トレーニングその五 小説音読

 小説の音読と聞いてもあまりピンとこない人が多いかもしれません。確かに僕も何冊もの小説教則本を読みましたが、小説の音読をトレーニングとして勧めている書籍は数えるほどしかありませんでした。

 しかし、小学校の国語教育や中高の英語教育などの語学関係の教育では、人気の筆写よりもメジャーな方法です。


 最近では脳トレとしての方が有名かもしれませんね。実際に音読の方が黙読より文章が頭に残りやすいことは、暗記なんかをやってみると良くわかると思います。

 この原因は口と耳と目を使うため、目だけの黙読より脳への刺激が強いためだと言われています。

 音読をすることで脳が活性化して記憶力が良くなるなんて言う人もいますが、まあそれが本当かは置いておくとして、実際に声に出し耳に記憶させた方が目の記憶より脳に残りやすいことは脳の専門家でも認めることの様です。


 練習としてはクローズアップされることは少ない音読ですが、実は推敲の時に音読を勧める小説書きは意外に多いんですよ。

 やはり、黙読より文章のリズムがわかると言いますし、一息に読み切れない文章は長すぎるので修正の目安にできる、誤字に気がつきやすい等の理由が挙げられています。


 僕は毎日の日課として、一日十五分の小説音読をしています。これは基礎の基礎トレーニングとして、技術の向上というよりは文章を書かない日でも小説のスキーマ(認知の枠組み)が衰えないようにするための保険としてやっています。

 十五分で読める文章の量は数シーン分と言ったところです。筆写よりは数倍多く文章を消化できます。一つ一つの単語のつながりまでには意識が及びませんが、文章のリズムやシーンの構成なんかはむしろ筆写より良くわかります。

 読むときに気を付けていることは、むしろ文章の音にならない要素、つまり句点や読点、段落の字下げなどに注意を払い、各点でしっかり間を開けて読んだり、段落の一塊を一息に収めるように注意して読んでいます。つまりリズムに気を配るということですね。

 文章にとってリズムは大事な要素です。色んな文章を音読していくと、自然と色々なリズムを身体で覚えていきます。


 実を言うと小説の音読は筆写に比べて上手い下手が出やすく、実践時にいくつか注意した方が良いポイントがあります。ここで少し音読のコツを考えたいと思います。

 まず、音読のさいに一番注意することは滑らかに読めているかです。小学校の国語教育なんかだと、滑らかに読めることそれ自体が国語力の証明だと考えられているくらい重要な要素です。当然滑らかに読むためには読めない漢字が無い状態でないといけません。読めない漢字が出て来たら、その場で調べましょう。そうやって語彙を増やしていくことも練習です。


 次にどのくらい感情をこめるかですが、無理に演技などはしなくても良いと思いますが、セリフなどにややニュアンスを込めても良いかもしれませんね。

 無理に音声化が難しいセリフ、例えば叫び声や喘ぐような声等をそれっぽく読むことも特に必要はないと思います。

 ですが滑らかに自然に読めることはやっぱりセリフでも大事だと思います。


 そしてある意味もっとも重要なのが、どんな小説を読むか、です。読む小説によって音読の難易度は全然違います。ライトノベルや現代小説それもエンターテイメント系は比較的容易ですが、文学や旧字体などが多い古典だと難易度が上がります。

 無理に難しい小説を読む必要は無いと思いますし、好きな作家のものを読めば良いと思いますが、あえて難易度の高い小説に挑んで国語力を鍛えるのも良いかもしれませんね。


 音読の究極の練習法は暗唱です。主に短編小説なんかを全文覚えてしまうトレーニングです。

*17 (岡本浩一 (2002) 上達の法則 PHP研究所)

 で紹介されているトレーニングで、主に技術に長けてきた上級者がさらに上を目指してやる練習だということです。特に英語の上級者の多くが何らかの文章を暗唱するトレーニングを積んでいることがあるのだとか。

 僕もまだそらで暗唱できる短編とかは無いんですが、暗唱したくなるような短編に出会ったら挑戦してみようかと思っています。


 音読、効果などで検索すると、音読が脳に良いという記事が大量にでてきます。これらの真偽について僕は確かな情報を持たないですが、音読は小説練習として継続しても苦が無くできるトレーニングだとおもいます。もちろん過度に長時間やるんじゃなく無理なくできる範囲でやるならばですが。

 頭の体操だと思って一日少しでもいいですから小説を音読してみるといいかもしれませんね。

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