第32話 決闘の判決

 パワードスーツを取るための準備をしていると、王都から使者が来た。

 アゲート子爵の件だ。

 村民総出で出迎えて、敬礼する。


「私は、行政大臣のペリル侯爵だ。アゲート子爵の狼藉の件、ご苦労であった。

 王城で協議した結果を伝えに来た」


「っは! 謹んでお受けいたします」


「アゲート子爵は、隠居させる。その家の令嬢に家督を継がせてアゲート子爵家は存続させることに決まった。

 また、アゲート子爵が持つ穀物や家畜などの食料の備蓄を王家が接収し、領民に分け与えることを罰とした。

 財産に関しては、没収は行わない。

 不満があるだろうが、これは国王陛下と共に決めた内容なので受けて貰う」


 ザワザワし出した。

 アゲート子爵家は取り潰しで、財産はヘリオドール侯爵家に譲渡ではなかったのか?

 決闘の結果だぞ?

 だが、王命である。


「っは! 謹んでお受けいたします」


「うむ。そなたの懐の深さ、感謝する。それと、二年後にエヴィ殿を伯爵にすることが決まった。

 それまでは、開拓村で頑張って欲しい」


 開拓村で税収が取れるようになれば、子爵位だったのだが、上の伯爵位の確約か。

 しかも、二年後と時期まで決めてくれた。

 まあ、不満はない。


「っは! 一層の精進をお約束いたします」


 エリカを含めて、村民は皆不満そうだ。特に、シルビアが怒っている……。

 その後、村長宅で詳細を聞くことになった。





「すまん。本当であれば、アゲート子爵家の全財産をエヴィ殿に譲渡すべきだったのだが、国王陛下が反対されてな……」


 何時もの四人と、ペリル公爵の五人でテーブルを囲むと、頭を下げられた。


「経緯を教えて貰えますか? 余りにも不自然です。決闘で全財産を賭けたのに没収を行わないなんて」


「うむ……。まず、アゲート子爵領なのだが、食料不足が深刻でな。領民が逃げてしまっている。

 本来であれば、エヴィ殿に領地を務めて貰うのだが、飛び地となり経営が困難になると、国王陛下が反対なされたのだ。

 それで、アゲート子爵家が、確保している食料を領民に放出して、税を軽減することで不満を抑えることにした。

 それと、アゲート子爵家には才媛がいるのだ。魔法学園に通っていてな。王都中にその名が知れ渡っている。

 その者を、庶民に落とすよりは、家督を継がせたいとの意向だ」


 それほどの才媛か。まあ、僕は伯爵位を貰えるので不満はない。

 土竜爪と魔導書もあるし、別の土地に移されても、領地経営は難しくないだろう。

 ここで、セバスチャンが口を開いた。


「ヘリオドール侯爵は、抗議なされなかったのですか?」


「うむ。もちろん抗議して来た。エヴィ殿の兄上もだ。飛び地になるのであれば、兄を領主代理とすべきだとな。

 だが、アゲート子爵の才媛が呼ばれて、家宝の魔道具を持って来たのだ。

 その効果を見ると、ヘリオドール侯爵は引き下がった。使い方がとても特殊で、アゲート子爵家の才媛が定期的に発動することで合意してしまった」


 あの父上を黙らせるほどの魔道具か。興味あるな。

 ここで、エリカが割り込んで来た。


「それは、どの様な魔道具なのですか?」


「風を操る魔道具だ。ここだけの話にして欲しいのだが、帝国の天候魔法対策になりえる。

 それと、水を気化させて特定の場所に雨を降らせる実演もした。

 その魔道具を宮廷魔術師達が使ったのだが、誰もアゲート子爵家の才媛ほどの効果は生み出せなかったので、このような結果になってしまった」


 エリカを見ると、首を横に振った。

 エリカの知識にない魔道具ということか。

 そして、父上は帝国対策に口を挟む権限を得られたらしい。これではアゲート子爵の財産没収を諦めても無理はないだろう。

 まあ、父上が納得したのであれば、僕は何も言うことがない。


「……スピネル伯爵家は、何か関与していましたか?」


「アゲートの相談に乗っただけだな。無関係と言って良い。だが、そうだな。アゲート家の才媛とスピネル伯爵家の令嬢が親友とのことだ。

 共に魔法学園に通っている」


 スピネル伯爵家が、黒幕ではないのか? 家同士が仲が良く、令嬢が友人同士……。それは良い。だが、結果だけ見れば、その令嬢達が誘導したとも取れる。

 いや、考えすぎだな。今回の件は、アゲートの独断の線が濃厚だろう。

 エリカの未来視も万能ではない。黒幕はいなかったと思おう。


「経緯は分かりました。お受けすると国王陛下にお伝えください」


「うむ。礼を言う」


 こうして、ペリル侯爵が帰って行った。

 後日、父上から手紙が届いた。ペリル公爵が話した内容と同じことが書かれていたので、裏も取れた。

 返信として、『僕に不満はありません』と書いておいたので、これでアゲート子爵の件は終わることになった。


 だけど、エリカが考え出してしまった。

 エリカの知る歴史とは異なっているのかもしれないが、最終武器と思われる魔道具が新しく現れたので情報収集したいとのことだ。

 魔法を使い、かなりの数の炎の鳥を飛ばしている。ああやって、情報を集めていたのだな。


 それと、シルビアである。

 とても怒っている……。どうしたら良いのだろうか。

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