第2話 新天地

異国の地を初めて踏んだのは二十三の時だった。

巨大な船から降り立った日の、土を踏む感触を今でも覚えている。

海は凪ぎ、潮が香る。穏やかな昼時。二十歳そこそこの青年は、口元がにやつくのを抑えながら下船した。


埠頭は乗客でごった返していた。

パラソルをさす貴婦人から、三等客室の労働者まで、身分も出身も様々だった。それほどまでに巨大な船だったのだ。

年若い青年は、好奇心の塊だった。向こう見ずで無鉄砲な未熟者。

都会の大学を出てもそれは変わりなかった。


異国の都市に強烈なまでに惹かれてしまった。

目に映るもの全てを気に入った。腹の奥がふわふわ浮いているような高揚感で膨れていた。


港を出たその足で、職場に向かった。

新天地を目にして、踊り出しそうな心持ちだった。


憧れの新聞社は洋風の小洒落た造り。金属製の看板は丁寧に磨き込まれ、輝いて見える。

どうしようもなく、心が浮き足だった。はちきれんばかりの期待であった。


その重厚な扉を開けた瞬間。桐島英二郎の記者人生が幕を開けたのだ。

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