第10話 ドワーフの友人
「おいドーゥバ、居るか?」
俺は汚れたドアを乱雑に開き、店の中に入る。その瞬間、店の奥から何かが飛んできた。俺は咄嗟に首を斜めにして、それを避けた。幸いドアの前は段差になっている事と、彼女が小柄だったこともあり、俺が避けてもクロリスに当たる事はなかった。
「お前何すんだよあぶねぇだろ!?」
「それはこっちの台詞だ馬鹿野郎!」
店の奥から小柄ながらも屈強なドワーフの男が姿を現した。時々声を裏返しながら怒鳴り散らしており、手には弓を持っている。ドーゥバルーラだ。
「おめぇはどの面下げて俺の前に現れてんだよぉ! お前が例のお姫様を落札してからこっちも命を狙われてんだよおめぇのダチって理由で!」
ドーゥバは相当怒っているようで、つるっぱげのデコに大きく血管を浮き上がらせている。
「しゃーねぇだろ? お前は俺のダチで、俺はお前のダチなんだから」
「意味が分からねぇよ。第一なぁにをとち狂って、"放浪者《プラネテス》"に喧嘩を売ってんだぁ!?」
「まあまあ、色々深い訳があるんだよ。取り敢えず奥の加工場に行ってもいいか?」
俺の言葉に、ドーゥバは舌打ちをしながらもついて来いと一言言った。俺とクロリスはドーゥバに連れられて、店の奥にある加工場へと行った。
加工場は主に武具をつくる場所だ。ここでつくった武具を表の店に出している。加工場と聞いて、鉄をかんかんするイメージを持っている人も多いかもしれないが、ドーゥバの場合は違う。こいつは魔法武器専門の鍛冶屋だ。だから加工場には金床や溶鉱炉の様な物はなく、よく分からない液体や結晶、植物が所狭しと並んでいる。部屋の中心に何やら特殊な作業台が置いてあるが、俺には何が何だかさっぱりわからない。部屋の隅にある来客用の席に座ると、俺はドーゥバにここまでの出来事を話した。ドーゥバは短くそろえた髭を撫でながら、俺の話を聞いていた。
「そうかそうか、おめぇもようやくこの街から出ていくのか」
「なんだ? 寂しいのか?」
「嬉しいに決まってるだろ馬鹿野郎」
ドーゥバはこう言っているが、どうせ本心は寂しいと思っているに決まっている。俺以外に友達も居ないだろうしな。
「で? この俺に旅道具を売ってくれと?」
「ああそうだ。他の店じゃ足がついちまうからな」
「だろうなぁ……聞いた話じゃリモネの手下共がおめぇの事を嗅ぎまわってやがるらしいな。ここももうじきやべぇかもしれねぇ。だから何か買うなら早くしやがれ」
こいつは口こそ悪いが、何だかんだで優しい面もあるから憎めないんだよな。俺は言葉に甘えて、旅に必要な道具のリストをドーゥバに渡した。奴はリストを見ると、慣れた手つきで道具をかき集め、袋にまとめた。ついでに魔法の剣を二本、おまけで貰った。これはルーイにでも渡そう。
「これで全部か?」
「ああ、助かったよ。ありがとう。金は机の上に置いとくぜ」
俺は懐から金貨が入った袋を取り出し、中を確認せずに置いた。実際の金額よりも少し多いだろうが、今まで世話になった分だ。
「じゃあな。しばらくの別れになるだろうが、くたばるんじゃねぇぞ」
「おめぇこそその辺で野垂れ死ぬなよ」
お互いに暴言で別れを告げ、俺とクロリスは店を出ようとした。するとその瞬間、ドアは激しく蹴破られ、外からスーツ姿の男達が五人、店内に乱入してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます