第10話 最終武器1-土竜爪

「もう一つ聞きたい。この先、重要なアイテムの中に魔導書はないか?」


 ジークフリートに切られた時見た夢……。

 あの夢が、ジークフリートやエリカの記憶であり、何らかの理由で僕が見たのであれば、実在するはずだ。

 そして、僕の言葉を聞いて驚く、エリカ。

 不思議と確信に近い物があった。


「エヴィ様専用の魔導書があるわ。事前に構築式を記載しておけば、瞬時に発動出来る優れモノね。

 いえ、エヴィ様が活躍するには、その魔導書を手に入れる必要があると言った方が良いわね」


「何という魔導書なのだ? それと、保管場所は知っているのか?」


「そのままね。『魔導師エヴィの聖なる魔導書』と言うわ。

 眠っている場所だけど、ここから少し離れたところにある迷宮ダンジョンにあるの。

 本当は夏期講習でダンジョンに挑むことになるのだけど、今冬に行っても良いかもしれないわね」


 かなり痛い名前の魔導書だな……。


「ジークに先に取られる心配は、しなくて良いのか?」


「エヴィ様専用の魔導書よ? 取りに行く理由がないかな。ジークは、夏期講習で別なところに行くでしょうしね。

 今、エヴィ様の名が王都に知れ渡っていれば、嫌がらせで先に取られるかもしれないけど……。ないかな?」


 ここまで、この世界のことを知っているのか。

 今は、秋の季節だ。まず、開拓村で冬を越す準備をしなければならない。

 冬か春にダンジョンに挑めば、良いだろう。


「そうなると、今すべきことなのは、冬を越す準備と考えて良いのか?」


「う~ん。まあ、そうね。それも、土竜爪があれば、簡単に済むし、空いた時間でレベル上げ……、特訓でもしましょうか。

 あと、ダイエットかな? その体系では、パワードスーツも着れないしね」


 手に持っている魔道具を見る。実家に眠っていた物らしいが、それほど有用な物なのか?


「……疑う訳ではないのだが、都合が良すぎないか?」


「クリエイター……。あなたには神様と言った方が良いかしらね?

 この世界は、ハッピーエンドを迎えられるように作られているの。それもチートな方法でね。その方が、受けが良かったのよ」


 チートねぇ……。まあ、この土竜爪という魔道具からか。これを使ってみて、今後エリカに従うか決めよう。





 次の日の朝、朝食を終えて、四人で開拓村へ出る。

 村民は、井戸に列を作って並んでいた。


「まず、井戸の数を増やしましょうか」


 エリカが、突拍子もないことを言い出した。

 セバスチャンとシルビアの表情が曇る。


「方法があるのか?」


「その魔道具を付けてみて」


 言われるがまま、手甲を装備してみる。魔力を送り発動させてみた。


「魔道具を地面に当てて、掘るイメージを持ってみて」


 エリカに言われるまま、地面を触ると、地面がとても柔らかくなった。

 そして、そのまま沈んでしまった。


 今僕は、地面の中を進んでいる。いや、地面に沈み込んでいる。

 そして、感覚で地表の状態が分かる。地質のみだが、鑑定や探索が働いている感じだ。

 この土地は、地表面は火山灰などに覆われているが、数メートル掘れば、肥えた大地が広がっていた。

 そして、約二十メートルで、地下水を含む地層……『帯水層』に辿り着いた。

 余りにも都合が良い気がする。


 帯水層から地表まで、井戸となるように穴を開けながら浮上した。

 土竜爪は、壁面を崩れないように固めることも容易であった。


「坊ちゃま!」


 地面から這い出ると、セバスチャンが慌てた様子で駆け寄って来た。

 シルビアは、エリカを睨んでいる。


「……地下水を見つけた。帯水層までの穴も開けてある。ここに井戸を建ててくれ」


 セバスチャンとシルビアは、驚愕の表情だ。

 エリカは、何時もの無表情だ。笑っても良い場面だとは思うのだが。いや、ドヤ顔でも良い。

 僕の言葉を聞いた村民達が集まって来て、突貫工事で井戸が出来た。釣る瓶式の簡易的な井戸だが、村民は大喜びだ。


「次に行きましょう」


 エリカに連れられて、雑草が生い茂る、まだ手付かずの場所に来た。

 土竜爪で地面を触る。

 そして、地表面を吹き飛ばした。僕を中心に地面が退けて行く。数メートル掘った地面は、色が変わり黒色であった。

 感覚で分かる。肥えた土地だ。


「使い方を理解したみたいね」


 エリカを見て、頷いた。


「ここに種を蒔いてくれ。今から麦を蒔けば、冬直前に収穫出来るだろう。速く育つ野菜でも良いぞ」


 もう、セバスチャンも村民も唖然としていた。

 シルビアは、尊敬の眼差しで僕を見ている。


「この魔道具は、凄い物なのだな。これならば、一気に開拓が進みそうだよ」


 エリカは何時もの無表情だが、喜んでいることは分かった。


「最終武器ですからね。これくらいは出来て貰わないと困るわ。

 それと、家が必要ね。土で出来たかまくらで良いので、作ってあげてください」


 エリカは、僕に魔道具を与えてくれて、必要な指示を出してくれる。

 何も考えることがなく、得意の魔力を使える。そして、賞賛を受けていた。

 少し怖いが、今後もエリカに従えば、開拓は進んで行くだろう。

 だが、依存する気はない。


 従えない指示が来た場合は、反対するだけの意思は持ち合わせて行こう。

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