第4話 もう一度

君は歯を食いしばった。


 レオが旅についていきたいと言ってくれたのは、嬉しくないわけじゃないが、受け入れるわけにはいかない、とも思ったのだ。

 君の返事を聞いて、彼は目を見開く。


「どういうことか、説明してもらえるかな」


 君はちらとレオに目をむける。

「私は、前に一度、自分の仲間を殺してしまった事がある」


 彼は黙って君を見つめていた。少し躊躇ちゅうちょするが、君の口が勝手に話し始めてしまった。

「私は、自分だけのうのうと逃げて。何も悪くない仲間を巻き込み、殺してしまった。私が代わりに死んでいれば!」

言うつもりもないことが喉からあふれてきた。涙が頬を伝って床に垂れる。


「ごめん、私は、」


「君の仲間を殺したのは誰だい」

君の言葉をさえぎって彼は言った。その声は低く、真剣であった。


「君かい?いいや、マインドフレイヤーとか言う奴だ。君の仲間は君を守って死んだ。違うかい?それに」

ここで彼は言葉を切った。肩を持たれ、顔を上げると、紫色の瞳が真っ直ぐに君を見つめていた。


「君の仲間は、君が死ぬことを望んでいないと、僕は思う」


彼はそう言うと微笑んだ。


君は床に手をついて叫ぶ。

「私が死んでも何も変わらない」

「変わったさ」

レオが君の頭をぽんと叩いた。

「君が死んでたら僕はあそこのトラップで死んでた」


「私は…何も守れない」

君はそう言って彼の手を振り切る。

「君は守ったさ、そしてこれからも守るんだ」

レオは困ったような顔をして微笑んだ。

「…生きる理由がない」

君の声が震えた。

「理由なんて、君の仲間を忘れないためで十分だよ」

レオはそう言って君の顔を上げさせた。


「…私には、生きる価値なんて…」

君がそう言うと、レオは君を抱き寄せた。

「僕が今ここにあることが、君の生きる価値の証明だ」


誰かに抱きしめられる感覚に、君はハッとした。


こんなふうに人と触れ合うのは、何年ぶりだろうか。


心の中の重たい氷が、ゆっくりと溶けて行くようだった。

彼の心臓の鼓動こどうがトクントクンとこだまする。涙がまた溢れてくる。


「…ありがとう、レオ」


君は、身体を離して、レオの瞳をのぞき込んだ。


「私…、もう少し生きる努力をしてみようと思う」

「うん。信じるよ」


レオの微笑みは、やさしい風のようだ。

「だから、もう無理はしないでくれ。いいね?」


君はコクリと頷いて、笑った。心から笑ったのは久しぶりだった。

「レオは少し、ジェームズと似ている」


そう君が言うと、レオはずいと身を乗り出した。

「ジェームズって、男か?」

「うん、幼馴染おさななじみ


君がそう言うとレオは目を輝かせた。


「是非詳しく聞かせていただきたいね!」

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