第11話 痩せた?

 水魔法:水流操作


 魔法で地下水を汲み上げる。そして、目の前に置かれた桶百個に入れて行く。

 これが、僕の朝の日課になってしまった。

 井戸を増やしたとはいえ、釣る瓶式で井戸の水をくみ上げると、数時間かかってしまっていた。

 百人の小さな村とは言え、必要な水の量は多い。

 縄が切れた時など、丸一日かけての修復だったらしい。これでは、開拓など進まなかっただろう。


 食事は、朝と晩の二食になった。

 以前は、一日に一食だったとか。それも芋一個とか……。

 餓死者も出ていたらしい。


 畑に関しては、エリカが火魔法を使い植物の成長を促進させてくれるとのことだ。

 場合により、僕の光魔法も必要になるらしい。でも、僕の光魔法は、回復しか使えない。特訓が必要だな。新しい魔法を覚える必要があるとも言われた。

 簡単に覚えられる魔法なのだろうか? まあ、エリカが教えてくれるみたいなので、大丈夫であろう。


 それと、エリカからシルビアに光魔法を用いた回復魔法の練習を行うように指示が出た。

 かなり後になるが、シルビア一人の時に重症人が現れるらしい。その時、僕はいないのだそうだ。

 歴史を捻じ曲げてしまったのは、ジークフリートであり、僕がいるとシルビアの回復魔法の習得が遅れるらしい。

 疑問もあるが、ここはシルビアにも納得して貰い、村民の怪我の治療に当たって貰った。教国に知られない対策も必要そうだったが、なんでももう無理なのだそうだ。なので、僕が守るしかないとも言われた。

 そして、その話を聞いてシルビアはとてもやる気を出している。

 隠れて使っていた魔法を、人目を気にせずに使えるのである。その気持ちは、僕にも分かる。


 開拓村はエリカに任せて、僕とセバスチャンは、今日も害獣駆除だ。

 魔道具の土竜爪は、とても使い勝手が良い。本来の性能は、地面を掘り地下を自由に移動するだけらしいのだが、地面を柔らかくしたり、砂に変えるなども出来るようになった。

 こうなると、熊などの大型の魔物は、僕一人でも拘束出来るようになっていた。罠を事前に作っているだけだが。


 害獣となる魔物の気配は、数十日で開拓村から消えてしまった。取りすぎかもしれないが、冬目前なので、食料になって貰う。

 燻製にして、冬を越すのには十分な量の肉が手に入った。

 麦も無事に育っている。冬前にはなんとか収穫出来るであろう。

 それと、兎や鶏などの家畜も増えて来た。こちらは、飼育小屋の拡張が必要である。冬に入ってから建築を行うことで合意した。


 過酷な開拓村の生活を想像していたのだが、優秀な部下がいるとそうでもないのだな。

 あと、最終武器と呼ばれている土竜爪か。

 ヘリオドール侯爵家に、なんでこんなに有用な物が眠っていたのだろうか?





 日が暮れて、セバスチャンとシルビア、エリカとの夕食だ。今日も一日良く働いた。テーブルを四人で囲む。


「エヴィ様。ここの食事には慣れましたか?」


 エリカが、突然問いかけて来た。


「ん? ああ、僕は量があれば、とりあえず不満はない。美味しいとさえ思うぞ。実家の食事よりも美味しいかもしれないな」


 侯爵家時代、セバスチャンとシルビアは、僕とは違う使用人用の食事をとっていた。また、エリカは貧乏男爵家の出だ。

 この開拓村では、僕だけが質の高い食事をとっていたことになる。

 でも、正直食事は、手を掛けて味を変えてくれているので不満はない。

 シルビアとエリカが、交互に調理当番を引き受けてくれるが、正直美味しいとさえ思う。


 今日の食事当番は、エリカだ。全て平らげたので食器をかたづけてくれた。相変わらず無表情だが、喜んでいることは分かるようになって来た。

 それを見たシルビアが、対抗心を燃やしていることも……。


「まあ、何と言うか。順調すぎて怖いな。三人がいなかったら、餓死していたかもしれないな。まあ、僕は脂肪の蓄えがあるので一番最後だろうがな」


 自虐ネタと部下を労う言葉をかける。三人は笑顔だ。


「エヴィ様。服装が体型と合わなくなってこられましたね。明日は、予備の服を手直し致しますね」


 シルビアが、笑顔で返して来た。


「何の話だ? 服は、そんなに汚れていないぞ?」


「坊ちゃま。大分痩せられましたな。まあ、毎日野山を駆け回っているのです。そして、ここでの質素な食事。

 もう誰も、坊ちゃまをオークなどと呼ばないでしょうな」


 ハッとする。

 顎に手を当てる。首があった。いや、なかったわけではなく、脂肪で頭と胴が繋がっていたのだが、くびれが出来ていた。

 そういえば、腹も大分凹んでいる。ズボンもブカブカであり、ベルトで調整している。

 そうか、僕は痩せたのか。

 騎士学園時代は、目立たぬように出来るだけ動かなかったのだが、開拓村で朝から晩まで働くと痩せられるのか……。

 全てが良い方向に向かっている気がする。


「そうだな。服の仕立てを頼む。それと、裁縫が出来るのであれば、村民の服も頼みたいところだな」


「防寒着は、毛皮をなめしているので、随時作成中です。家も土で出来たかまくらですが、冬の寒さを乗り切るには十分でしょう」


「そうなると、冬はすることがないな。また、太りそうだ」


 自虐ネタを入れてみる。


「いいえ。冬場は、次の最終武器を取りに行きましょう。まずは、エヴィ様専用の魔導書からね」


 エリカが反応した。

 ああ……、あれか。ジークフリートに切られた時に夢で見た魔導書か。

 あれは、欲しいかもしれない。

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