジョンに魔導書があるとの情報を得たので、腕試しも兼ねて取りに行きました。この本になります」


 僕専用の魔導書を差し出す。


「ふむふむ。それで先ほどの魔法か。なるほどな。随分と有用な魔導書を手に入れたのだな」


 腹の探り合い。この人は頭が回ると思われる。

 このままでは、ボロが出そうだ。

 話を切り上げよう。


「それでは、決闘に移らさせて頂きます」


「おお。そうであったな。華麗なる戦闘を期待しているぞ」


 全員が、困惑気味だ。





 相手は、アゲート子爵の護衛のローブを着た魔導師。

 決闘は、剣あり魔法ありの、なんでもありとなった。降参を宣言させるか、行動不能、もしくは死亡させても罪には問われない旨の約定も交わした。

 シルビアが、僕に抱き着いて来た。


「エヴィ様、どうか、どうか……」


「心配はいらない。この魔導書と土竜爪があれば、そうそう負けることもないさ」


 そう言って、セバスチャンにシルビアを預ける。


「くっくっく」


 目の前のローブの男が嗤う。


「お待たせしました。始めましょうか」


「まず、名乗らせて貰おうか。ヴィゾフニルと言う。今はしがない傭兵だが、昔は宮廷魔術師であった」


 覚える気もない。昔は凄かったのかもしれないが、先ほど僕の魔法に気を取られてセバスチャンに取り押さえられた程度の人だ。

 実力が知れている。


「そろそろ、始めましょう。合図をお願いします」


 僕が、カムランにそう言うと、ヴィゾフニルは、憎悪の目で僕を睨んだ。


「始め!」


 魔導書を展開し、土竜爪を起動させる。僕の背後には、大量の土砂が浮かび上がった。

 それを見た、ヴィゾフニルが笑みを浮かべる。


「風は土を削り取る……」


 ヴィゾフニルは、風魔法を展開して纏った。真空の刃かな? 地面の小石がはじけ弾んで粉々になった。どうやら、風魔法が得意の魔術師のようだ。

 試しに石弾を撃ってみたが、風の防御壁に防がれてヴィゾフニルまで届かない。石弾は、真空の刃に打たれると粉々に粉砕されたのだ。

 アゲート子爵は、大声でヴィゾフニルに声援というか命令を出している。でも、『殺せ』はないと思うのだが。


 今度は、ヴィゾフニルからの攻撃だ。分かりやすく真空の刃を飛ばして来た。

 土の壁を構築すれば、僕には届かない。スピードもそれほどでもないし。

 他に攻撃手段もなさそうだな。


 昨日までの僕であれば、苦戦していたかもしれないな。でも、今は雑魚としか感じない。

 土竜爪を使い、ヴィゾフニルの足元を崩す。蟻地獄から落とし穴に変化して行く。そして、逃げられないように上から土を被せて行く。飛ばれると、手強いかもしれないが、そこまでの技量はないのかもしれない。

 もう、腰まで埋まっている。


「な! な!……」


 何か言っているが、土砂の音で聞き取れない。まあ、聞く必要もないのだが。

 数秒で、ヴィゾフニルは地面に埋まった。

 生命探知でヴィゾフニルの状況を確認する。風魔法で、地面を掘ろうとしているが、地面の硬度を高めにしているので、削れていない。

 窒息はないだろうが、這い出て来そうになかった。

 カムランを見る。

 だが、まだ勝利の名乗りを上げてくれない。


「まだだぞ、小僧! 貴族の決闘は、拘束したら終わりではないのだ!」


 アゲート子爵が、笑いながら僕に話しかけて来た。

 それくらいは知っていますよ。僕は、切られて死にかけたのだから。


 土魔法:土槍


 石を尖らせた物を生成し、地面の中を自在に移動させる。

 拘束したヴィゾフニルを槍で刺して行く。ヴィゾフニルは、光の届かない地面の下で無数の槍を躱すことも出来ずにどんどん刺されて行く。光のない牢獄での全方位からの槍による攻撃。風魔法で何本かは防いだみたいだが、見えていないのである。躱せていなかった。そして、動かなくなった。

 急所は避けたので、まだ生かしてはある。


 不思議と落ち着いていた。僕は荒事は好きではないが、アゲート子爵とヴィゾフニルを傷付けることに躊躇いはなかった。

 これも魔導書の影響かもしれない。精神支配されないように気をつけないとな。


 動かないヴィゾフニルを地上に出した。気絶している。出血も酷い。

 アゲート子爵が、『まだだ、まだだ』と騒いでいるが、もう終わりだろうに。

 カムランが確認して、手を上げた。


「勝者! エヴィ・ヘリオドール!」


 シルビアが抱き着いて来た。胸が当たっていますよ。

 頭を撫でて落ち着かせる。

 アゲート子爵は、茫然自失と言ったところかな? 思考が止まっていそうだ。

 ここで、エリカがアゲート子爵の前に出て来た。


「では、答えて貰いましょうか。なぜ開拓村なんかを襲ったのかしら?」


 アゲート子爵の目が泳いでいる。誰かに指示されたのが伺える。

 それと、ヴィゾフニルはどうしようか。アゲート子爵の傭兵なので、今後は僕が主人になる。

 使えそうな魔導師ではあるが、手元に置きたい人物ではない。

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