第16話 シルビア1

◆シルビア視点



 今私は、馬りに乗り街道を進んでいる。エヴィ様の護衛です。

 エヴィ様を見ると、エリカ嬢と仲良く歓談している……。元婚約者。そう、今は何の関係もない女性がエヴィ様の隣を独占しているのだ。

 悔しい。正直、とても悔しいです。


 昔を思い出します。

 五年前のあの日、両親が亡くなったと連絡が来て、お爺様は、瀕死の重傷を負っていました。

 私は、何も出来ずに泣くことしか出来きませんでした。

 でも、エヴィ様は違う。

 侯爵様に異議を唱えて、お爺様を庇ってくれたのだ。

 その雄姿は、今も瞼の裏に焼き付いています。


 その後、お爺様に回復魔法を施し、毎日限界まで魔力を使い続けてくれた。

 常識的に考えてありえない。

 平民に落とされたお爺様を、貴族令息が手当てするなど。

 私には、エヴィ様のお考えが理解出来ませんでした。

 そして半年後、お爺様は、あの大怪我を完治させてしまいました。そして、エヴィ様専属の執事に。

 私も決めました。


 エヴィ様に人生を捧げよう。


 大して揉めることもなく、私はエヴィ様専属のメイドになり、お世話をする日々が始まりました。

 剣の素振りを止めてしまい、日に日に横に成長なされて行く、エヴィ様。

 屋敷の者達の間でも、悪い噂が立ち始めました。

 だけど、それがなんなのでしょうか?

 見た目が変わっても、エヴィ様の優しい性格は変わりません。

 外見で人を判断する人達の思考が、私には理解出来ませんでした。

 いえ、分かっています。私はエヴィ様に恋をしているのだと。だから盲目的にエヴィ様を擁護する立場を取ろうとしているのだと……。


 エヴィ様が、十五歳になり婚約の話が来ました。

 当たり前ですよね。侯爵家の次男なのですから。

 婚約者のエリカ嬢は、終始無表情なのでエヴィ様をどう思っているかは理解出来ませんでした。

 ただし、貧乏貴族の四女と聞きました。借金の棒引きに婚約を受け入れたとも。

 醜い私が顔を出します。


 この婚約は、家の事情なのだ。まだ、私にも、チャンスは、ある、は……ず。


 嫉妬なのでしょうね。自分が嫌になります。

 何事もないように、エヴィ様とエリカ嬢を学園に送り出す日々が始まりました。

 醜い私を抑えつつ、メイドの仕事を熟して行きます。

 そして、日課の弓術の訓練……。力が入りすぎ、的に当たりませんでした。

 いえ、集中出来ていないだけですね。深呼吸して、気持ちを落ち着かせます。

 独りで訓練していて良かった。お爺様が見ていたらなんて言われたか。


 そして、あの日が来ました。エヴィ様が大怪我を負って帰って来た……。

 私は慌てません。これからは、私がエヴィ様の全てのお世話をするのだ。密かに訓練していた光魔法の出番でもあります。熟練度は低いままですが。

 詳しく話を聞くと、エリカ嬢との婚約は破棄されたらしいです。

 そして、開拓村への追放の話まで来ました。


 ……嬉しかった。


 もう、エヴィ様に近寄る若い女性は、私しかいない。

 正直、醜いです。自分で自分が嫌になります。

 エヴィ様が苦しんでいるのに、私はこの後のことを想像して喜んでいる……。


 そして、開拓村へ。

 エヴィ様が動けるようになるまで、五日しかかからなかった。正直、魔法の才能がありすぎです。

 私は、光魔法のみ使えますが、その効果はエヴィ様の足元にも及びません。

 そして、単属性の光魔法持ちは、セレナ教国で保護されていることも知っています。

 闇属性の魔導師が、世界を脅かした時に打ち負かした聖女。その後継を探しているためです。

 私は、自分の魔法をひた隠しにして生きて来ました。お爺様と私だけの秘密です。

 魔法は、人前で使えないので熟練度も低いままでした。


 でも、エヴィ様と一緒に過ごせる日々。エヴィ様は、私の弓の腕を賞賛してくれている。

 私は、これからなのだと、そう思えた時でした。

 エリカ嬢が、再び現れました。

 そして、エヴィ様との密談の日々が始まりました。エヴィ様に魔道具と知識を与えて、活躍の場を提供している。


 エヴィ様は、誰にでも優しい人です。

 そして気が付きました。エリカ嬢とエヴィ様は、ビジネスパートナーのような関係なのだと。

 エヴィ様にエリカ嬢への恋愛感情はない。女の勘がそう言っています。


 後は、私次第です。

 エヴィ様が手を取るのは、私以外にいないはず。

 この運命を必ず掴むと、そう決意する私が、そこにはいました。

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