第22話 勘違い

 さっき年配の女性に教えてもらった本部とやらは、大小色々な船が止まっている港の中央にある、鐘楼がついた聖堂の中にあるらしい。地図を頼りに歩き、その建物を見つける。聖堂というものの、街の小さな聖堂という感じで、都市部にある高い塔がいくつも立ち並んでいるような大きなものではない。聖堂の周りには屈強な肉体を持った船乗りが会場の設営を行っていた。今はお昼休憩らしく、資材の上で飯を食っていたりしている。俺達はその間を通り抜け、聖堂の中に入る。

 中は外と一転して、老人や老婆ばかりだった。彼らは大きな声で談笑しながら、手元でパンフレットを作っていたり、書類を確認したりしているなどの事務作業を行っていた。

 俺はその中で受付らしき婆さんを見つけ、声をかけた。


「すまない、"船闘祭"について尋ねたいんだが……」

「ええ? なんだって?」


 耳が遠いのか、耳に手を当てて聞き返してきた。


「"船闘祭"について尋ねたいんだが!」

「ええ?」

「"船闘祭"!!」

「ああ、祭りの人ね。はいはいちょっと待ってね」


 少し声を大きめに言ってようやく通じた。婆さんは机の下から何かを取り出そうと身をかがめた。そして取り出してきたのは祭りに関する書類だった。書類はこの辺りで使われているギーシャ語で書かれていた。ギーシャ語は俺達が普段使っているニーフェ語とはまた違う。一応この地域はニーフェ語でも通じる。だが、地域で使われる書類等ではやはりギーシャ語がつかわれている。一応俺は仕事柄様々な言語を学んできているので、読めなくはないが完全に理解するのは少し厳しかった。恐らく祭りについて書いているのだろう。よく分からないが取り敢えず俺はサインをした。


「あら、お兄さんこの辺りの人じゃないのね」


 婆さんは俺の名前を見て、驚いたような顔をした。


「ああ、東の方から来たんだよ」

「あらあら、それはそれは。そんな遠い所からわざわざお祭りに参加しに来てくださるなんて」

「参加?」


 おいおい、何だかとんでもない誤解が生まれているような気がしてきたぞ。そう言えばここを教えてくれた女性も、頑張れだのなんだのと言っていた気がする。もしかしてこの流れはまさか……


「ええ。"船闘祭"に参加しにきたんでしょう?」


 やっぱりだ。何かおかしいと思っていたが、まさかそういう誤解をされているとは。


「い、いや俺たちは単に――」

「おうアウラ婆さん、誰か参加者は来たか?」


 丸坊主でガタイの良い男が、俺の言葉を遮り、割り込んできた。


「ええ。そこのええと、カシスさんという方が書類にサインしましたよ」

「おお!」


 男は俺の方を見た。男は二メートル近い身長を持っているので、必然的に俺を見下ろす形となっている。そんな大柄の男は、岩の様な固い手で、俺の全身を触り始めた。とてもくすぐったい。男はある程度俺を触ると、満足したようにうなずいた。


「いい身体だ! 兄ちゃん何やってたんだ?」

「あー……商人だな」

「商人か! 荷物の運搬で体使うもんな!」


 そう言って男は豪快に笑い、俺の背中をバシバシと叩いた。


「実は俺は参加をする訳では――」

「そうだ、まだ自己紹介をしていなかったな。俺はパラロス、この祭りの司会者だ!」


 話を聞けこの筋肉ゴリラが。

 誤解を解く事が出来ないまま、パラロスは祭りについて説明をし始めた。

 


 

 

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