第3話 オークション開始
午前六時、オークションが始まった。俺は六番の札を渡された。結局参加者は"放浪者《プラネテス》"の五人と、俺だけだった。彼らは明らかに場違いな俺が居ても、何も気にしていない様だった。
今日ステージの上に立っている競売人は華のある若い奴では無く、年老いた男だったが、恐らくベテランを選んだのだろう。そりゃこんな錚々たるメンツを相手に普通の奴がまともに進行出来る訳が無い。当然の人選だろう。
「えー、それでは始めさせていただきたいと思います。最低落札価格は1億ミルで、単位は1000万ミルからスタートします」
いつもの熱い司会では無く、静かに落ち着いた司会だ。収益は確実だから、変に熱狂させるつもりもないのだろう。それにしても最低落札価格が億を超えるオークションに参加する日が来るとは思ってもみなかった。俺が見た最高値でも9000万ミルだったぞ。これは歴史的なオークションになるに違いない。
「三番の方、1億3000ミル」
最初に札を挙げたのはレツェールだ。月の神アルーナを信仰する聖トルメア教団を率いている謎の人物だ。男か女か、若者か年寄りかも分からない奴は、白装束に不気味な鉄仮面を身に着けている。全く気味の悪い奴だ。
「五番の方、1億8000ミル」
今度はアルメハが札を挙げる。永遠の美の名の通り、赤く艶のある髪が彫刻の様に美しい顔に映える絶世の美魔女だ。数百年生きているって噂もあるが、どう見ても俺と同年代か、一回り上かぐらいの容姿だ。正直言って、好みだ。
次に2億ミルで札を挙げたのは四番のエトワールだ。最年少で"放浪者《プラネテス》"の一員となった彼は、十代の頃に異界からやってきた魔王を倒した勇者だった。正義感にあふれる彼が、まさかこんな人身売買に参加するとは思ってもみなかった。
その後は三人によって2000ミルずつ上がっていく。二番のリモネと、一番のアーヴィスはまだ動いていない。反社会勢力ルーティシ・ファミリーのボスであるリモネは恐らくこういったオークションに精通している筈だ。だから様子を見ているのだろう。一方"放浪者《プラネテス》"の中でも一番謎の存在であるアーヴィスは、漆黒の鎧に身を包んだまま、微動だにしていない。二対の細い角が象徴的な兜を被っている為、表情をうかがう事も出来ないから、何を考えているのかはわからん。
3億ミルまで行ったところで、リモネが札を挙げた。
「二番の方から4億5000万ミルが出ました」
一気に値段を上げて来た。この額に、さっきまで淡々と札を上げて来た三人の手が止まった。
「4億7000万!」
威勢よく札を挙げたのはエトワールだった。他の二人は大人しく引くつもりらしいが、彼はリモネの勝負に乗るつもりなのだろう。この無謀さは若さから来るものなのか、それとも籠に囚われている少女を助けようとする正義感から来るものなのかは分からない。
「4億8000万」
リモネはにやりとして、更に1000千万ミルを乗せて来た。
「4億9000万!」
「5億」
「ご……5億1000万!」
「5億3000万」
リモネが5億3000万と言うと、エトワールの手は完全に止まった。場内に静寂が広がる。
「5億3000万、他におられませんか」
競売人が会場を見渡す。ここで俺は満を持して札を挙げようとしたその時だった。
「9億」
まるで深淵の奥深くから響いてくるような重く深い声が場内に響いた。それは、これまで何一つ挙げてこなかった、アーヴィスのものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます