第21話 迷宮2
ダンジョンボスの部屋に全員で入った。
緊張が走るが、ここで引き返すわけにはいかない。ここで取れる報酬……、あの魔導書を欲しているのは、他でもない僕なのだ。
入り口の扉が閉まった。
僕の光魔法で部屋全体を照らしているのだが、魔物は何処にもいない。
全員の背中を合わせて、円陣を組む。
体感的に一分くらいだろうか? 警戒しながら待つが、何も変化が起きなかった。
「……エリカ。大きな昆虫と言っていたが、どうなっているのだ?」
「サソリが、一匹出て来るはずなのだけど、何かがおかしいわね」
この数日、エリカの未来視に変化が訪れている。
エリカが事前に予知出来ない情報が、増えて来ているのだ。
盗賊や、ダンジョンの入り口をカモフラージュされていたのである。何者かの介入が予想されるとも言っていた。
まあ、ジークフリートではなのだろうが。
そんなことを考えていると、部屋の中央で何かが光った。
魔力が集まって行くのが分かる。
その光に対して、再度隊列を組みなおす。
レガートが盾役で最前列。二列目に、セバスチャンとエリカ。僕は最後方で回復役と土魔法によるデバフを与える。
だが、予想外のことが起きた。
「なあ、エリカ。小さくないか? それに弱々しいと言うか、瀕死に見えるのだが……」
「……」
そこには、ほぼ動けない、通常の大きさのサソリがいた。事前情報では、『巨大な昆虫』だったのだが。
エリカが、無言で近づく。
──プチ、グリグリ
……踏み潰してしまった。
そして、入って来た入り口の対になる扉が開いた。
え? ダンジョンボスは、これで終わり?
「……行きましょうか」
エリカが先導して、次の扉を潜る。僕達は後に続いた。
◇
ボス部屋を抜けると、小さな部屋に祭壇のような物があるだけだった。
他は何もない。
「……もぬけの殻か。わざわざ痕跡を残す必要があったわけでもないのにな」
エリカが、独り言を呟いた。
周りを見ると、確かに地面に何かしらの痕跡があった。僕達が初めて来たわけではないのだな。
ただし、時期は分からないので、冒険者かもしれないと、僕は思う。
まあ、良い。
多分だが、あの祭壇に魔導書があるはずだ。それも、僕にしか取れない魔導書が。
僕がその祭壇に近づくと、祭壇が光り、そして崩れ落ちた。
そして、祭壇の中から魔導書が出て来た、夢の中で見た魔導書そのままだ。
魔導書を手に取り、ページを開く。だが、中身は白紙であった。
ここで、僕は二枚の紙を取り出した。夢で見た、魔法の構築式が掛かれた紙である。
魔導書が光ったかと思うと、魔導書には、魔法の構築式が写し取られていた。
それも、解説付きでより詳しく……。
感覚で分かる。今まで使っていた回復魔法の強化版だ。手足欠損ですら治せそうだ。
次のページには、器用さ向上の魔法が記載されている。こちらは、バフ効果として十分すぎるほどの効果が期待出来る。
「目的の魔導書も手に入りましたし、急いで帰りましょか」
僕は、結構感動していたのだが、エリカが水を差して来た。もう少し、余韻に浸っていたかったのだが。
だが、エリカは何かを焦っている。
「何か問題が、あるのか?」
「まず、あのタイミングで盗賊が現れたのが、明らかな異常ね。
そして、ダンジョン入り口工作は人為的なもの。ダンジョンボスの弱体化は、倒されて間もないと推測されるわ。
誰かがここまで来たのだけれど、魔導書は取れなかった……。そうなると、次は私達が不在の開拓村が狙われる……。予想ですけどね」
僕達の直前に誰かが来ていた? 確かにこの部屋には何かが置かれていた痕跡は残っている。盗賊と入り口の工作も妨害ととれる。
一応の理由は分かるが、納得は出来ないな。
まあ、目的の魔導書を取れたので帰るしかないのだけど。
ここでエリカが、カバンから何かを取り出した。
「それは、『帰還石』ですかい?」
レガートの質問に、エリカが首を縦に振り肯定した。
魔道具の帰還石とは、事前に決めておいた場所に、一瞬で戻ることの出来るアイテムである。
戦場で大量に消費されるので、一般にはまず出回らない。
それを、なぜかエリカが持っている。
「高級品なのではないか? それをここで使用するのは、もったいない気がするのだが」
「私は、開拓村へ来る前にジークと同じことをしていたのよ。まあ、強奪はしなかったけどね。
王都にある帰還石は、計十個。そのうち二つを私が取ったの。
予備はあるので、ここで使うわ」
市場価値の付かない高級品である。売れないので持っていたみたいだが、今が使いどころなのかは疑問が残る。
その直後、僕の制止を聞くこともなく、エリカが帰還石を使った。
帰還石から白い光が放たれて、僕達を包む……。
◇
気が付くと、開拓村の村長宅の庭にいた。帰還石とは、本当に便利な物である。
便利すぎるので、量産化されると、悪用されるのが目に浮かぶ。対策案が出来るまで、使用者限定の方が良いのだろうな。
そんなことを考えていると、村民の悲鳴が聞こえた。
怒鳴り声も混じっている。
「急ぎましょう!」
エリカがそう言うと走り出した。セバスチャンとレガート、僕も続く。
エリカの予知ではないな、予測が当たったのかもしれない。
何が起きているかは分からないが、シルビアが心配だ。
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