第14話〔最終回〕 じゃあね。





 今日はのどか、創のことが見えなかった。

 今日は、純斗のことが見えなかった。

 今日は、優弥が見えなかった。

 今日は、亮と俺が見えなかった。

 今日は俺と創と、優弥が見えなかった。


 徐々に俺たちのことを見えなくなっていくのどかを、俺たちは優しく、いつまでも見守った。同時に、あの楽しかった毎日の記憶も、どんどんなくなっていくんだ……。




 そして、


「のどか?」


 あの家は完全に、取り壊された。

 のどかは完全に俺たちのことが見えなくなった。







─── 二年後 ───



 通勤者、通学者で溢れている朝の駅のホーム。


 ぶつかった人に、すいません、と言いながら前に進む。ぶつかった人は、筋肉質で金髪だった。


 いかにもチャラいって感じだなぁ……。


 電車が来るまで、私はスマホを見ながら時間をつぶした。電車が来る音が聞こえる。それは、どんどん近づいて来る。すると、スマホに集中していた私の背中を誰かが押した。


──!?


 のどかは駅のホームから線路に落ちそうになる。


 誰かっ……! 助けてっ……!!


 その際に見えた私を押した人は、黒いフードを被った男だった。


 すると、急にあり得ないほどの強風がその場に吹いた。周りにいた人は、一斉に悲鳴とともにかがみこみ、目を瞑る。のどかの体はその強風にのり、風は宙に浮いた体を駅のホームまで戻してくれた。おかげで、のどかは落ちることなく、ギリギリ、点字ブロックの上に乗った。電車が高速で通り過ぎていく。


「ふ、ふ、ふぅ……」


 死ぬかと思った。

 ビックリしすぎて、うまく呼吸ができない。


 この頃、ホームから人を落とす殺人が増えてるって今朝、ニュースで見た。


 ならこれってもしかして……。怖っ!        

 

 この頃、いや、この頃と言うか、1、2年前くらいから、危険なことがあると、さっきみたいに風が吹いたりして、不思議に助かったぁ、という出来事が多発してる。やっぱ、神様かな。いるんだ本当に。




 私は久しぶりにおばあちゃん家に行った。


「おばあちゃーん、ただいまー」

「おー、のどか、よく来たね」

「ゴールデンウィークだから、ちょっと顔出そうと思って。久しぶりにおばあちゃんの料理も食べたいしぃ」



 久しぶりのおばあちゃんの料理を食べながら、昔の思い出話をしていた二人。


「今も、小人が見えるのかい? 昔は毎日見えてて、追いかけて走り回ってたけどね」

 笑いながらおばあちゃんは言った。


「あ~、そんなこともあったね」

 と、私も笑った。


「そういえば、あの5人とは今も仲いいのかい?」


 5人?


「誰、それ」

 私が訊いた。


「ほら、あのイケメン揃いの5人組だよ。あの頃は毎日ってくらい来てたのにね」

「何のこと言ってるの? 私、そんな人たち知らないけど」

「のどか……大丈夫かい? あんなに仲良かったのに……」


 おばあちゃんこそ大丈夫かな。ありもしないことを言う病気ってあるのかな。あるなら、それかもしれない。


 のどかは久しぶりに自分の部屋に入った。


 中に入ると、思い出が詰まった机や、毎朝鳴る目覚まし時計、やわらかいベットがある。一つ一つが懐かしい。のどかは机に乗っかっていた、高校のカバンを見付けた。そのカバンは、太陽を浴びてか、より輝いているように見えた。


「懐かしいな」

 カバンを持ち、中に手を入れた。


「……ん?」

 すると、手の先に何か硬い物が当たった。取り出すと、それはカメラだった。


「カメラ? こんなカメラ私、持っていないはずなんだけど」


 カメラの電源を入れ、起動させる。すると、ファイルの中には、たくさんの――私の写真があった。


「なにこれ」


 高校のベンチに座っている私の写真。

 知らない男の人の変顔写真。

 楽しそうに私が知らない男子と話している写真、遊んでる写真。

 水族館の写真、私が歌っているカラオケの写真、遊園地の写真。

 そして最後に、男の子5人だけが笑い合っている写真……。


 すると、写真たちの中に1つ、動画が残っていた。


「2年前くらいの動画?」

 不思議に思いながらものどかはスタートボタンを押した。



~~~~~


 最初、一人の切り目で、髪がアーモンド色の男が映っていた。


「ほら、ちょっとみんな集まって」

 よく見ると、そこは高校の教室のような場所だった。


「ん? 何やってるの?」

 とピョコっと出てきたのは、筋肉があって金髪の男。


