第9話 買い物
皆を自由の身にした俺が次にやらねばならない事は、旅支度だ。と言っても、俺の家には何もなく、旅に使われるローブや物品、そして身を守るための武器なんてものはない。だから店に行って買ってこなければならない。食糧や薬品はセレン達に買いに行かせればいいが、旅の物品を一般の店で買うのは危険だ。今この街で旅の準備をしているものが居ると知れ渡ると、疑われてしまう可能性がある。誰が何を買ったかぐらいは"放浪者《プラネテス》"ならば把握するに違いない。特にリモネやレツェールは多くの部下や信者を抱える奴らだ。情報戦にはかなり強いだろう。そこで俺は古い友人の店に行く事にした。
友人の名前はドーゥバルーラ。ドワーフの男だ。俺がこの街で商売を始めた頃からの付き合いで、この街で唯一信用できる奴だ。奴の主は魔法武器を扱う鍛冶屋を営んでいるが、旅人向けの商品も扱って居た筈だ。きっと奴なら口も堅いし、俺が旅に出る事を秘密にしておいてくれるだろう。
外に出るにあたり、一人で行くべきではないと思う。俺自身は身を守る術を持ち合わせていないので、襲われたら死んでしまう。そこで俺は魔法が使えるクロリスを連れて行く事にした。俺が居ない間に家が襲われては困るので、家に唯一ある長剣をルーイに渡し、シャルを守るように指示した。ルーイは頭こそよくはないが、剣術や武術といった身体的な能力や技術はかなり高い。そこを見抜いて競り落としたのだが、客のウケは悪かった。
「じゃ、行ってくるわ。ルーイ、シャルの事を頼んだ」
「はーい、このルーイにお任せっす」
俺とクロリスの組、セレンとエチュードの組に分かれて買い出しに行くことになった。家にはシャルを守るルーイと、旅に同行しない六人の元奴隷が残る。奴隷たちに買わせに行っても良かったが、流石にそこまでやらせるのは申し訳ないと思っているので、それはやめておいた。
少し時間をずらして、俺達は家を出た。俺とクロリスは深く帽子を被り、ドーゥバルーラの店がある"鉄箱通り"に向かう。俺達の住む高級住宅街から徒歩で十五分ほどの所にある。"鉄箱通り"には、鍛冶屋や武器屋といった武具を売る店が集中しており、他の区画よりも平均温度は十度程高い。名前の由来は、その通りを囲むトタンや鉄骨で造られた、武骨な外見をした店がまるで鉄の箱を作っているように見えたからだ。
十分程歩くと、鉄箱通りの入り口が見えた。道中声を掛けられることは無かったものの、情報は既に回っている為か、俺を見る目が普段よりも強いように感じた。
「カシス、ここ暑い」
クロリスは暑そうに服をパタパタさせていた。まだ中に入ってすらいないのに、凄い熱気だ。
「暑いから帽子脱いでいい?」
「駄目だ。店の中に行くまで我慢しろ」
俺の言葉にクロリスはしょぼんとした。ここでぶっ倒れられても困るから、さっさと店に入ってしまおう。ドーゥバルーラの店は"鉄箱通り"を入って右に曲がった路地の奥にある。薄暗い路地を通り、俺達はドーゥバルーラの店に辿り着いた。
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