第18話 足止め

 人かどうかも疑わしい化け物相手に絶体絶命だった状況が、ドーゥバの登場で急転を迎えた。いつもは憎たらしい奴だが、今はとてもたのもしく見える。これがつり橋効果というやつか? いやそれは無いな。

 ドーゥバは巨大なハンマーの柄で、あの大剣とつば競り合っている。一般的なハンマーに比べて柄が太いとはいえ、アーヴィスの大剣を受け止めている所からただのハンマーではないのだろう。

 

「うぉらぁぁぁ」


 ドーゥバは雄叫びを上げ、力いっぱいアーヴィスを突き飛ばした。アーヴィスは倒れはしなかったものの、後ずさりをして俺達との距離を開けた。だが体制を整えればすぐに詰めてこれる距離だ。それでもこの好機をドーゥバは逃さなかった。

 奴は首にかけていた白い水晶の様なものを引き千切り、俺達の方へ投げた。水晶は地面に思い切り叩きつけられ、粉々に砕ける。一瞬頭でもおかしくなったのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。水晶が砕けた場所は暑い日の地面から発せられる陽炎の様にゆらゆらとしている。そのゆらめきは渦を巻き、やがて転移門ゲートへと変化した。

 転移門ゲートが出現したと同時に、それを破壊しようとアーヴィスは再びこちらへ突撃してくる。流石に奴も本気で止めに来ているらしく、さっきよりも凄まじい勢い剣を振るった。ドーゥバも再びハンマーでそれをせき止めたものの、その勢いはすさまじく、大剣とハンマーがぶつかると同時に衝撃波が発生し、ドーゥバの脚は変な方向に曲がった。だがドーゥバはそれでも立っていた。


「ドーゥバ!」

「カシス! 俺はこのクソ野郎を足止めする! 今のうちに転移門ゲートへ飛び込め!」


 ドーゥバは俺の唯一の友人、いや悪友だ。ロクな付き合い方をしてきた訳ではないが、曲がりなりにも友と呼べる奴だ。そんな友人を置いて逃げるなんて出来る訳が無い。


「馬鹿野郎、そんな事出来る訳ねぇだろ!」

「うるせぇよ、はよ飛び込めボケが!」


 いつも通りの悪態をついてくるが、奴の体はそろそろ限界を迎えようとしていた。口から血を流し、元々小柄な体は押しつぶされて更に小さくなっている。持って数十秒と言ったところだろう。もう奴が助からない事ぐらい、俺にも分かる。だが、それでも大人しく逃げるなんて俺には出来ない。

 俺はドーゥバを引っ張ろうと手を伸ばすが、後ろから伸びて来た色白く細い手がそれを阻止した。シャルだ。シャルは無言で首を横に振った。お前に何が分かる、と言ってやりたかったがグッと言葉を飲み込む。


「みんな……転移門ゲートへ入れ……」


 俺はシャル達に転移門ゲートへ入るように指示をする。彼女たちは俺の言葉に従い、素直に入っていった。

 彼女たちが全員入ったことを確認して、俺も転移門ゲートに近づいた。転移門ゲートに入る前、俺は後ろを振り返ってドーゥバを見た。全身の穴という穴から血を流しながらも、倒れる事なく踏ん張っている。俺はその姿を目にした時、言葉では言い表せられない感情に襲われて、思わず目を逸らしてしまった。そして奴を見ないまま、別れの言葉を交わした。


「ドーゥバ……すまない」

「いいって事よ。次は地獄で会おうぜ」


 転移門ゲートへ入った俺は、全身に強い衝撃を受けた。そしてそのまま俺は気を失った。

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