~~~~〜


 それを見て私は驚いた。


「あの駅でぶつかった人だ!」

 その人とそっくりな人が映っていた。


~~~~~


「ほら、優弥も、純斗もこい!」


 すると、5人が画面内に納まった。


「なにしてるわけ?」

 と、可愛い系の男子が言った。


「俺たちがいた証を残しておこうと思ってさ。たぶん、のどか、忘れるだろうから」

「そうだね」

 と、プリンヘアーが言った。


「ナイスアイデア!! じゃあまず、自己紹介する?」

 と、筋肉がある金髪が言った。


「そうだね。俺は、創」

 と、切れ目の人が言った。


「俺は亮です」

 隣にいた優等生っぽいイケメンが言った。


「俺はキングー!」

 と、ピースをしながら金髪が言った。


「僕は、優弥です」

 ニコニコしながらプリンヘアーが言った。


「僕は、純斗!」

 可愛らしい男子が言った。


「そして俺たちは――小人です。小さい頃からのどかのことを見ていた小人です。少しの間、人の姿になって接してたけど」

 と、創が言った。「そして、のどかに伝えたいことは、『俺たちがのどかを守る』ということ。見えなくても、そこにいるって分からなくても……俺たちは必ずいるから」


「世の中は危険で溢れている。だから俺たちが貴方を守る傘になります」

 キングが膝まずきながら言った。


「なに格好つけてんだよ!」

 と、純斗がキングを叩いて言った。「それに傘じゃ、すぐ壊れるじゃん」


「あ、そうだね。……じゃあ、鉄の傘でのど「絶対に、守り抜くから!」

 亮がキングに重なって言った。ちょ、重ねて喋るなよ、とキング。


「だから、安心してね」

 と優弥が言う。


「のどかー! 大好きだよー!」

 純斗が口に手を添えて言った。


「おい、その話は今することじゃないだろ」

 と、亮が言った。あはー、と純斗は笑った。


「俺が教えた筋トレ、やってるー?」

 と、キングが言った。



~~~~~


――え?


私が今も欠かさず毎日やってる筋トレって、この人のだったの?


~~~~~~


「また、昔みたいに、楽しくのどかとお話したいけど。それは出来ないようですね」

 亮が言った。


「このままだと、みんな悲しくなっちゃうから、ここで終わりにしようよ、ね?」

 優弥がみんなを見て言う。そうだね、とみんな同調した。


「ま、伝えたいことはそれだけです」

 と、創が言った。「絶対に……忘れないで、守るから」




 そして、まず純斗が手を振り、「じゃあね、のどか」と言いながら去って行き、画面内から姿を消した。次は、優弥が「バイバーイ」と言いながら消える。そして、キングが「筋トレ、毎日やってね」と言って消えて行った。創はゆっくり画面に近づき、ただニコっと微笑んで消えていった。


 最後に、亮が近づき、「大好きだよ、ずっと」と言って笑った。そして画面が暗くなり、動画が終了した。


~~~~~


「え……?」

 私は気付くと涙が溢れていた。


「嘘でしょ……何で私、泣いてるの?」

 急いで私は涙を手で擦って拭いた。


 その画像を見た私の心は、やけに温かく、懐かしく感じ、幸せだった。そして、悲しく、寂しく……心にぽっかりと穴が空いているようでもあった。


「私を守る、小人さんたち、ありがとう。




 大好きだよ」









 君が笑ったら、僕たちも嬉しくなる。


 君が泣いたら、僕たちも悲しくなる。


 君が怒ったら、僕たちはすぐに慰めにいくよ。


 だって僕たちはずっと君を守っているからね。







    ― 完 ―

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