第6話 転生者1

 とりあえず、エリカを連れて村長宅へ向かった。

 セバスチャンとシルビアも一緒だ。四人で移動する。


 開拓村で唯一の建物と言って良い、村長の家。

 掃除もして貰っていたので、内装も綺麗になっている。まあ、どう見ても庶民の家を綺麗にしただけだが。

 お茶を入れて貰い、四人でテーブルを囲んだ。


「核心から入るが、なぜ開拓村に来たのだ? それとメイド学校を辞めて来た理由を教えてくれ」


「……ふう。元婚約者とは言え、扱いが雑になりましたね。まあ、良いわ。

 まず、私は、ジークが嫌いなの。あの決闘は、婚約破棄を条件にされたので、その後の私の行動を縛るものは、何もなくなりました」


 口調が変わっている。まあ、それは良い。

 それと、エリカの言い分も分かる。確かにそうだ。ジークと共に生活しろとかは言われていない。


「それと、ヘリオドール侯爵家より、慰謝料が支払われました。国王陛下からも。ボールター男爵家の借金を全額返済しても、まだ余裕がある額です。改めてお礼を言わせて頂きます」


 エリカが頭を下げた。

 それは良い。父上にしてみれば、はした金だ。

 それよりも、紅き豚人レッドオークに嫁いでくれる令嬢を探す方が、手間だったはずだ。


「分からないな。ジークが嫌いで家の借金も返済出来た君が、紅き豚人レッドオークに会いに来る理由が理解出来ない」


 エリカは、『ふぅ~』っとため息を吐いた。

 エリカは、終始無表情の令嬢だ。ポーカーフェースなのだ。表情からは何も読み取れない。

 別に貴族令嬢が笑ってはいけない理由はない。どちらかと言うと、学園では愛嬌のある方が異性の人気があった。

 これは、どこの世界でも同じだと思う。エリカは、整った顔をしているが、表情がないのが残念である。


「私は、家を捨てて平民になりました。もう、家名は名乗れません」


「え!?」


「それと、女が一人で男を追いかけて来たのに、『理解出来ない』は、ないと思うわ!」


 いや、理解出来ない。貴族位を捨てて、僕を追いかけて来たってなんだ?


「なにが望みだ? 物じゃないよな? 金もないぞ?」


 エリカは、無表情だが、かなり怒っているのは分かる。無表情のまま、青筋を立てるのは器用だと思う。


「それでは、そうですね。第一婦人……、正妻の座を頂きたいかしら」


 セバスチャンとシルビアを見る。共に首を横に振っている。


「僕は数年後には、準男爵位を剥奪されて平民に落とされる予定だ。その僕に嫁ぎに来たと言うのか?」


「ええ、そうです。いいえ、違いますね。エヴィ様は、平民にはなりません。私は、エヴィ様を公爵にするために来ました」


 意味が分からない。


「随分と買ってくれるが、この開拓村が認められるとは思えないな」


「今のままであればそうね。でも、エヴィ様が私をそばに置けば、歴史が大きく変わるわ。いえ、元に戻ると言った方が良いわね」


「……随分と自信があるのだな。証拠があれば見せて貰いたいのだが」


 エリカは、何かをテーブルに置いた。手甲のようだが、爪が付いている。


「これは、魔道具よ。『土竜爪』と言うわ。エヴィ様の家の宝物庫で眠っていた物なのだけど、数年後にエヴィ様が手に取ることになっていたわ。賠償金と共に所望したら貰えました。侯爵家には、結構無理を言ってしまったのですけどね」


「僕の家の宝物庫?」


「説明を続けるわね。これを装備すると土の中を自在に動けるの。それこそモグラのように。土魔法の得意なエヴィ様にはピッタリでしょう?」


 驚きを隠せない。学園で僕は、人前で土魔法を見せたことはなかった。

 魔力を持っていることを隠す必要はないのだが、騎士学園で魔法を使う授業はないのだ。

 婚約者として数日過ごしていたとはいえ、エリカが知っている訳がなかった。

 しかも、僕の家の宝物庫から持って来たって、どんな理由だよ?


「土の中を自在にね……。それとオークからモグラか。二つ名が増えそうだ」


「……もう、オークと言われてもなにも感じないでしょう? モグラと言われることになるかもしれないけど、次の二つ名は賞賛を込めた二つ名になるわ」


 ここでセバスチャンが動いた。

 エリカの胸倉を掴み、宙吊りにしたのだ。

 セバスチャンの眼は、憎悪で燃えている。


「セバス! やめろ! 放せ!」


「……元貴族令嬢よ。貴様は今やただの平民だ。そして坊ちゃまは、今だ貴族位を持っている。坊ちゃまを愚弄するのは控えて貰いたのだがな」


「ぐ。かは……。愚弄する気はなくってよ? いえ、エヴィ様に尽くすために来たのは話したはずよ」


「セバス! 放せ! 命令だ!」


「坊ちゃま。元貴族に平民の礼儀作法を教えているところです。いわば躾です。この開拓村で生活するのであれば、平民としての立場を理解させることも必要かと。それに、坊ちゃまの正妻は、シルビアに決まっております」


 それは、初耳なのだが?

 シルビアを見ると、決意した表情で僕を見ている。いや、それは後回しだ。


「とにかく放せ!」


 時間にして一分未満だが、エリカは苦しそうに息をしている。

 あまり女性に触れたくはないが、背中を擦って落ち着かせる。

 数分でエリカは、落ち着いたようだ。

 再度、四人でテーブルを囲む。


「……エリカ。端的に聞く。なぜ僕に拘る?」


「今は、ジークが皇太子だけど、国王になる前に国が亡びるルートにいます。また、それを回避出来たとしてもジークが国王になれば、結局は国が滅んでしまう……。だから逃げて来たの」


「その根拠は?」


「私は、『転生者』なの。そうね、前世の記憶を持って生まれて来た……、未来の情報を持つ、預言者に近いかしら?」


 何を言っているのだろうか?


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 転生者であることを隠しません。ぶっちゃけます。

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