トレーニングその九 漫画ノベライズ

 小説のそれも文章を上達させるトレーニングとして、効果が高いとされる練習に漫画ノベライズを挙げる人も多いです。*5の『物語の体操』でもつげ義春の漫画をノベライズせよというレッスンを提示しています。

 このトレーニングを生徒にやらせると七八割が一人称で残りの二三割が三人称で小説を書いてくるそうです。つげ義春の漫画はいかにも私小説的なので、私小説風の一人称で書いてくる生徒が多いのだそうです。


 一人称で書くと饒舌なカミングアウトが始まり、三人称で書くとやや漫画の絵の構成に引きずられながら、そこに内面の描写を差し挟む感じで小説を書くことになります。どちらが正解であるとかは無いと思いますが、大塚氏が言うには一人称の方がより小説っぽい文体が芽生えることが多いのだとか。しかし三人称の方が文章の練習にはなるという人もいます。漫画の傾向に合わせて書いてみたり、自分の目指す文体で書いてみたりと色々と試してみると良いと思います。


 良くできた漫画や映画は無駄なくかつ効率的に場面の情報が提示されています。しかしそれをただなぞるだけでは小説にはならず、取捨選択あるいは描写の付けたしは必要になるのですが、状況を理解するに十分な絵が提示されている作品から小説を書くのは、一から情景描写や心理描写を書いていくよりずいぶん楽になります。またシーンを書くにあたって何が必要とされるのかを理解するのにも漫画ノベライズは役に立ちます。


 長編漫画をバリバリとノベライズするのも良いのですが、短編や四コマ漫画をノベライズするのも良いと言われます。*15の『冲方式ストーリー創作術』でも四コマ漫画のノベライズを勧めています。四コマ漫画には起承転結が詰め込まれていて、その凝縮された要素を学ぶのに最適だと言います。


 他にも冲方氏はクイズ番組をノベライズするのを勧めていたりします。漫画とはまた違うのですが、クイズ番組も物語の要素を備えていて、出演者の心理描写や設問が生むミステリーがノベライズを行うことで身に付くのだそうです。


 小説創作系の学校でも似たようなトレーニングを実践させている所もあるそうです。そこでは漫画に限らず一枚の絵や映像作品、主に映画などから小説を書かせているのだとか。抽象的なテーマやプロットから小説を書かせるより、実際の映像から小説を書かせる方がブレが少ないからと言うのがその理由なのだそうです。


 小説のシーンの切り替え時に、風景描写などをして、読者に状況をわからせるガイドと呼ばれる文章があります。漫画にもシーンの切り替え時に背景やロングのショットのコマを描いたりします。漫画の背景から文を起こせば自然なガイドが書けます。セリフなんかは書けるんだけど、風景描写が良くわからんと言う人は、漫画の背景を書くように風景描写を書いてみてください、きっと上手くいくと思います。


 映像的なイメージを文章にする技能に長ければ、漫画や映画を見た経験もより小説に生かせるようになるでしょう。小説を書いたことの無い人が、執筆が出来ない理由の幾分かが、シーンの構成が出来ないことに起因すると言います。そのシーンの構成を学ぶのに漫画ノベライズはとても効果的な練習になります。特に初心者で上手くシーンがまとめられないという人は、この漫画ノベライズにぜひ取り組んでみて下さい。

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