第8話 旅の話
俺は皆に事の顛末を話した。皆俺の意見を聞いて、一先ず売り飛ばされることはないと分かり安堵した表情をしたが、今度はどうすればいいのかという不安な顔をしている。そんな中でもやはりと言うべきか、ルーイは脳天気な表情をしていて、事を重く受け止めている風には見えなかった。
「じゃあうちらはようやく自由の身って訳っすか?」
「まあそうなるな。いくらか金を渡すから、好きな所に行けばいいと思うが……」
俺は少し言葉に詰まった。今金をポンと渡して一斉に解放した場合、その辺のゴロツキや人さらい、運が悪ければ俺とシャルを追う"放浪者《プラネテス》"に捕まってしまうだろう。別に俺はこいつらの事を心配している訳では無い。ただ、俺の事をよく知っている連中なので、何か情報を相手に渡されたら困るだけだ。特にルーイを始めとした古参の四人は俺の事を熟知している。だから捕まったら困る。決して心配している訳では無い。断じて違う。
「でも好きな所に行けと言われても、私たちに行く当ては無いですしねぇ」
俺の言葉に反応したのはセレンだった。セレンは比較的年齢層の低いここの連中の中では最年長だ。そして賢い。本人曰く、元々学者の娘だったらしく、幼少期から拐われるまで膨大な知識を蓄えていたらしい。そんな彼女はその知識を生かし、錬金術に日々取り組んでいる。
一昔前は錬金術と言えば金を生み出す目的で行われていたが、今はポーションの調合をしたり、道具にエンチャントをしたりする事も錬金術の一つと扱われている。普通の奴隷商なら、そんな事を奴隷にさせるなんてありえないが、せっかくの知性を無駄にさせるのも勿体ないし、それに彼女が作るエナジーポーションは夜の仕事には役立っていたから、俺は錬金術をする事を許可していた。
「そうだよなぁ。でもどっかに売り払われるのはいやだろ?」
俺がそう尋ねると、皆は即座に頷いた。売られるのだけは嫌らしい。
「あ、あの……」
どうしようかと悩んでいると、おずおずと手を挙げた少女が居た。エチュードだ。彼女は気が弱く、会話に参加する事もあまり無いが、たまに出す意見は的を得たものが多い。なので、俺も皆もなにか良い意見を出してくれるのかと期待してエチュードを見る。大勢に見られている為か、彼女は恥ずかしそうに顔を隠しながら話した。
「そ、その、カシスさんの旅について行っては駄目なんでしょうか?」
「それめっちゃいい案! そっちの方が絶対楽しいやん!」
ルーイはエチュードの提案に食い気味に答えた。確かにこれはいい案だと俺も思う。俺とシャルだけではやれることは少ない。人手が居る方がいいだろう。だが、十人全員を連れて行くのは現実的ではない。
俺は皆に、そんなに多く連れて行く事は出来ない事を伝えた。また、俺やシャルは狙われており、安全な旅ではないという事も伝える。そのうえで、旅に同行したい者を募った。結果はというと、古参の四人が旅に同行したいという意思を表明した。残りの六人はこれ以上俺に迷惑をかけたくないからという理由で、自分たちで生きていく事を選択した。
一先ずこれで奴隷をどうするかについての問題は蹴りがついた。俺は皆を連れて作業場に行った。そこで、背中に押してある小さな印――奴隷であることを示す魔法の契約印――の上に、特殊なペンを使いバツ印を書いた。すると、その印は見る見るうちに消えていった。これでここに居る皆は晴れて自由の身となったのだ。
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