第6話 おしゃべり
「なあ、何て呼べばいいんだ?」
俺は馬車の中でお姫様にずっと話しかけていた。なるべく恐怖を感じさせない様に軽い口調で話しかけているのにもかかわらず、彼女は館長室で会った時からずっと無言を貫いている。
「おいおい、これから長い間一緒に居るんだから少しはコミュニケーションを取ってくれてもいいんじゃねぇの?」
「……貴方は奴隷商人なのでしょう? 何故貴方の手元に長い間置いておかれるのかしら」
彼女はようやく口を開いた。とても不愉快そうな口ぶりで。っていうかそこを突っ込まれるとは思わなかった。
「あー、まあ確かにお前を売っぱらえば、俺は世界的富豪にもなれるかもしれんな。だが俺はお前を売ったりはしねぇよ」
「何故?」
「俺は奴隷商人を辞めるんだ。今回のオークションは引退試合って訳だ」
俺の言葉に、彼女は拍子の抜けた表情をした。
「でも私を手放さないと、貴方は色々な方面から狙われるのよ」
「そんな事は分かってるさ。でも俺は今の生活に満足していないんだ」
俺は彼女に、落札するに至った考えを述べた。仕事に嫌気がさし、それから逃げるように旅に出ようと考えた事、そのきっかけとして落札しようと決意した事。俺の話を聞くうちに、固かった彼女の表情や、敵対心は薄れていったようで、話の終わりには年頃の少女らしい柔らかな表情になった。
「じゃあ私は貴方と旅に出るって訳ね」
「まあそうだな。お姫様からすれば考えられない生活をするかもしれないが」
彼女を買うのに大金を注いだ為、俺の預金はあまりない。一応生活が出来るくらいには残っているが、少し節約をしていかなければならない。だから時として野宿を強いられることもあるだろう。俺は正直そんな生活をこんな箱入り娘が出来るとは到底思えなかった。しかし、意外な事にも彼女は俺の言葉に目を輝かせていた。
「何でそんな嬉しそうなんだ?」
「だって楽しそうだもの。私はずっとお城で生活していたのよ? 外の世界を見てみたいの」
成程。確かに彼女ぐらいの年齢なら色々な事に興味が湧く頃だろう。それと同時に何かに縛られる事を嫌う年齢でもある。特に彼女は同じ年齢の子供よりも縛られた生活をしていたから、余計にそういった自由を求めているのかもしれない。
「よっしゃ。なら俺と一緒に世界を見て回るか! 実を言うと俺もこの街から出たことが殆ど無いんだ。だから俺もお前と同じように、世界を見てみたいんだ」
「随分裕福そうな割に旅行とかしなかったのね……後私はお前って名前じゃないわ。シャルロット・フォースレイン。まあ家が滅んじゃったからシャルロット……シャルでいいわ。あなたの名前は?」
「カシスだ。好きに読んでくれて構わない」
「カシスね。これからよろしく」
お互い自己紹介をし、握手を交わす。シャルロットことシャルは、この時初めて笑顔を見せた。年相応のかわいらしい笑顔だった。
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