第2話 目玉商品
中央ステージの周りは既に人だかりが出来ている。この周りに立っている奴らはこの競りに参加する資格のない奴らだ。俺は一応参加資格があるものの、お姫様を買うつもりはない。こんなのを買っても気苦労が増えるだけだ。
午前五時半、市場が開く。お決まりの会館長のクソ長い挨拶が中央ステージで始まる。と思っていたのだが、今回はやけに早口で短かった。
「えー、という事で本日の挨拶は終了とさせていただきます……それでは皆様お待ちかね、本日の目玉商品をご紹介いたします」
そう言うと、天井から一つの吊り篭が降りて来た。会場がどよめく。俺も少し背伸びをして中を見る。中には一人の少女が座っている。薄い金色に、少し赤みがかった髪色。白い肌は少しばかり紅潮し、ぱっちりとした黄金色の眼は、彼女を取り巻く大衆を蔑むような目で見ている。
「さて、皆様もご存じのとおり彼女はフォースレイン王国の元王女! 私も長い間この会館を仕切ってまいりましたが、これほどまでの品物は見た事がありません! さあ、彼女を落としたい商人の皆様はどうぞお席へ」
会館長がそう促すと、大衆の間から良く名の知れた商人がちらほらと出て来た。驚いたのが、その中にはあの"放浪者《プラネテス》"の姿が見えたことだ。
"永遠の美アルメハ"、"清浄なるレツェール"、"星雲のエトワール"、"黒い果実 リモネ・ルーティシ"、そして"深淵のアーヴィス"。とても痛々しい二つ名がついてはいるが、伝説的な英雄だったり、裏世界を牛耳る権力者だったりと世界に大きな影響を与えるような奴らだ。しかし、既存の勢力に就く事も無く、単独または何人かの仲間を連れて世界各地を渡り歩いている為"放浪者《プラネテス》"と呼ばれている。周りも彼らに気が付いたのか、ざわざわとし始めた。
「おいおい、"放浪者《プラネテス》"がいるんじゃ一般人は勝ち目ねぇよ」
「ああ、でも一度に五人も集合するなんてこいつはかなり珍しいことだ」
確かにそうだ。十人ほどいると言われている"放浪者《プラネテス》"だが、彼らが何処かに集まる事はまずない。彼ら同士がばったり出会わしたら、どちらかが死ぬまで戦い続けるからだ。
それにしても、そんなに凄い奴なのか、このお姫様は。亡国の姫なんてあんまり魅力的には見えないが。正直興味がなくなったので、帰ろうかと考えたとき、俺の頭の中にあるとち狂った考えが浮かんだ。
「そうだ、旅に出よう」
このお姫様を全財産叩いて落札し、放浪の旅に出てやろう。この考えは突発的な物の様に見えるが、日々蓄積していた仕事に対する疲労や鬱憤がただ表面化したものに過ぎない。
俺は金だけは沢山持っている。一年で大体数千万は稼いでいるが、日々多忙なため、その金を贅沢に使う事もなかった。だから貯蓄だけ見れば、"放浪者《プラネテス》"に匹敵するくらいあるだろう。勿論俺より稼いでいる奴隷商なんてこの街にわんさか居るが、どいつもこいつも"放浪者《プラネテス》"を敵に回したくないが為にオークションに参加しようとはしていない。俺もこんな連中を敵に回すのは恐ろしいが、仕事仕事の人生で死んでいくよりかはいいんじゃないか?
俺は群衆が"放浪者《プラネテス》"に恐れおののいている中、堂々と人ごみの中から歩み出た。視線が俺に集まっているのが感じる。ひそひそと馬鹿にしている声が聞こえる。だが、今更後戻りは出来ない。俺は席に座り、連中と目も合わせずに真っすぐ籠の中のお姫様を睨んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます