第33話 コートラ街道
アイナス達と熱い別れをしてから三時間が経過した。今俺たちはコートラ街道をのんびりと進んでいる。コートラ街道はかつてエルドゥーバ内陸海沿岸を支配していた巨大帝国ロマによって敷かれた歴史的な道だ。エーギャ海とエルドゥーバ内陸海の二つの海が陸路で繋がれたこの道は、通商だけでなく旅行客や旅人も多く利用する。
ミトレアからヴェネスまでは約400km、一日中歩いて大体10日で着く距離だ。だが、馬で行けば一週間ぐらいで着くだろう。加えてコートラ街道は60km毎に馬小屋と宿屋があるので、俺たちや馬の疲労もあまり考慮しなくて済む。ハイペースで行けば実際はもっと早く到着するだろうが、せっかくの旅なので俺たちはゆっくり行くことにしている。
今日は昼までにタラ―ナ湖に行って休憩をし、日が沈むまでにオリル山の麓にあるノブロー村まで行こうと考えている。タラ―ナ湖までは後一時間もしない内に着くだろう。
「そういえばカシス、タラ―ナ湖にまつわる噂って知ってる?」
俺の横で馬を歩かせているシャルが口を開いた。
「いや、知らないな。湖の名前を知ったの一昨日だったし」
「まあそこまで有名な湖じゃないからね」
「それでどんな噂なんだ?」
シャルはタラ―ナ湖にまつわる噂を離し始めた。それは昔、新婚の夫婦が湖に訪れた時に起こった惨劇の話だった。近くの村に住んでいた新婚の夫婦が湖に訪れた時、王都から逃げてきた殺人鬼によって二人は殺害されてしまった。夫は生きたまま土に埋められ、妻は目をくりぬかれて湖に沈められた。夫の方は後日発見され、丁寧に埋葬されたが、妻は発見される事はなかった。妻の魂は未だ湖に縛られていて、夜に湖をのぞき込むと目のない女性が水面に映るという。
「めちゃめちゃ怖い話やん!」
「ほ、ほんとですよ! もう湖に近づけないです!!」
ルーイとエチュードは青ざめた顔で叫ぶ。
「怖いってよりも悲しい話だと思うわ」
「お化けなんてアンデットと一緒、死にぞこない」
怖がる二人に対し、セレンとクロリスは平気そうにしている。
「まあ事件は本当にあったみたいだけど、湖に映る話はただの噂よ……ってカシス? 顔色悪くない?」
「ふ、二日酔いだよ。まだ少し気分がすぐれないんだ」
「違う、カシス怖い話苦手」
「あっ、ふーん……そうなんだ」
クロリスの言葉を聞いたシャルは、口角を上げてニヤニヤと嬉しそうな顔をした。
「じゃあ湖に着くまでの間沢山怖い話してあげる!」
「やめろ! やめてくれ!」
こうして湖に着くまでの一時間、俺はシャルから怖い話を延々と聞かされ続ける羽目となった。
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