トレーニングその七 プロット作り
物語を作るときに事前に短い要約を作り、伏線のチェックや物語の演出を調整することがあります。この短い要約のことをプロットと言います。
物語創りの代表的なトレーニングにこのプロットを大量に作るというトレーニングがあります。
プロットは物語の面白さの重要な要素で、人気作家の多くはこのプロット作成に呆れるくらいの個性と巧みさを発揮する人が多いようです。
また、小説執筆の初期段階で挫折する人の多くの原因が、まずプロットが書けないという理由に起因することも多いようです。
プロット作成トレーニングは初心者がまず取り組むべきトレーニングであると言えますし、上級者も時々見直すべき重要サブスキルと言えるでしょう。
この練習の代表株は何といっても大塚英志氏が*5「物語の体操」で示した、カードを使ったプロット作成法でしょう。巷の小説書きにプロットノックと呼ばれているトレーニングです。
数十枚の抽象的なキーワードが書かれたカードを無作為に選んでタロット占いの様に並べて、さながら物語の主人公たちの運命を占うようにしてお話しを作る練習法です。
練習法自体は「物語の体操」を読んでくださっても良いし、ネット上でも調べればわかります。しかもこの練習の実践を支援するフリーのソフトもいくつかあるので、プロットノックで検索してみてください。
やってみるとわかりますが、結構頭を使います。コツはまず並べたカードに沿って一つ一つエピソードを考えるのではなく、全体の流れを一度イメージしてみてください。
カードの言葉を機械的にエピソードに直すようなやり方が一番良くありません。かならず前後のつながりを意識してカードをエピソード化するようにしてください。
練習なんで多少の矛盾があっても、面白くなくともかまいません。もともとランダムなカードに話の流れがかなり支配されるので、スマートな物語を作るのは難しいです。
むしろ普通にお話しを考えたのではまず考えつかないような突飛な発想を発掘するのも目的です。カードの内容をあまり無視してスマートに書くよりは、愚直にカードに従った物語を不細工でも良いので考えてみてください。
慣れると次第になんか面白そうな話を書けるようになります。そうなったらしめたものです。
ちょっとした小話なんですが、この大塚氏のプロットノック、実は種類が二種類あります。初出の*5「物語の体操」で紹介された6枚のカードを並べるヴァージョンと*8の「神話の練習帳」で紹介された9枚のカードでやるヴァージョンです。
6枚ヴァージョンが過去、現在、将来、敵対者、援助者、結末とカードを並べるのに対し、9枚はそこにさらに送り手、受け手、アイテムという項目が追加されています。
このカードの並びなのですが、実はグレマスの行為者モデルという赤ずきんちゃんの様な比較的原始的で単純な物語の構造を図式化した物語分析の学説に、タロット占いの要素を組み合わせて作られてます。
過去、現在、将来、結末が起承転結で援助者とか敵対者、受け手、送り手とかがグレマスが示したキャラクター類型、つまり行為者です。
9枚版の方が元のグレマスの行為者モデルに忠実な方で、「物語の体操」では9枚版で追加されている送り手、受け手、アイテムというものは全ての物語に共通ではなくある特定のジャンルに見られるものだとして、汎用性を重視して省略された要素です。
この送り手、受け手、アイテムと入るのは主に探偵小説や冒険小説に見られる特徴だと言っています。
たしかにこの三つが入ると、どうしても何かを依頼されそれを届けるという赤ずきんちゃんや探偵小説的なシナリオに導かれやすいです。
どちらで練習しても良いのですが、お勧めは最初9枚ヴァージョンでいくつか作り、要領を掴んで来たら6枚ヴァージョンでプロットを量産してみてください。大塚氏はおよそ100本のプロットをこの方法で作成せよと言っています。
プロットとは物語の設計図の様なものですが、その書式なんかは統一の規格があるわけではありません、その出力形式も書き方も人それぞれです。
でも大きく分けて、あらすじ型と箱書き型に別れるようです。あらすじを作ってから箱書きを作る方法なんかもよく取られる方法です。箱書きとは元々映画脚本などに使われてきたプロットの書式です。
