第2話 銀髪の少年
目を開けると、ダンジョンの
ゆっくりと体を起こすと、いい匂いが
そこでは、あの少年が何やら作業をしていた。彼は君に気づくと、にっこりと
「よく眠れた?」
君はそれには答えず、代わりに周りを見渡した。そこは普通のダンジョンの一室と変わらないが、小さめの部屋であった。
「ここは僕の
彼は君の様子に気づいてそう付け足した。
君は彼をまじまじと見つめて、ずっと気になっていたことを声に出した。
「あなたも、冒険者なの?」
そう低い声で聞いた。
このダンジョンに冒険者は一人ずつしか入れないという掟があるが、自分の前の、死んだと思われていた者が生きていたのかもしれない。これを知ったからと言って、君が彼への態度を変えることは無いと思うが。
彼は、あははと高い声で笑って言った。
「違うよ!僕は君の言う、モンスターさ。怖いかい?」
彼はそう言って、がおーとポーズをとった。
君はいつもは剣を吊っている左腰を探った。だが、剣は見当たらない。
「ちょ、冗談だって!僕はモンスターだけど、君は
人間のモンスター?人間もモンスターとしてここで生まれるのか?疑問はやまないが、まず初めに確認しなければいけないことを君は口に出す。
「私の剣は?」
君がそう聞くと、彼は君の枕元を指差した。
そこには、
君は彼をにらみながら右手をゆっくりと戻す。少しは信頼しても良いのだろうか。彼はくるりと向き直ると、先程やっていた作業に戻った。
彼の心地よい鼻歌が君の心をふわふわさせるような気がして、それを振り払うように首を振った。君はふと、君の寝ている場所の横の壁に、着ていた
「これは…」
「ああ、それ。うん、僕が君の服を脱がせ…」
彼はここで言葉を切った。君の様子に気づいたからだろう。君は枕元の剣を掴んでゆっくりと柄から抜く。寝ている間を襲うなんて、やはりモンスターではないか。
「ち、違うんだ、待ってくれ!た、確かに脱がせたのは僕さ!でも鎧とマントだけだ。君だって、鎧をつけたまま寝るわけじゃないだろ?」
彼は慌ててそういった。
顔は真っ赤で必死に弁解しようとしているようだった。その様子は、君に赤毛の少年を思い出させた。
「最近は鎧のまま寝ていたけど」
君はぶっきらぼうにそういった。
彼はそんなぁと弱々しく言うと、はっと思い立ったかのように彼の目の前のポットを手にとった。
「ほら、腹減ってるよね?これを君に作ったんだ」
彼は慌ててそれを差し出した。話題を変えようとしているのが見え見えだ。
彼の持っているポットにはシチューのような物が入っており、くつくつと音を立てていた。君は初めは受け取らないつもりでいたが、信じられないほど美味しそうな匂いに根負けし、彼に手渡されたスプーンを手に取り、ひとくち口に運んだ。
その瞬間、君の何かが溶けたようであった。
緊張か、不安か、君の中に常に張り詰めていたものがゆっくりと温かいものに包まれていくようだった。
口の中でほろほろと具がとろけ、程よい出汁の味が口の中に広がった。昔ジェームズに作ってもらったシチューが頭に浮かんだ。暖かさが身体に染みて、目からポロポロと
「うわ?ま、
彼はあわあわと君の顔を伺った。
「…凄く、美味しい」
君はそう言って涙を拭った。
「…そうか、なら良かった。これはロッシュの肉を煮込んだんだよ」
彼はほっと息をつくと、優しく笑って言った。
「ロッシュが、ここまで美味しくなるなんて」
君が言うと、彼は嬉しそうに微笑んで、手を差し出した。
「僕はレオ。よろしく、お嬢さん」
「エイミーでいい」
「よろしく、エイミー」
君は彼の手を取った。
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「はぁぁぁあぁー」
シチューを食べ終わり、君が立ち上がると、彼はため息を付き頭を抱えた。
「君、あくまでも女の子だよね?その格好はまずいんじゃない?」
君は頭をかしげて自分の体に目を向ける。そして気づいた。
鎧の下に来ていた服は汚れ、破け、髪はボサボサでほつれていた。
「それに君、臭うよー」
彼は鼻をつまむ仕草をして高い声で笑った。君はニコッと笑い返して右手に握りこぶしを作り、彼の顔面にそれをお見舞いした。
「教えてあげただけなのに…」
彼は顔を手で
「ここの近くの泉は?」
君がそう聞くと、彼は少しだけ顔を上げて皮肉そうに言った。
「ここを出てすぐ左ですー」
それを聞いて、君は自分のかばんからタオルを取り出し早足で部屋を出た。
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