第7話 転生者2

「転生者? 預言者? 未来の情報?」


 真顔で言われても、困惑してしまう。

 正直、頭がおかしいのではないかと思ってしまった。

 だが、エリカは真剣そのものだ。


 そして、推測する。

 婚約破棄までしたのに、僕の所に来た理由だ。しかも、男爵位とはいえ貴族位を捨ててまで。

 推測の域を出ないので、話だけでも聞いておくか。


「簡単には鵜呑みに出来ないけど、興味はあるかな? それで、エリカは、僕に何をさせたいのだ?」


「信じてくれるのね。ありがとうございます。

 まず、この世界のことを教えるわ。私の前世で、『ロードクロサイト学園2nd』という乙女ゲームがあったの。

 私から言えば、この世界はゲームの世界観そのままで、細部が異なると言った世界になるのよ。

 私は、そのゲームをやりこんでいたから、この後の展開が分かるわ」


「乙女ゲーム?」


「……、模擬遊戯と言ったところかしら? 戦争の代わりにチェスなどがあるわよね?

 異国では、戦争好きの王様をなだめるために、将棋やら碁などが考案されているわ。

 そしてこの世界は、恋愛を楽しみたい人向けの世界なのよ」


 意味が分からない。戦争で例えると、先の展開が読めると言うことか?


「それでは、この後に起きることを予知出来ると言うことか?」


「理解が速くて助かるわ。まず、これから二年間酷い不作が起きるの。この国だけでなく周辺国でもね。

 それと、二年後に魔物の氾濫スタンピードが起きることが確定している。この開拓村も襲われることになるわね」


「それを信じろと?」


「……信じなくても良いけれど、まず、水源の確保だけはして欲しいわね。このまま行くと、餓死者が出るので」


「どうやって?」


「そのために、あなたに合う魔道具を持って来たのだけど?」


 テーブルに置かれた魔道具を見る。これで、不作から解放される? この開拓村で?

 だが、僕の元に来た理由にはならない。


「……水源の確保は行おうと思う。だが、僕の元に来た理由にはならなくないか?」


「ああ、そうね。私の最終的な目的から話すべきだったかな。

 先ほど、『細部が違う』と言ったでしょう? その原因がジークなのよ。彼も転生者よ。

 そして、幼少期からこの世界の歴史を変えてしまっている。本当は、学園に入学してから始めるのだけど……」


「その乙女ゲームを、ジークも遊んでいたってことか?」


「ジークは、『ロードクロサイト学園1st』のギャルゲーかな。良く出来たゲームでね。1stが男性主人公で、2ndが女性主人公なのよ。

 ただし、世界観とステータスは一緒。違いは、イベントかな? 例えば、1stだと戦争のパートがあり、アクションゲームになるの。2ndだとそのパートは祈りながら待つことになるわ」


 エリカは、なにか大事なことを言っている気がする。それだけは分かるのだが……。内容は理解出来ない。


「続けるわね。エヴィ様は、本当は幼少期からジークの親友というポジションだったの。

 ルートによるのだけど、ジークには、エヴィ様の恋愛を助けるルートもあったのよ。また、ジークが他国への追放というルートも存在していたわ。

 この世界は、そのフラグをジークが全て折ってしまったの」


 ありえたかもしれない未来かな?


