第13話 帰郷2
全員で室内に移動して、歓談となった。
だが、先に聞かなければならないことがある。
とりあえず、侯爵家というか、国の状態の確認からだ。
エリカの話では、二年間は不作が続くらしい。今はその一年目だ。
「父上、不作の理由を教えてください」
「うむ。干ばつだ。雨が極端に降らずに川が干上がった。これは、周辺国でも同じだ。
だが、帝国のみ雨が降ったとも連絡を受けている。
原因なのだが、どうやら帝国が天候魔法を使ったようなのだ」
「天候魔法? 聞いたことがありませんね。どんな術式なのだろうか……。
水魔法で水を生み出すのとは、異なるのですか?」
「うむ。今年から使用し始めたらしい。どうやら、広範囲から雨雲を集めて一ヵ所に雨を降らす魔法らしい。
周辺国は、その影響を受けているようなのだ」
エリカを見ると、頷いた。
帝国に放った密偵の情報になるのかな? いや、帝国は隠す気がないのかもしれない。
「なるほど……。その認識で合っているみたいです。
それにしても、天候魔法ですか。自分だけ潤えば良いというのは、帝国らしい考え方なのですが、周辺国には迷惑ですね」
「そう、そうなのだ。それで、我がロードクロサイト王国からは、正式に抗議文書を送った。
だが、受け入れて貰えなかったそうだ。返書には、『王国も天候魔法を使えば良い』と書かれていた……」
父上は、落胆している。
ヘリオドール家は騎士の家系である。この問題は、魔導師の家が対応しなければならない。
父上は、この問題に加われないのが、悔しいのだろう。手を固く握っている。
領民が苦しんでいるのだが、手が出せないのは苦しいだろうな。
その後、食事となった。この家にいた時に僕がとっていた食事そのままだ。父上も無理して出してくれたのだろう。ここは、黙って頂くことにする。
今日だけは、セバスとシルビア、そしてエリカにも一緒に食べて貰う。
それは、父上と母上からも異論は出なかった。
この数ヵ月の開拓村で行ったことを話題にして、その日は大いに盛り上がった。
「そうか、エヴィは魔法が得意なのだな。魔法学園に通いたかっただろうに……」
「いえ。魔法学園に行けば、家名に泥を塗ります。それが分かっていたので、騎士学園に自ら進んだのです。
魔法は、学園卒業後に学べば良いと思っていました」
父上は泣きそうだ。
そんな父上を見て、母上が口を開いた。
「エヴィ。魔法学園の教科書や魔導書を取り寄せましょうか? それぐらいはさせてください」
「いいえ、僕にはエリカというとても良い教師がいますので、今のところは不要です」
全員がエリカを見るが、エリカの表情は崩れない。
それと、セバスチャンとシルビアが、少し悔しそうだ。
ここで、エリカが話し始めた。
「エヴィ様に魔導書は不要ですね。それよりも、また譲って戴きたい物がありますので、宝物庫に案内して頂けますか?」
父上と母上が固まった。
前回は、どんな状況だったのだろうか?
◇
全員で、ヘリオドール家の宝物庫に移動となった。
宝物庫の前で、全員が止まった。
なんでも、魔法による結界が施されているらしい。使用人の魔導師と父上が解除に手間取っている。
──パキン
乾いた音がしたと思ったら、ドアが開いた。
「……ふう。さて行こうか」
父上がそう言うと、エリカが真っ先に足を踏み入れた。
僕も慌てて付いて行く。
宝物庫は、武器と防具で溢れていた。まあ、騎士の家系なのである。当然と言えば、当然か。
エリカは、そんな豪華絢爛な装備などは見ずに、片隅にある古い収納家具の前で何かを選んでいる。
「父上、あの収納家具には何が入っているのですか?」
「うむ。少し待て。あの家具に入っている物はかなり古いので、私も覚えていないのだ」
入り口に本が置いてあった。それを父上が取りページをめくっている。あれは、この部屋の目録一覧なのだろうな。
「これを頂きたいですわ」
父上が、ビクッとし、一瞬痙攣したかのような挙動を取った。それと、汗が噴き出ている。
エリカの未来視には、毎回驚かされる。他人の家の宝物庫の中身を知っているなど、誰も理解出来ないであろう。
父上が、少し可哀そうである。
僕は、エリカの持って来た物を見た。
「……今回は、それだけで良いのか?」
「これと、鍬などの農耕道具、それと布などが欲しいわね。
そうすれば、来年も乗り越えられるでしょう」
ため息が出る。
未来視持ちの相手は、疲れるな。
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