第31話 勝利の宴

 あれから何時間も経ち、辺りも暗くなった時、俺たちはトンペイオス海岸に居た。砂浜には机が置かれ料理が並んでいる。さっきまでここでは表彰式が起こなわれ、これから宴が始まろうとしていた。表彰式は至ってシンプルなもので、勝利したチームのメンバーに月桂樹の冠が被せられ、金のブレスレットが贈られて、讃えられる。だから俺の頭の上には葉っぱの冠が乗っている。正直不釣り合いな気もするが、まあいいだろう。


「似合ってるわねカシス」

「シャル、本当にそう思ってるのか?」

「もちろんよ。何? 疑ってるの?」

「多少な」

「何よそれ」


 シャルは俺を肘でこついた。


「でもまあ、無事勝って安心したわ」

「安心?」

「もし負けちゃってたら幸先悪いでしょ? 旅はこれからだっていうのに」

「負けたら負けたでそれも思い出だ。俺はいい事ばかりが続く方が怖いよ」


 「それも一理あるわね」と言ってシャルは微笑んだ。確かにエウクレイアを破り勝った事はとても嬉しいが、それよりもこの一週間以上の滞在で学んだ事の方が大きい。汗水垂らして仲間と共に何かに打ち込む事は、俺たち六人で共に旅をする事にも置き換える事が出来るだろう。これからの旅において、多少のしんどい事があったとしても乗り越えていける、そんな自信がミトレアでは身に着いた。


「さ、明日からしばらくはちゃんとしたご飯食べれなくなっちゃうし、今のうちにたくさん食べておきましょ」

「ああそうだな。酒も飲めなくなっちまうからな」

「明日の朝には出発するのよ? お酒は控えなさい」

「ええ!? ちょっとだけでもいいだろ!」

「だーめ」


 俺はシャルの監視下の元、宴を楽しむこととなった。


◇◇◇


「カシス、お前が居てくれて本当に良かった。感謝している」

「いや、アイナスの的確な指示と作戦があったから成し得た事なんだ。感謝するのはこっちの方さ」


 俺はヒッポスのメンバーと集まって盃を交わしていた。シャルにはああ言われたが、彼女はセレン達の方に行っているし、少しぐらいならバレないだろう。


「いやぁ、アイナスの言う通りだぜぇ? カシスが旗振りをしていたからこそ、勝利の女神様が俺たちに微笑んでくれたんだぁ」


 既にいい具合に出来上がっているオイウスが言う。そんなに褒めちぎられると何だか照れてしまう。


「それはそうとカシスよ、これからどうするつもりなんだ?」


 アイナスが俺に尋ねてくる。


「取り合えずはコートラ街道を通って王都の方へ行くつもりだな」

「王都ヴェネスか。ここから歩いて行くにはかなり遠いぞ?」


 アイナスは心配そうにしている。確かに王都ヴェネスはエルドゥーバ内陸海に面しており、ここから正反対の場所に位置している。歩いて行くにはアケーシュ王国を縦断する形となり、長く見積もっても十日ほどはかかってしまうだろう。


「そうは言っても歩き以外の方法は見つからないしなぁ」

「ああ、それならうちの馬を貸してあげるよ」


 突然魅力的な話を出してきたのは、右舷三列目を担当していたメラーキだった。


「そういえばメラーキは馬屋だったな。いいのか?」

「ああ、実は王都に居る弟に馬をあげるつもりでね。俺はしばらくここから離れられないし、良ければ乗っていくついでに届けてくれないだろうか?」

「なるほど、そういう事か。恩に着るよ」


 何とも運のいい事なのだろうか。まさか馬を貸して貰えるとは思わなかった。馬があればもっと早く王都に到着する事が出来るだろう。


「よし、我々の勝利とカシスの旅の無事を祈って乾杯!」


 アイナスの音頭と共に、ジョッキを高く突出し乾杯を交わした。そこから俺たちは他のチームと楽しく踊ったり、酒を飲んだり、うまい海の幸を食ったりして楽しい夜を過ごしたのだった。

 

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