第8話 転生者3
とりあえず、解散して貰った。
今は、一人で開拓村を見ている。
芋煮と肉だけだが、昼からお祭り騒ぎだ。
僕も食べてみたが、野草を香辛料代わりにして、臭みを取っており上手く調理されている。
まあ、今日くらいは、仕事をサボっても良いだろう。
僕が村長と言うか領主代理だし、咎める気もない。
過去を振り返る。
周りの同級生に追い付かれて、剣の才能がないと分かると腐ってしまった人生だったな。
稽古をサボるようになり、体は横に成長して行き、今やオークの異名を取るまでになってしまっていた。
だが、周りの目を気にしながら、魔法の練習は続けた。
僕は、剣よりも魔法が好きだ。騎士の家系でなければ、魔法学園に通っていただろう。
それでも、両親を恨む気はない。こんな僕にも愛情を注いでくれたのは、理解しているし感謝もしている。
そして、ジークフリートとの決闘だ。そもそも、ジークフリートの言動には、不可解なことが多い。
皇太子が決闘など行ってはならない。
万に一つでも僕が勝てば、相手の持つ物全てを奪える。その気になれば、皇太子の座をも追い落とせるのだ。
いや、それ以前にジークフリートの決闘癖は有名だ。国王陛下を悩ませていると聞いている。
勝つ度に、相手の家の家宝を奪っていると聞いた。
貴重な魔道具や、魔法のスクロールなど、金では買えない物を奪っていると聞いている。
そして、僕にはなぜか婚約破棄だけを突き付けて来たのだ。退学は、学園の規則なので、大勢がいなくなっている。
ヘリオドール侯爵家の家宝に興味がなかったとは、考えられないのだが……。
エリカは、ジークフリートも転生者だと言った。未来の情報を持っているのかもしれない。
将来役に立つアイテムを、集めているらしいが、他家の恨みを買ってまですることなのだろうか?
そして、シルビアだ。エリカは、聖女になる可能性があると言った。それは、バッドエンドだとも……。
もっと、重要と思われるのが、シルビアが『主人公』と言ったことか。
本当であれば、学園に通うという歴史……。
エリカの本心は、分からない。シルビアを守るために、開拓村に来た? それを隠すために、僕の正妻の座を要求して来た?
ジークフリートが捻じ曲げてしまった歴史を、シルビアが軌道修正するのだろうか?
そのためには、僕の協力が必要なのだろう。
いや、この開拓村が重要な可能性もある。
戦争と言った。開拓村は帝国と隣接している。帝国との戦争になるのであれば、ここは最前線になりえる。
全てエリカの言葉からの推測になるが、道筋が見え隠れする。
椅子に寄りかかり、天井を見る。
僕は、両親と兄妹に迷惑を掛けたくなかった。家は出来の良い兄が継げば良い。
僕は、小さな領地で、男爵位か出来れば子爵位を貰い、静かに暮らそうと思っていた。
だが、エリカは、僕を公爵にすると言って来た。常識的に考えてありえない。開拓村に追われた僕の爵位回復など無理に決まっている。
常識的に考えれば、無理だ。無理なのだが……。
「家族に恩返しがしたい……」
本音がこぼれた。
僕だって、好き好んで家名に泥を塗る気はなかった。だが、僕の存在自体が、家にとって迷惑なのだ。
出来るだけ波音を立てないだけの人生。
そこから抜け出したいと思ってしまう。
エリカの言葉には、すごい魅力を感じている。
多分だが、僕の考えも見抜かれているのだろう。
そういえば、セバスチャンに関しては、なにも言ってなかったな。
盗賊に襲われた過去のみ、言い当てただけだ。
セバスチャンは、老年に差し掛かっているとはいえ、僕には代えがたい家臣だ。
「気になる……」
独り言が出た。
そして、エリカの元に向かう僕が、そこにはいた。
◇
──コンコン
「どうぞ……」
エリカに貸し与えた、客間のドアを開ける。
平民に落とされたとはいえ、元貴族令嬢との二人きりの部屋。
少し緊張する。
少し離れた位置の椅子に座り、質問を投げかけてみた。
「セバスの今後のことが、聞きたい……」
「うふふ。やっぱりね。エヴィ様は思った通りの人だわ」
何時も無表情のエリカが笑った。美しいと感じてしまう。
そして、先ほどの場では、あえて話をしなかったことが理解出来た。誘導されているのを感じる。
「私の知識では、セバスさんは、働けない体になっていたわ。貧しい家で、シルビアさんと二人暮らしをしていたの」
「なに? 現状と違うのではないか?」
「シルビアさんが、光の回復魔法を使い怪我を治療していたのだけど、なかなか熟練度が上がらない……。
そんな時に、貴族に光魔法の事を知られて、学園に通うことになるの。それも手違いで、魔法学園ではなくて騎士学園にね。
シルビアさんは、始めは剣も振ったことがない状態からスタートになって、いじめられるの。だけど、異性が寄って来てシルビアさんを守りつつ、成長させて行くストーリー。
セバスさんだけど、シルビアさんが、騎士学園で光魔法と剣術を習熟して行くと、歩けるようになる描写があったわ。
その後、帰省イベントのみで登場していたわね」
「分からないな」
エリカが、指先を僕に向ける。白く細い、芸術品のような手だ。
「あなたの土魔法による回復方法は、随分と優れた物なのね。ジークに負わされた怪我で、今でもベッドから動けない人も大勢いるのよ?」
ハッとする。油断していた。
どの程度の傷なのかは、セバスチャンとシルビア以外は知ることはないと思っていた。
だが、エリカも知っている可能性を考慮していなかった。全治半年の傷を数日で治してしまったのを失念していたのだ。
結構な大怪我だったが、もう隠しようがない。
「セバスさんのバッドエンドは、シルビアさんが教国に連れ去られる時に、殺されるルートね。デッドエンドとも言えるわね。
分かるかしら? 全てはあなた次第と言うことを」
エリカは、セバスチャンに関しては詳しくないのだな。
だが、僕が失えない人である。そして、シルビアと運命が連動している……と。
信じ切ることは出来ないが、現実的にありえる未来とも取れる。
「シルビアが、教国に行く可能性はあるのか?」
「ええ……、まだ潰えていないわ。そのためにも、エヴィ様の協力が必要なの」
エリカが魔道具を差し出して来た。
「ジークは、この魔道具に興味を示さなかったのか? そこに矛盾を感じる」
「……推測になりますが、モグラ呼ばわりされるのを嫌ったのだと思うわ。この魔道具は、最終武器の位置付けで、税収を安定させるための物なの。なので、恋愛ゲームとしては、なくても話が進むのよ」
有用な魔道具だが、見栄えが悪いので使いたくないと言うことか?
そして、『税収を安定させるための物』か……。今の僕には必要な物だな。
ここまで過去を言い当てて、未来を見据えているのだ。良いだろう、手を組んでみるか。
そして、魔道具を手に取る僕が、そこにはいた。
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