第13話 帰宅
ドーゥバに別れを告げ、俺達は家に帰った。丁度セレンとエチュードも帰ったばかりの様で、買ってきた非常食やポーションをバッグに詰めている所だった。
「ルーイ、留守中に何かあったか?」
「何もなかったっすよ。二階から通りの方見たりしてたけど、誰も通らなかったっす」
それは帰っている途中も感じたが、誰ともすれ違う事は無かった。いつもなら、家の前は人通りが多い。だが、誰一人見る事は無かった。多分皆避けているんだろう。
俺は荷降ろし、古参の四人に荷物をまとめるように指示をした。彼女たちが旅支度をしている間に、俺はシャルと解放する予定の六人の様子を見に行くことにした。まずはシャルの方を見に行くとしよう。
シャルは俺の寝室で待機してもらっている。寝室に入ると、彼女はベッドに腰をかけて読書をしていた。俺の本棚から取ったものだろう。『フォースレイン王国史』という歴史書を読んでいた。
「そんなもの読まなくても、お前はその本よりも王国に詳しいだろ」
「ええ。でも私が知っているのは王家の人間として教えられた偏った歴史よ。歴史を学ぶためには、他国から見た歴史も学ぶべきなの」
単なる箱入り娘だと思っていたが、しっかりした面もあるもんだ。俺はただ教養を身に着けようとしてその本を買ってペラペラと流し読んだきりだった。まさか本自身もじっくり読まれるとは思ってもみなかっただろう。本自身が思うって変な話だが。
取り敢えずシャルに変わりが無い事は分かった。俺は、今下でみんなが旅支度を進めているから手伝って来いと彼女に言った。彼女は分かったと言って、本を本棚に戻して下に降りて行った。
俺は次に解放予定の六人の元へ訪れた。彼らには応接間で待機してもらっている。この六人はここ一年の間に買った奴隷達で、種族性別はバラバラだ。皆どことなくそわそわしており、落ち着きがない。俺が部屋に入って来た事に気づいた、最年長のペシアがこちらを見て、栗色の髪揺らしながら頭を下げた。
「お疲れ様ですカシスさん」
「おう。みんな元気か」
「はい。みんな元気です」
ペシアは笑顔で答えた。彼は非常に美青年で、その整った顔から発せられる笑顔はとても眩しかった。
「そりゃよかった……これからどうするか決めたのか?」
「俺の親戚がセレニイウムのミオニアルに住んでるんでぇ、取り敢えずそっちにみんなで行こうかなって」
俺とペシアの会話に割り込んできたのはパースだった。パースは人間とリザードマンの間に生まれた、少し珍しいハーフ・リザードマンだ。人間の血が強いものの、全身は鱗に覆われ鋭い緑色の眼、そして長い尻尾を持つ。ちょっとおちゃらけた奴で、たまに空気が読めない事もあるが悪い奴では無い。
「カシスさんは何処を目指すつもりですか?」
ペシアの質問に、俺は直ぐに答える事は出来なかった。何も考えていなかったからだ。
「あー、何も考えてねぇなぁ……まあ奴らから逃げながら帝都ソーリアの方に歩いて行くかな」
「じゃあ僕達とは反対の方向に進むんですね」
そうだな、と俺は答えた。帝都ソーリアはこのニ―フェリア帝国の首都で、セーランから北東の方にある。一方ペシア達が目指しているミオニアルは、帝国の南側にあるセレニイウム共和国の街で、セーランの南東に位置する。門を出るまでは一緒だが、そこからは彼らと別行動になる。
「お前らの分の旅道具も買ってきたから、下に降りて準備を進めろ」
「色々良くしてくださって、本当にありがとうございます」
ペシア達は俺に深々とお辞儀をした。この礼儀正しさをルーイ辺りも見習ってもらいたいものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます