第15話 再度開拓村へ
「エリカ。その魔道具は何に使うのだ?」
僕達は、開拓村への帰路についていた。
実家に一晩泊っただけで、開拓村へ戻ることにしたのだ。数日はいても良かったかもしれないが、領主代理という立場もある。
片道数日かかるのもあるし、この四人が抜けると、指示を出す人間がいなくなる。
大きな問題は起きないと思うが、小さな問題は起きていると思う。
こうなると、領主代理補佐を決めておいた方が良いかもしれないな。村民百人は、全員が労働奴隷だ。経緯は知らないが、借金であったり、犯罪などを犯した人達である。教養がある人が含まれていることを祈ろう。
「この魔道具は、帝国の天候魔法対策になります。冬の間に使って、夏の水不足を解消しましょう」
おっと、余計なことを考えてしまった。
今は、エリカに質問している最中であった。
「そうなのか? 帝国に天候魔法を使わせないことが、最優先になるのではないか?」
「帝国は、必ず来年も天候魔法を発動させます。周辺国……、連邦と王国だけでも水不足を解消させましょう。そうすれば、二年後には使わなくなります」
何時もながら、意味が分からない。帝国の天候魔法は、かなり便利な魔法なのだ。帝国は、今後毎年使うと思うのだが。
「どうして使わなくなるのだ?」
「……天候魔法には、リスクがあります。そして、弱点も。それと、戦争へのきっかけにもなりえるので。
今は、来年の不作対策をすれば良いだけね」
リスクねぇ……。そして戦争か。
連邦と王国が、不作で食糧不足に陥った時に帝国が攻めて来るのか? 単純すぎる気もする。
まあ、この魔道具次第だが、今のところは従おう。
「坊ちゃま。そろそろ一度休憩を致しましょう。馬も疲れて来ています」
セバスチャンが、会話を遮って来た。
「そうか。では、休憩と食事にしようか。しかし、盗賊がいないと移動も楽だな」
◇
馬に水を与える。とても良く飲んでくれている。そして、草を食べ始めた。
今は三頭の馬を飼っているが、父上から頂いた駿馬だ。今後、開拓村で加工品が出来れば、街まで運ぶ必要がある。
その時に活躍して貰う必要があるので、無理に乗り潰すことはせずに大事に扱って行きたいと思う。
街道の端で、お茶を飲んでいると、エリカが街道の先を見ていた。
土煙が上がっているので、馬車がこちらに向かって来ているのだろう。大所帯ではないと思うが、護衛も含めると十数人くらいの規模になると思う。
「エリカ。何かあるか?」
「……あの馬車は、商人の一団ですね。他国から来たのかな?
食料と水を与えると、今後必要になる物が貰えるわね」
水は良い。僕が魔法で生み出せる。だが食料は、保存食の塩パンと干し肉しかないぞ? あと、少量の乾燥野菜くらいだ。
侯爵家と男爵家に献上してしまったので、本当に余り物くらいしかないのだが。
街道をすれ違うように、馬車を端に寄せる。そんな時であった。
「お待ちを。唐突で悪いのですが、食料と水を売って貰えないでしょうか?」
唖然としてしまう。エリカの言った通りだ。
相手を見ると、疲労困憊と言った感じだ。怪我を負っている者もいる。
本当に困っていそうだ。助けない理由もない。
「少ないですが、お譲りしましょう。水は、魔法で生み出すのですがよろしいでしょうか?」
◇
商人の一団は、泣きながらパンと干し肉を食べていた。とりあえず、水を桶一杯に生み出したのだが、これだけでは何か申し訳ない気がした。そこで、父上から貰ったワインを開ける。
来客用の値打ち物だが、僕は飲まないし、開拓村に貴族が来るとも思えない。
コップにワインを注いで、シルビアが商人達に渡して行く。
「こ、この銘柄は!」
商人なのだからだろうか? 瓶は見せなかったのだが、匂いと味で銘柄が分かるのだな。
少ない量であったが、全員の食事が終わった。
セバスチャンには、馬の世話を指示している。馬も疲れていそうだが、これならば、近くのボールター男爵領までは持つであろう。
「何とお礼を言って良いか。自己紹介が遅れましたが、私は商会を束ねるギザールと言います」
「僕は、エヴィです。エヴィ・ヘリオドール僻地伯です。それにしても何があったのですか?」
「盗賊に襲われて……。食料を積んだ馬車のみ奪われてしまいました。携帯していた保存食で何とか凌いでいたのですが、もう本当に限界でした。それと、僻地伯様ですか……」
首を傾げてしまう。
「馬車二台ありますが、そちらは奪われなかったのですか?」
「はい。この二台には道具類を積んでいたのですが、中身を知られると見向きもされませんでした」
変な盗賊もいたものだな。何となくだが違和感を感じてしまう。
「まあ、災難でしたね。でも、命あっての物種ですし、助かっただけ良かったかと」
「そうですな。死者が出なかったのが幸いでした」
全員怪我していそうだが、動けない者はいない。サービスで回復魔法を施しても良いが、時間の無駄かもしれないな。
いや、これだけの人数がいるのだ。回復魔法を使える者がいても不思議ではない。
今日は、食料の提供だけで良いだろう。
「それで、食料の代金なのですが……」
「う~ん。大した物でもないし、無料で良いですよ。でも、そうですね。ヘリオドール侯爵家と懇意にしてくれると嬉しいかもしれません」
驚く、ギザールさん。
「もう、五日も飲まず食わずで、馬も休みながらでないと動かない状況でした……。このご恩生涯忘れませぬ」
ギザールさんと商人達が頭を下げて来た。
本当に追い詰められていたのだな。助けて良かったと思える。
隣を見ると、セバスチャンとシルビアは、満面の笑みだ。
だけど、ここでエリカが口を開いた。
「少し物資を分けて貰ってもよろしいでしょうか? 私達にも手に入らない物があるので」
そいえば、『今後必要になる物』が貰えると言っていたか。
「ええ。何でも持って行ってください。馬車を漁って貰っても構いませぬ」
「それでは、大盾と予備の重装備一式を頂けるかしら?」
商人達は驚いている。なぜ、予備の重装備があることを知っているのだろうか。
というか、エリカは、自分が転生者だと言うことを隠す気がない。
何か考えがあるのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます