第一章 明けの旅路

第20話 ミトレアへの道

 ルーイ達を叩き起こした後、俺達は散乱した荷物をまとめて砂浜を発った。取り敢えず近くにあるミトレアという小さな街を目指して歩く事にした。まっすぐ歩けば昼にはつくだろう。

 この辺り――バールロイ地方は温暖な気候であり、道端には様々な植物が盛んに生えている。時折吹いてくる暖かな南風は潮の香りを乗せてきて心地がいい。目の前には草原が広がっており、非常にのどかな風景だ。


「いやーいいっすね。あの街に居たら絶対に見れなかったっすよ」

「本当にきれいです……!」


 今まで薄汚れた街しか知らなかったルーイとエチュ―ドは、この光景に感動している様だった。

 周りは自然に囲まれているが、俺達は舗装された道を歩いている。地図によればこの道はアケーシュ王国の海岸線に沿って敷かれているステアロス街道というらしく、ミトレアを始めとしたいくつかの港湾都市を繋いでいる。恐らくここは通商路のようで、しばらく歩いていると向こう側から荷物を運んでくる馬車が見えた。馬車は俺達の近くまでやってくる。そしてすれ違う手前で、日焼けした色黒い御者の男が話しかけて来た。


「よお兄ちゃん。そんな女の子ばっか連れてどこ行くんだい?」


 陽気なノリで話しかけて来た男に、シャルとエチュードは警戒をしている素振りを見せたが、俺は大丈夫だという意味のハンドサインをして彼女たちをなだめた。


「ミトレアの方に行こうとしてるんだ」

「ああ、もしかして"船闘祭"を見に行くのか」

「"船闘祭"? 何なんだそれは」


 聞きなれない単語が出て来た。俺達はみんな頭の上にはてなを浮かべている。


「嘘だろ!? 兄ちゃん達一体どこから来たんだよ」


 御者の男は俺達の反応を見てとても驚いている。何処から来たという問いかけには、セーランから来たと言えば奴隷商と思われるだろうから、東の方とだけ答えておいた。

 話を聞くと、どうやらこの辺りは有名な祭りらしく、魔よけの為に小さな船同士をぶつけて戦わせる祭りらしい。ちょっと危ない気もするが、面白そうだ。


「何かの本で読んだことがあるけれど、実際に見た事は無いわね」


 シャルはとても興味があるようだった。他のみんなも面白そうだと口をそろえて言っている。


「よし、それならその"船闘祭"とやらを見てみようじゃねぇか」


 俺達は御者の男に礼を言って別れた。そしてミトレアへ向けて再び歩き始めた。

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