第4話 上役
「失礼します。」
扉を軽く叩いた後、入室する。これもまた、毎日のように繰り返される儀式のようなものだ。
「ああ。座ってくれ。」
初老の男は、部下をソファへと促した。
応接間のように立派な部屋は、この上役が整えたらしい。かつて東京の本社にいたという豊田は、外地版制作の立役者として、十二分に権力を握っている。
「お呼びだと聞いたのですが。」
ソファに軽く腰を預け、胸ポケットから手帳と万年筆を取り出す。
豊田は、急に突拍子もないことを吹っかけてくる傾向がある。対応するためには、しっかり書留めておかなければならない。
「相変わらず勤勉なものだ。」
感心するよ。ゆるく笑いながらそう言ってみせる。
余裕と自信に満ちた男の風格だ。
私が上役のことを恨めないのも、この男に魅せられていたからかもしれない。
「今日は私的な話ではなくてね。君に仕事の話を持ってきた。」
そう言って、豊田は口元に弧を描いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます