第12話 帰郷1

 冬直前になり、麦の収穫が出来た。エリカさまさまである。

 そして僕は、『光魔法:発光』を覚えた。植物の成長用に覚えたのだが、今後使い道があるのだそうだ。

 村民総出で収穫を行い、半分を小麦粉にした。これだけでも結構な収穫量だ。小麦粉にしなかった麦は、そのまま保存して、越冬後に使い方を考えれば良い。

 そして、村民は皆笑顔だ。僕も幸せな気持ちになる。


 その日は、収穫祭となった。


 そろそろ、本格的な冬の季節になって来た。

 開拓村は、一蓮托生だ。一人抜けただけでも、全体の仕事に支障が出る場合もある。

 薬は作れないが、シルビアの回復魔法もかなりの熟練度となり、怪我人も病人もいない。

 逃げ出す者がいない……、これこそが、開拓が進んだ一番の理由かもしれないな。


 冬場は、麦わらを使用した工芸品や毛皮の加工、家畜の世話などで過ごすらしい。

 寒さが厳しい土地なので、あまり家からは出れないのだが、食料は豊富にある。

 今年の越冬は、それほど厳しいものではないだろう。


 僕は、収穫物の量と、一日の一人頭の食事量の計算を始めた。

 少なすぎてもダメ。多すぎてもダメ。今までの食事量からこの冬に必要な量を計算した。


「……かなり余るな」


 干し肉も小麦粉も、乾燥させた野菜さえ、十分すぎるほどにある。

 毛皮も加工すれば、防寒具になるが、一人十着ぐらいは余裕で作れる。これらは、街で売りたいが、一年後の秋になるだろう。

 ここで、思案してしまう。余分な分は、父上に税として献上してしまうか?

 多少の功績にはなるはずだ。

 とりあえず、エリカに聞いてみるか。


「エリカ。食料が大分余っている。税として納めても良いか?」


「う~ん。そうね。実は、今国中で不作にあえいでいます。

 製粉前の麦と干し肉を持って行けば、喜ばれるでしょう。でも、献上ではなくて、売り払っても良いかもしれませんね?」


 不作? ここには、外部の情報など入って来ない。エリカの未来視かな?

 国中が物資不足なら、多少の金貨には変えられるだろう。それで、開拓村に必要な道具を買うのも良い。

 開拓村に来て、一年未満なのである。父上も文句は言わないであろう。

 いや、利己的すぎるな。


「エリカ。侯爵家と男爵家に食料を献上する。セバスとシルビアは護衛として着いて来てくれ!」


「「「っは!」」」


 一応は追放と言う形だが、開拓村から出てはいけないとは言われていない。まあ、王都に行く気はないが。

 こうして、一時帰郷となった。





 大量の物資を乗せた馬車が、護衛の二騎と共に街道を走る。


収納ストレージ持ちがいれば、楽なのだけれどね。それと、転移とかかな……」


 エリカが呟いた。

 今は、馬車の御者を僕が担っている。エリカは、隣で休んで貰っている。途中で交代予定だ。


収納ストレージか。空間魔導師は、手厚く保護されているからな」


「では、マジックバッグなどが欲しいわね」


「まあ、そうだが……。高いぞ?」


 無表情のエリカが、微笑んでいる。最近だが、表情の微妙な変化を感じ取れるようになって来た。

 何か企んでいるのかもしれないな。


 街道を進む。この辺は、盗賊が多い。一応、土魔法を展開し、探索まがいのことを行う。生命力の溢れる森であれば、生命力を感知出来るのであるが、開けた街道となると視認出来る距離くらいの範囲しか感知出来ない。

 まあ、死角も感知出来るのでないよりはましだろう。

 セバスチャンとシルビアも警戒態勢に入った。


「あ、盗賊は大丈夫よ。騎士団にアジトの位置を密告したので、今この街道には盗賊はおりません」


 驚愕の表情でエリカを見る。


「何で知っているんだ?」


「シナリオの最後の方で、盗賊の襲撃イベントがあるの。事前にフラグをへし折っただけよ?」


 エリカが怖いと思えた……。これが、転生者か。

 ジークフリートもこうなのだろうか?





 まず、近かったのでボールター男爵家に寄り、麦と干し肉を献上した。

 エリカの父親が、出迎えてくれた。


「少量で申し訳ございませんが、お納めください」


「エリカを養って頂き、また、不作の今、食料を分けてくれるなど。この御恩、生涯忘れませぬ」


 エリカの父親……ボールター男爵が、頭を下げて来た。

 エリカは、家族と熱い抱擁を行っていた。家族仲は良さそうだな。

 簡単な挨拶を済ませて、次にヘリオドール侯爵家に向かった。


 屋敷に着くと、衛兵が僕達を止めた。


「止まれ何者だ!」


 帽子を取り、紅い髪を見せる。衛兵は気が付いたようだ。


「まさか、エヴィ様!?」


 まさかでなくても、僕ですよ。開拓村で痩せて来ました。


「父上に会いに来た。それと少ないが献上品も持って来ている。取次ぎを頼めるか?」


「は、っは!」


 敬礼して、衛兵は走り出して屋敷に入って行った。

 すぐに、父上と母上が駆け付けた。

 挨拶もない。そのまま抱きしめられる。何時もながら思う。僕は親に恵まれた。


「父上、母上。わずかですが、食料に余裕が出来ましたので、お持ちしました。お納めください」


「エヴィ。今この国の状況を知っているのか?」


「いいえ。この数か月は、開拓村より出ておりませんので……。それでも、不作とは聞いております」


「うむ。今この国は、不作で困っておる。わずかでも食料を持って来てくれたこと、感謝するぞ」


 今回も、エリカの言った通りになった。


「領民に分け与えてください。少しでも、領民の不満の解消になれば、これほど幸せなこともありません」


 父上と母上は、涙を流していた。

 今日はこのまま、屋敷に泊まる。

 ちなみに妹は、幼年学校の寮にいるので不在だ。兄上は、王都で勤務中。


 セバスとシルビアは、昔の同僚と挨拶をしている。

 そしてエリカは、僕のそばから離れなかった。

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