第22話 襲撃1
四人で村民の声のする方向に向かった。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
村民が、傷つけられて倒れている。そして、十数人の男共が、食料などの物資を運んでいた。
僕は、まずシルビアを探す。
開拓村の端の方でシルビアを見つけた。見つけたのだが……。
シルビアは、右腕を切られており、男三人に囲まれている。短剣を構えているが、今にも倒れそうな出血量だ。
血液が沸騰するような感覚に襲われる。
そして、僕の激情に魔道具が反応した。
右手に装備している土竜爪は、地面に触れていないのだが、大量の土砂を巻き上げた。そして、魔導書は空中に浮きページを開いて光り出した。そのページには、新しい呪文と構築式が浮かび上がっている。
感覚で分かる。
土竜爪は、僕が得意な土魔法の効果を上げる道具であり、魔導書は僕の魔力の増幅器だ。
今この二つの魔道具を持つ僕は、魔導師の中でも上位にいるのかもしれない。
土魔法:硬石散弾
自動追尾型の推進力を得た投石魔法。弾数は数千発だろう。何も考えずに発動出来た。
今度は、盗賊と思われる男共の悲鳴が響き渡る番になった。前後左右上下から襲い掛かる非致死の威力の投石。それは、視界を遮るほどの土砂降りの石の雨。
範囲攻撃魔法と言える。セバスチャンであっても、無傷での回避は不可能だろう。
セバスチャンとエリカは、僕が撃ち漏らした男共を制圧し始めた。
レガートは、僕に攻撃が来ても良いように、盾を構えて守ってくれている。投槍が来たが、盾で弾いてくれた。
「はぁ、はぁ……」
一度に大量の魔力を消費したので、息が切れ始めた。そして、頭が冷える。
今は、シルビアと倒れている村民の救助が最優先だ。
まず、シルビアに駆け寄る。
「シルビア。大丈夫か?」
「……開拓村を任されたのに、この始末。申し訳ございません」
悔しいのだろうな。涙が溢れている。
シルビアを抱きしめて、回復魔法を施す。魔導書の効果により、回復魔法の効果も上がっている。シルビアの傷は、数秒で塞がった。
シルビアの右腕の傷は、かなり深く切られていたと思われるが、それでも元通りに戻っている。
シルビアを放して、開拓村全体を見る。
合成魔法:生命力降雪
大地から生命力を分けて貰い、雪に変換して辺り一帯に降らせる。盗賊と思わしき男共には、その雪が降り注ぐことはない。村民だけだ。
魔法の熟練度や魔力量など、魔導師として積むべき研鑽など全てをすっとばして、今の僕は魔導師としてかなり優秀な魔法を発動できている。
徐々に村民が、意識を取り戻し始めた。
死者が出ないことを祈るばかりだ。
「坊ちゃま。主犯格と思わしき人物を捕らえて来ました」
声の方向を向く。当然ながらセバスチャンだ。手には、貴族の服を着た男が、ボコボコにされた状態で鷲掴みにされたいる。
セバスチャンは、今すぐにでも頭を握り潰しそうなほどの殺気を放っている。
僕が大事にしている開拓村を荒らし、孫のシルビアを傷つけたのだ。相応の報いを与えたいのだろうが、情報を引き出してからだな。
感情に流されないのは、年の功といったところだろう。
レガートは、男共を縛り上げていた。
エリカは、逃げた男共の手足を焼いていた。そして、馬型の炎の生物を使って運んで来た。
◇
今は開拓村を襲った男共を全員縛り上げて、土で出来た牢獄で監禁している。
村民に死者は出なかったが、血を流しすぎて今だに意識不明の者もいる。
「この貴族みたいな者は、誰だが分かるか?」
「アゲート子爵ね。ここからそれほど遠くないところに領地を持っている、地方領主ね」
ここで、アゲート子爵と呼ばれた男が、声を荒げた。
「侯爵家嫡子とはいえ、正式な爵位を持たぬ者が、子爵であるこの私に暴力を振るったのだ! 覚悟しておけよ!」
僕は、その言葉を聞いてかなりイラついた。
だが、それは僕だけではなかった。セバスチャン以下、村民全員が殺気を放っている。
僕が目を放せば、殺してしまいそうだ。
その殺気に当てられて、アゲート子爵が黙る。
「アゲート子爵殿。盗賊まがいのことをして、言い逃れ出来るとでも?
この地は、僕が国王陛下から預かっている土地です。話はすぐに王城に届きますよ。
いや、父上であるヘリオドール侯爵家が先に動き出しそうですね。領地には護衛兵はいるのですか?」
驚愕の表情を浮かべる、アゲート子爵。
この分だと、私兵は持っていないな。子爵位だし、そんな余裕もないのだろう。
「いや……。食料を分けて貰いに来ただけなのだ。そこで行き違いがあり、無能な部下が、奴隷達に手を上げてしまってだな……」
呆れて物が言えない。言い訳にしても苦しすぎる。
「とにかく、王城に鳥を飛ばしました。二~三日で帰って来ると思います。それまでは、この地でごゆるりと過ごしてください。
最近は雪が降り始めたので、風邪をひかぬように気を付けてください。まあ、夜になれば分かります」
「待て! 決闘だ! 決闘を申し込む!!」
何を言っているのだ、この者は。軽蔑の視線を送る。
「私は、子爵家の全財産を掛けよう。そして、私が勝てば、今回の件は不問でどうだ?」
ため息しか出ない。盗賊まがいのことをしたのだ。爵位剥奪は免れないだろうに。
この決闘を受ける理由がないのは明白だ。
だが、ここでエリカが意外なことを言い出した。
「エヴィ様。受けてもよろしいかと。爵位と領地没収は決まっていますが、その領地を誰が納めるかまでは決まっていないわ。
ここで子爵位を譲り受け、飛び地になりますが、ヘリオドール家の領土を広げてもよろしいかと」
確かに、このまま開拓村を広げて行っても準男爵から男爵、そして子爵になるだけだ。子爵になる条件も『一定の税』と曖昧だし、国王陛下が何時僕を認めてくれるのかも分かっていない。
一気に爵位を上げられるのであれば、エリカの予言通りになるかもしれないな。
「良いだろう。受けて立とう」
僕の言葉を聞いて、アゲート子爵が嗤う。
「それでは、こちらからは、このローブを纏た男を出させて貰う」
自分自身で決闘に応じないのか。まあ良いが。
奇襲とは言え、僕の魔法に手も足も出なかった者である。
「坊ちゃま。ここは私が……」
「いや、問題ない。僕が受けよう」
ここで過去のトラウマを払拭しよう。最終武器を得て僕は変わったのだと、内外に知らせるのだ。
そんなことを考えている時であった。
「それでは、その決闘は、自分が立会人になろう」
声の方向を見る。騎士然とした男が、そこにはいた。
見たことのない人物だ。
そして、僕の生命感知に引っ掛からずに、忽然と姿を現した。実力者であることが伺える。
しかし、誰だろう?
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