第12話 旅人の地図

「これでよし」


 俺とクロリスは、肩を撃たれたドーゥバを寝室へと連れて行き、治療に当たった。幸い傷はそこまで深くは無いので、銃弾を取り除き傷口を縫う応急処置を行った。


「すまないドーゥバ」


 俺はドーゥバに謝った。俺がここに来た事で、こいつは怪我を負ってしまった。軽傷だったからよかったものの、もしこれが頭に当たっていたらと思うとゾッとする。巻き込んでしまった事に対する罪悪感を感じていた。だが、ドーゥバは大声で陽気に笑いながら俺の肩を叩いた。


「そんな気にすんなて。どうせお前が来なくても連中は来ていたに違いないぜ。お前たちが居たからこそ肩を撃たれただけで済んだんだ」

「しかし……」

「うじうじすんなよみっともねぇ! 俺はまだ生きてるからいいだろうが!」

「そうだカシス、お前は今凄く女々しいぞ」


 ドーゥバだけでなく、クロリスまでもが俺の事を女々しいだのなんだのと言ってくる。確かにいつまでもくよくよしているのは、男としてどうかとは思うが……


「しかしまぁ、連中も本気でお前たちの事を狙ってるんだな。こいつは街を出る事さえ一筋縄ではいかねぇなぁ」


 全く持ってその通りだ。何か策を建てなければこの街を出る前に捕まり、殺されてしまう。この街にはリモネ以外にも"放浪者《プラネテス》"はまだ滞在している。集団的に動くのはリモネとレツェールぐらいだろうが、例え一人であったとしても、とても太刀打ちできる相手ではない。正面突破は百パーセント無理だ。だが、今ああだこうだと一人で考えても仕方がない。一度家に戻って策を練り直そう。


「取り敢えずいったん家に戻る事にするよ」

「ああ、いつまでもいられちゃ俺の命まであぶねぇよ。さっさと帰んな」

「色々ありがとうな」


 俺はそう言ってドーゥバと握手を交わした。こいつと会うのは恐らくこれが最後となるだろう。悲しいが仕方がない。俺はただこいつの無事を願う事しかできない。

 荷物を持ち、クロリスを連れて店を後にしようとすると、ドーゥバは俺達の事を呼び止めた。そして、こちらに向かって何かを投げて来た。俺はそれをキャッチして、手にある物体を見る。それは丸められて、紐でくくられているが、恐らく地図だという事がわかった。


「それは旅人の地図と言って、今いる地点が一目でわかるようになっている。行きたいところを指先で叩いてやると、そこまでのルートが地図の上に浮かび上がるっていう便利な代物だ」



 俺は紐を取り、地図を開けた。地図は少し小さく、帝国領しか描かれていなかった。


「そいつは特別な魔法がかけられてあって、開いた地図を振れば大きくなって表示される場所が広がるんだ。机一つ分の大きさでエルドゥーバ大陸全土が見れるぞ」

「小さくしたいときはどうするんだ?」

「丸めるだけでいい。勝手に小さくなる」


 聞いた通りに地図を振ってみる。すると、地図は一回り大きくなり、表示される範囲は公国領まで広がった。成程、これは便利なものを貰ったな。


「本当に何から何まですまない」

「気にすんなよ。おめぇにはいくつも借りがあるからな」


 そう言って、ドーゥバは豪快に笑った。 


 

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