箱書きについて詳しく説明しますと。場所、時間、登場人物、主な出来事、伏線等読者に知らせる情報や主なセリフなどの核となる情報を書きだして、つまり映画などで言うワンシーンの要素を書きだします。場所、時間、登場人物などが切り替わったらそこがシーンの切れ目です。
箱書きは物語を整理するのにとても便利です。シーンを一つ一つに分解することで物語を俯瞰できますし、シーンの順番は何も時系列に必ずしも沿っているわけではないですよね? 例えば映画タイタニックではヒロインが老婆になった現代のシーンから、一気に過去のタイタニックが出港するところに飛んで、最後また現代に帰ってきて終わります。こういったシーンの順番を整理する時も箱書きにするとぐっとわかりやすくなります。
箱書きでプロットが書けると、とても便利です。初心者の人もまずは箱書きを書けるようにするといいですよ。
*11の「1週間でマスター小説を書くための基礎メソッド」では箱書きの形で短編小説のプロットを作るトレーニングを紹介しています。
三題噺という即興落語の創作法を応用して、三つのお題から一本の短編小説のプロットを作成するトレーニングです。あくまで小説ではなくプロットの作成トレーニングです。
三つのお題を何にするかは自由です。お勧めなのはインターネットのニュースサイトで目についた記事の内容や単語を拾ってくるという方法です。ついでに見たニュースは短編のネタにしても良いです。
まず三つのお題を考えるか用意して、それから四から六シーンの箱書きを作成します。このシーンの数は起承転結の四シーンにプロローグとエピローグを付けて六シーンにすると言った感じです。
一つの三題から二つのプロットを作ることを勧めています。一つ目を最初の思い付きで書いた後、それとは違う二つ目を作るという行為はちょっと負荷がかかり自然と技巧を凝らすことになるのだと言います。
三つのお題から創るかカードのキーワードから創るか、あらすじか、箱書かの違いがありますが、プロットノックとこの短編箱書きトレーニングはどこか似ていると思いませんか? プロットノックも四枚のカードが起承転結を表し、この箱書も起承転結をそれぞれ一つのシーンとしています。
手塚治虫が漫画初心者に四コマ漫画の練習を勧めていたのと同じで、起承転結の流れを身体に覚え込ますのにこういった短編のプロット作成は有効なのだと思います。
しかし、実際に巷にあふれる人気小説は単純な起承転結だけで終わっているわけではありません、ましてや四から六シーンしかない長編なんてものはまずありえません。
ですが、まずこのくらいの長さのお話しを上手に作れるようになることは、その後長編を書けるようになるために大事なことです。
そこでプロットノックや三題噺で実力を付けた後には、既存の物語から構造を抽出してプロットを作るトレーニングに進むのが良いでしょう。ここで扱われるのは起承転結よりもいくぶんか複雑な物語構造です。
再び*5の「物語の体操」から大塚氏が盗作のトレーニングという刺激的な名前で呼ぶトレーニングを紹介します。
これは既存の物語からお話の骨組みを取りだして、実際には取りだしたプロットを抽象化して、そこに再度別の表層を作り直すという作業を経ます。
*5「物語の体操」では手塚治虫の「どろろ」と村上龍「五分後の世界」を題材にその構造を取りだして、プロットを作るトレーニングを紹介しています。
こういった方法でトレーニングを積んだ後は、自分で既存の物語から構造を取りだすトレーニングに進むことになるのでしょうが、まずは*5「物語の体操」や同じ大塚氏の著書*19 (大塚英志 (2010) 物語の命題 6つのテーマでつくるストーリー講座 アスキー新書)なんかがこのトレーニングを扱っていますので、興味があったらまずこれらの書籍に目を通すことをお勧めします。
プロット作りは物語創作の大事な基本です。じっくりと取り組むべき課題ですし、また上級者になっても度々見直したいサブスキルです。
実際の創作の時も、すぐに書きだすのではなく、プロットの段階で良く構想を練ることは、傑作をモノにするのに大事なプロセスだと僕は思います。
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