トレーニングその八 既存作品の再プロット化

 さて、前回のプロット作成のトレーニングの所で、箱書を書けるようになると良いと言いしました。

 と言われてもすぐには書けないよ。なんて人もいるかと思います。箱書きを書くことに不安のある人は、まずこのトレーニングで箱書きを書いてみましょう。

 そのトレーニングとは既存作品を箱書に直してみようというトレーニングです。この既存作品の再プロット化というのもよく紹介される小説のトレーニングです。


 *20 (大塚英志 (2003) キャラクター小説の作り方 講談社)

 で紹介されています。小説から、舞台になっている場所、時間、登場人物、主な出来事、伏線等読者に必ず伝える重要情報を抜き出します。抜きだしたらそれを一個の箱の様に項目ごと並べます。この時紙のカードを使って、一枚のカードに一シーンの箱書きと書いたりするのを勧めています。カードが用意できなかったら、パソコンソフトで文章を入れ子状に管理できる、アウトラインプロセッサ等を使っても良いです。

 要は箱書きを管理するとき、一シーンずつ書き出し、必要に応じて順番を入れ替えたりして思考するために、一繋ぎの文章でなく、カード状の書き方を勧めているわけです。アウトラインプロセッサで一シーンを一つの項目に書きだせば、その後は自由に順番を入れ替えできるので、僕は無理にカードに書きだす必要は無いと思いますが、あーでもないこーでもないといじくりまわせるカードもそれはそれで魅力はありますね。

 書きだすときのポイントは場所、時間、登場人物が変わればそこがシーンの変わり目だということです。そうやって物語をいくつものシーンに分断していき、最後まで箱書きにします。

 こうやってカードなどに書き出し分析することで、物語を破綻無く作る力は相当にレベルアップすると大塚氏は言います。

 

 上手く書かれたヒット作を箱書にしてみると、無駄なシーンが無く、巧に演出されていることがわかると思います。僕も人気ライトノベル、ソードアートオンラインの一巻を箱書化してみて、とても参考になった記憶があります。大塚氏は中には破綻しまくっているプロの作品もあるなんて言いますが、まあヒット作にはあまり見かけないと思います。たぶん……。


 *11の「1週間でマスター小説を書くための基礎メソッド」でも物語を箱書きにするトレーニングを勧めています。本の中の課題で、実際にこの本に収録されているO・ヘンリーの短編を箱書化してみよう。という課題があります。

 物語の箱書化は結構簡単にできて、実りが多いトレーニングです。箱書化する時には当然普通に読むより内容をよく把握して読まないといけませんし、長い物語も箱書化することによって頭から最後まで俯瞰することができるのが大きいです。

 このトレーニングに興味があったらこの奈良氏の本がこのメソッドに詳しい解説をしているので、手に取ってみることをお勧めします。


 さて、プロットにあらすじ型と箱書き型とあるように、再プロット化のトレーニングにもあらすじ型のものがあります。有名なのが*10のクリストファー・ボグラーの「物語の法則」などで紹介されている、ハリウッドのシナリオライティングツールであるログライン(要約)とシノプシス(あらすじ)を使った再プロット化トレーニングです。

 ログラインとは例えばとなりのトトロを、田舎に引っ越してきた姉妹が不思議な森の主と出会い、みんなとの絆を深め家族の危機を克服していく話。みたいな要約の事で、シノプシスがお父さんとさつきとメイがオート三輪に荷物を満載して引っ越しをしている、しばししてさつき達は森の中にある古い屋敷へとたどり着く、そこには地元のおばあちゃんがいて皆で掃除をします。するとメイとさつきは奇妙な黒い、まっくろくろすけを見つけて…………といったあらすじの事です。


 物語をシノプシスとログラインにするのも、お話し作りに有用なトレーニングとして有名です。こうやっていくつもの物語をログラインとシノプシスにして自分の中にストックしてくことで、いざ自分の作品をログラインとシノプシスから作りだすときに役に立つという寸法です。

 長編小説をまずシノプシスやログラインから作るというのは有効な創作手法です。スティーブン・キングなんかは*1の「書くことについて」で状況の設定ができて最初のシーンが思いついたら、結末は決めずすぐ書きだすだとか、保坂和志は*3「書きあぐねている人のための小説入門」のなかでプロット作成を否定していたりしますが、これを初心者が実践するとたいていとんでもないことになります。ほんとになりますので注意してくださいね。

 

 さて、余計な話はこのくらいにして、二つのあらすじ型と箱書き型を比べてみましょう。両方とも物語を俯瞰できるところは同じです。箱書型の方がやや細かく、演出の細部を理解しやすく、特に長いお話しを整理するときに便利です。物語を一々箱書きに直していく作業はどちらかと言うと長編小説の分析に有効です。読みながらワンシーンごとに箱書きを書きだしていくのです。

 もっと短い、例えば30分のアニメの一話ごとを再プロット化していくなんて時はシノプシスが有効です。二時間映画だと一度にシノプシスにするのは、アニメの一話と比べるとだいぶ難易度は上がりますが不可能ではありません。映画を見ながら時々停止してシノプシスにしていくという作業なんかは鑑賞の中断も少なくて済むしお勧めの方法です。


 物語を箱書きに書きだして緻密に分析することも大事ですが、物語を短くまとめる能力を鍛えるうえで、シノプシス、それもあまり詳細なシノプシスではなく千字くらいで一本のお話しをまとめた要約を上手に書く能力も大事です。

 お話しを小さくまとめる能力じたいが、小説家にとって大事なスキルであると*5の大塚英志「物語の体操」でも主張されています。

 気に入った物語なんかはぜひ箱書きにして細かく分析してみてください、それ以外にも量的に物語を鑑賞して、短いシノプシスとログラインを量産するトレーニングにもぜひ挑戦してみてほしいです。


 *10「物語の法則」で三か月くらいの間に、百本の映画脚本を読み、それをシノプシスとログラインにしろという、シンプルですがハードなトレーニングを紹介しています。これは量的に物語を鑑賞するという行為と再プロット化を合わせたトレーニングで、僕はここまで本格的なトレーニングはやったことが無いですが。ボグラーはとても効果の高いトレーニングだと勧めていました。

 こういったトレーニングでは、こまごまとエピソードを書き連ねるのではなく、シノプシスも短くすっきりと要点をまとめるのが吉だと思います。


 ボグラーの脚本100本トレーニングに近い練習を、映画監督を目指していた大学時代の村上春樹はやっていたようですが、(村上氏は大学時代。一年間に三百近い映画を鑑賞し、千を超える映画脚本を読破したそうです)映像科のある大学の図書館が利用できるとかでもない限り、そんなに映画脚本なんてものがたくさん置いてあるところはありません。(まあ、本屋とかには売ってないですよね)

 ですのでこのボグラーのトレーニングを実践するなら、脚本を読むんじゃなくて実際に映画を見た方が早いと思います。今なら動画配信で過去の名作なども安く見れますし、実際に三か月もの間、映画を見まくる行為は、結構覚悟と根気がいる作業ではあると思いますが、実践後には一皮剥けた物語作者になれるんじゃないかと思います。


 再プロット化は既存の物語を分析するときに有効な方法です。一つ一つのシーンを追っていたのではわからない、大きなお話の流れをつかむとても良いトレーニングです。

 そして物語を最初に自分の中から吐きだすとき、往々にしてそれは断片的なシノプシスだったり、抽象的なログラインだったりします。

 自分の中に多くのシノプシスやログラインを持っておけば、お話しの発想の幅が広がります。

 一歩上の物語創作者を目指す人は、時間をかけて取り組んでみてください。

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