「おかしくないか? ジークとはたしかに幼少期からの付き合いだが、あいさつ程度しかしてこなかったぞ?」


「……転生直後から、フラグを折りまくっていたのね。呆れるわ。

 それと、ストーリーを無視して、スタート前にアイテムを集めていた。だから、は強いのよ」


「その話には、矛盾が無いか? エリカはジークが転生者だと、どうして知っているのだ?」


 エリカの眼が、輝く。薄い青色から、黄色になった。オッドアイ……いや、魔眼の一種かもしれない。


「転生特典ってやつかな? 私は、他人の好感度とステータスを見ることが出来きるの。

 例えば、今のエヴィ様の私への好感度は、25%で警戒されている。そして、剣の才能はないけど、光水土魔法が得意で中後衛の立ち回りが得意とかが分かるわ」


 驚いてしまう。光魔法と水魔法まで言い当てた。セバスチャンとシルビア以外は知らないはずだったのだが。

 魔眼持ちか……、彼女の話に信憑性が出て来た。


「好感度は分からないが、魔法は当たっている。それに、魔眼持ちみたいだね。

 セレナ教国に知られると危ないのに、見せてくれたのは、信用を得るためかな?」


 この世界は、一度、悪い魔導師達に蹂躙されている。特殊な力を持つ者は、保護もしくは拘束の対象となるのだ。

 そして、危険と判断されれば、処分されかねない。


「そうね。私の話を信じて貰うために見せたのは当たっているわ。

 それと、セレナ教国の話だけど、シルビアさんも危ないのは知っているのかしら?」


 シルビアを見る。驚愕の表情だ。そして、セバスチャンは、真っ青だ。

 僕の知らない、シルビアの秘密があるのか?


「いや、僕だけ知らないみたいだ」


「シルビアさんは、光魔法を覚えているの。本当はセバスさんが怪我を負った時に回復魔法を使うのは、シルビアさんの役目だったのよ。

 そして、その話が漏れて、シルビアさんは来年から学園に通い出す……。剣と魔法の才能を見いだされてね。弓はまた別な話になるのだけど。

 それが、『ロードクロサイト学園2nd』のストーリーなの。

 でも、エヴィ様が回復魔法を使われたのでしょう?」


 ありえたかもしれない、過去と未来か。

 シルビアを見ると、俯いて固まっている。事実を言い当てられたのだろう。


「シルビアさんのバッドエンドは、セレナ教国の聖女認定されることかな。誰も守ってくれないと、お迎えが来て強制的に行くことになるの。

 その後は、異性と関係を持つことを許されない人生になるわ」


「わ、私は、エヴィ様をお慕いしております!」


 真っ赤になって反論して来た。

 まあ、セレナ教国が、シルビアを連行するのであれば、僕が止めるだろう。それは、確定している。


「話が逸れたので、端的に言いましょうか。私は、ジークが嫌い。

 彼に破滅フラグを踏ませて、エヴィ様には功績を立てて、成り上がって貰いたいの。

 それと、悪役令嬢がいるのだけど、彼女を救いたいというのも理由の一つになります」


「悪役令嬢? 聞いたことのない言葉だな」


「エヴィ様以外に、もう一人救いたい人がいると言う話ね。彼女は私の親友でね。身分の違いを越えて幼少期から親しくしてくれていたのよ。まあ、彼女の方は、私が誘導するので気にしなくて良いわ」


「良く分からないが、目的は理解した。救いたい人がいるのだな。その上で、僕が協力する見返りはあるのか?」


「……エヴィ様は、貴族の中でも特殊な家庭で育ちました。普通の貴族であれば、ストーリーとして『出来損ない』と呼ばれて勘当され、見返す話になるのかな? でも、エヴィ様は家を想い、家族もあなたを慕っている。理想的な家庭と言えるわね」


「……」


「先ほども言ったでしょう? 功績を上げて成り上がって貰いたい。出来れば、公爵になって欲しいわね。

 そうすれば、エヴィ様の御父上も喜ばれるでしょう。そして、それがエヴィ様の今持っている願望でもある」


 確かにそうだ。だけど、要求が高すぎないか? 僕は、準男爵から平民になる予定なのだが。

 公爵? 父上よりの上の爵位?


「その方法を知っていると?」


「そうゆうことね。私はあなたが、誠実な人であることを知っている。

 そして、騎士の家系ではなく、新しく魔導師の家系を立ち上げられることも。悪い話ではないでしょう?」


 話的には、悪くない。

 だが、どうあっても無理のある話だ。裏があるとしか思えない。


「君を主人公にして、僕が支える……。それは良いのだけど、開拓村の村長から、どうやって公爵になるのだ?」


「あ、勘違いしないで。『ロードクロサイト学園2nd』は、シルビアさんが主人公なのよ。私は悪役令嬢の友人のモブ役」


 だめだ、何を言っているのかが分からない。

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