第3話 呼び出し

「オイ、桐島。」

入社して三年も経てば、期待も夢と消える。

三年も異国で暮らせば、物珍しさもなくなる。

何より私を落胆させたのは、新人の記事は紙面を飾らない。その事実だった。


士気は当然下がり、憧憬も儚くなった。

そして代わりに私は、やけっぱちな根性とそこそこの図太さを手に入れたというわけだ。


「はい。なんでしょう。」


「豊田さんが呼んでるってよ。」

同僚の一人が、隣の部屋を顎で示す。

「行ってこい。頑張れよ。」

その言葉は、労いであり同情でもある。


この年上の記者は、私が上役にこき使われているのを熟知している。

社内での雑用から私用にいたるまで。豊田という男は馬車馬を動かすが如く命令する。

しかも、その物腰は柔らかく部下以外には滅法優しいというのだからタチが悪い。

柔和な笑みを浮かべながら、無理難題を押し付けてくるのだからたまらない。先日ちょうど奥方の機嫌取りのために東奔西走したばかりだ。

その前は、ご息女のために町中の宝飾店へと走った。


しかし、その恐ろしい上役に逆らうわけにはいかない。

なぜなら、私をこの新聞社に引き入れたのが件の男であるからだ。


つまるところ私は豊田という男には頭が上がらないのである。

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