第19話 夜明けの旅立ち
ざあざあと波の音が聞こえてくる。
意識を取り戻した俺は身体を起こし、目を開けて周りの様子を見る。綺麗な砂浜だった。いや、綺麗は言い過ぎか。よく分からん漂流物が散らばっていたり、どっかからか流されてきたボロボロの流木がぶっ刺さっている。でも、初めて砂浜を見た俺からすれば、昇って来た太陽の光に反射してきらきらとしているそれは、綺麗だという感想しか出てこなかった。
そんな海岸線をいつまでも見ている訳にはいかない。キョロキョロと首を動かし、シャル達を探す。彼女たちは直ぐに見つかった。俺の右斜め前の波打ち際で突っ伏していた。濡れた色とりどりの髪が海藻みたいで少し笑いそうになった。どうせその内起きるだろうから、放置しておこう。
次に俺は荷物を探した。背負っていた旅用の鞄は、少し離れた所に転がっていた。旅人の地図で現在位置を確認するために立ち上がり鞄に向かってフラフラと歩いた。
鞄を開けて、地図を取り出し現在位置を確認する。今俺達が居る場所は、セーランから遥か西、大陸の切れ目――エルド海峡を渡った先にあるアケーシュ王国の南部にある小さな砂浜だった。ルアーラ海岸というらしい。近くにミトレアという小さな町があるくらいで、他には何もない様な所だった。これでしばらくは奴ら《プラネテス》も追っては来れないだろう。
「カシス……」
ふと足元から声が聞こえて来た。下を見ると、薄い桃色の髪を海水で濡らしたシャルが見上げていた。彼女だけが目を覚ましたようで、他の奴らはまだ伸びている。副作用で立ち上がれないのか、ここまで這って来たみたいだ。
「目を覚ましたのか」
「ええ。気分は最悪だけれどね……それで私たちは今どこに居るのかしら」
「アケーシュの南部のルアーラ海岸とかいう所らしい」
俺はシャルに地図を見せた。シャルは地図を拡大したり縮小したりして、現在位置を確認した。
「ルアーラ……古代エルフ語で"始まり"を意味する言葉ね。私たちの旅の始まりに、こんな偶然が起こるなんて」
「いや、偶然なんかじゃねぇよ」
シャルは俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべた。全く、最期まで粋な事をしてくれるじゃねぇか。こういう言葉遊びみたいな小ネタを挟んでくるなんてあいつらしい。
「さて、あそこでくたばってる奴らを起こして、ミトレアに行こう。今から出れば昼にはつくだろう」
「ええ」
俺達は地平線の向こうで輝いている太陽の光を浴びながら、波打ち際に歩いて行く。これから待ち受ける旅は過酷なものだろう。だがその中でも、見た事も無い景色や街、生き物、そして新たな発見や出会いが苦しみよりも遥かに多く散らばっているに違いない。俺はそれを見てみたいし、こいつらにも見せてやりたい。
例え途中で命を落としたとしても、最期に旅に出て良かったと思える経験を!
奴隷商人は旅に出たい―序章 完
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