第4話 最後のオークション
まさかの展開に、リモネも観客も皆呆気に取られていた。ここで初めて札を挙げたことは勿論だが、まさか4億以上を一度に出してくるとは思ってもいなかったようだ。通常のオークションなら間違いなく悪手だろうが、その桁違いの額にリモネは手も足もでないようだった。
「き、9億が出ました」
ここまで冷静に進行してきた競売人も、流石に驚いたようで声が震えている。
「他におられませんか」
競売人は再び会場を見渡す。勿論こんな額で札を挙げられる奴はいないだろう。9億もあれば大国の爵位を買えるぐらいの額だし、何なら端っこにある本当に小さい国なら買収出来るんじゃないだろうか。大物の商人ならこれくらいは出せるかもしれない。でも、今後の生活を考えれば実際は出さないだろう。
「それでは、9億で一番の方が落――」
「9億5000万」
だが、俺は全財産を捨てる覚悟でここに座っている。この数年間ひたすら貯蓄に回していた俺の資金源を舐めるなよ。
会場は俺の行動に大きくざわめいている。あの"放浪者《プラネテス》"達でさえ俺の事を見ている。たった一人、アーヴィスを除いて。
アーヴィスは無言で札を挙げる。その額は9億7000万。それに対抗するように、俺も札を挙げる。9億8000万。対して奴は追加で2000万を乗せて来た。これで現在の価格は10億に到達した。誰も経験したことの無い、歴史に残る奴隷オークションだ。群衆もその額に大きくどよめいている。
俺はここで一気に離すべく、10億5000万を掲げる。普段ならこんな事はしないが、ここまで来て引き下がる訳にはいかない。だが奴もまだ出せるらしく、10億7000万を出してきた。そこから俺とアーヴィスの競り合いが続き、やがて11億5000万に到達した。
「一番の方、11億6000万」
アーヴィスが札を挙げる。奴の出した金額を見て、俺は捨て身の覚悟で一気に蹴りを付けることにした。
「13億だ」
俺が提示した金額に、誰もが眼を見開いた。競売人も思わず持っているハンマーを落としそうになっていた。群衆は皆俺を見た後に、アーヴィスの方を見た。アーヴィスは、少し考え込むようなしぐさをした後に札を膝の上に置いた。
場内にハンマーの音が響く。
「13億で六番の方が落札されました」
俺は人生最後のオークションに勝ったのだった。場内はこの歴史的オークションに対し、拍手が巻き起こっていた。俺は立ち上がり、競売人に、群衆に、そしてじっと座っている"放浪者《プラネテス》"共に深々とお辞儀をした。
「それでは六番の方、ステージの方へおあがりください」
奴隷商人人生の中で初めて、俺はこのステージに上った。ここから見る景色はとても良いものだった。
俺はもう一度深々とお辞儀をして、さっさとステージから降りた。挨拶をしてくれと言われたが、大勢の人前で話すのは少し苦手な為辞退した。それに、ここで変な事を口走って余計に敵を増やしてしまっては困るからだ。そのまま係の者に誘導され、俺は会館長室へと案内されたのだった。
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