第14話〔最終回〕 じゃあね。
*
今日はのどか、創のことが見えなかった。
今日は、純斗のことが見えなかった。
今日は、優弥が見えなかった。
今日は、亮と俺が見えなかった。
今日は俺と創と、優弥が見えなかった。
徐々に俺たちのことを見えなくなっていくのどかを、俺たちは優しく、いつまでも見守った。同時に、あの楽しかった毎日の記憶も、どんどんなくなっていくんだ……。
そして、
「のどか?」
あの家は完全に、取り壊された。
のどかは完全に俺たちのことが見えなくなった。
*
─── 二年後 ───
通勤者、通学者で溢れている朝の駅のホーム。
ぶつかった人に、すいません、と言いながら前に進む。ぶつかった人は、筋肉質で金髪だった。
いかにもチャラいって感じだなぁ……。
電車が来るまで、私はスマホを見ながら時間をつぶした。電車が来る音が聞こえる。それは、どんどん近づいて来る。すると、スマホに集中していた私の背中を誰かが押した。
──!?
のどかは駅のホームから線路に落ちそうになる。
誰かっ……! 助けてっ……!!
その際に見えた私を押した人は、黒いフードを被った男だった。
すると、急にあり得ないほどの強風がその場に吹いた。周りにいた人は、一斉に悲鳴とともに
「ふ、ふ、ふぅ……」
死ぬかと思った。
ビックリしすぎて、うまく呼吸ができない。
この頃、ホームから人を落とす殺人が増えてるって今朝、ニュースで見た。
ならこれってもしかして……。怖っ!
この頃、いや、この頃と言うか、1、2年前くらいから、危険なことがあると、さっきみたいに風が吹いたりして、不思議に助かったぁ、という出来事が多発してる。やっぱ、神様かな。いるんだ本当に。
私は久しぶりにおばあちゃん家に行った。
「おばあちゃーん、ただいまー」
「おー、のどか、よく来たね」
「ゴールデンウィークだから、ちょっと顔出そうと思って。久しぶりにおばあちゃんの料理も食べたいしぃ」
久しぶりのおばあちゃんの料理を食べながら、昔の思い出話をしていた二人。
「今も、小人が見えるのかい? 昔は毎日見えてて、追いかけて走り回ってたけどね」
笑いながらおばあちゃんは言った。
「あ~、そんなこともあったね」
と、私も笑った。
「そういえば、あの5人とは今も仲いいのかい?」
5人?
「誰、それ」
私が訊いた。
「ほら、あのイケメン揃いの5人組だよ。あの頃は毎日ってくらい来てたのにね」
「何のこと言ってるの? 私、そんな人たち知らないけど」
「のどか……大丈夫かい? あんなに仲良かったのに……」
おばあちゃんこそ大丈夫かな。ありもしないことを言う病気ってあるのかな。あるなら、それかもしれない。
のどかは久しぶりに自分の部屋に入った。
中に入ると、思い出が詰まった机や、毎朝鳴る目覚まし時計、やわらかいベットがある。一つ一つが懐かしい。のどかは机に乗っかっていた、高校のカバンを見付けた。そのカバンは、太陽を浴びてか、より輝いているように見えた。
「懐かしいな」
カバンを持ち、中に手を入れた。
「……ん?」
すると、手の先に何か硬い物が当たった。取り出すと、それはカメラだった。
「カメラ? こんなカメラ私、持っていないはずなんだけど」
カメラの電源を入れ、起動させる。すると、ファイルの中には、たくさんの――私の写真があった。
「なにこれ」
高校のベンチに座っている私の写真。
知らない男の人の変顔写真。
楽しそうに私が知らない男子と話している写真、遊んでる写真。
水族館の写真、私が歌っているカラオケの写真、遊園地の写真。
そして最後に、男の子5人だけが笑い合っている写真……。
すると、写真たちの中に1つ、動画が残っていた。
「2年前くらいの動画?」
不思議に思いながらものどかはスタートボタンを押した。
~~~~~
最初、一人の切り目で、髪がアーモンド色の男が映っていた。
「ほら、ちょっとみんな集まって」
よく見ると、そこは高校の教室のような場所だった。
「ん? 何やってるの?」
とピョコっと出てきたのは、筋肉があって金髪の男。
~~~~〜
それを見て私は驚いた。
「あの駅でぶつかった人だ!」
その人とそっくりな人が映っていた。
~~~~~
「ほら、優弥も、純斗もこい!」
すると、5人が画面内に納まった。
「なにしてるわけ?」
と、可愛い系の男子が言った。
「俺たちがいた証を残しておこうと思ってさ。たぶん、のどか、忘れるだろうから」
「そうだね」
と、プリンヘアーが言った。
「ナイスアイデア!! じゃあまず、自己紹介する?」
と、筋肉がある金髪が言った。
「そうだね。俺は、創」
と、切れ目の人が言った。
「俺は亮です」
隣にいた優等生っぽいイケメンが言った。
「俺はキングー!」
と、ピースをしながら金髪が言った。
「僕は、優弥です」
ニコニコしながらプリンヘアーが言った。
「僕は、純斗!」
可愛らしい男子が言った。
「そして俺たちは――小人です。小さい頃からのどかのことを見ていた小人です。少しの間、人の姿になって接してたけど」
と、創が言った。「そして、のどかに伝えたいことは、『俺たちがのどかを守る』ということ。見えなくても、そこにいるって分からなくても……俺たちは必ずいるから」
「世の中は危険で溢れている。だから俺たちが貴方を守る傘になります」
キングが膝まずきながら言った。
「なに格好つけてんだよ!」
と、純斗がキングを叩いて言った。「それに傘じゃ、すぐ壊れるじゃん」
「あ、そうだね。……じゃあ、鉄の傘でのど「絶対に、守り抜くから!」
亮がキングに重なって言った。ちょ、重ねて喋るなよ、とキング。
「だから、安心してね」
と優弥が言う。
「のどかー! 大好きだよー!」
純斗が口に手を添えて言った。
「おい、その話は今することじゃないだろ」
と、亮が言った。あはー、と純斗は笑った。
「俺が教えた筋トレ、やってるー?」
と、キングが言った。
~~~~~
――え?
私が今も欠かさず毎日やってる筋トレって、この人のだったの?
~~~~~~
「また、昔みたいに、楽しくのどかとお話したいけど。それは出来ないようですね」
亮が言った。
「このままだと、みんな悲しくなっちゃうから、ここで終わりにしようよ、ね?」
優弥がみんなを見て言う。そうだね、とみんな同調した。
「ま、伝えたいことはそれだけです」
と、創が言った。「絶対に……忘れないで、守るから」
そして、まず純斗が手を振り、「じゃあね、のどか」と言いながら去って行き、画面内から姿を消した。次は、優弥が「バイバーイ」と言いながら消える。そして、キングが「筋トレ、毎日やってね」と言って消えて行った。創はゆっくり画面に近づき、ただニコっと微笑んで消えていった。
最後に、亮が近づき、「大好きだよ、ずっと」と言って笑った。そして画面が暗くなり、動画が終了した。
~~~~~
「え……?」
私は気付くと涙が溢れていた。
「嘘でしょ……何で私、泣いてるの?」
急いで私は涙を手で擦って拭いた。
その画像を見た私の心は、やけに温かく、懐かしく感じ、幸せだった。そして、悲しく、寂しく……心にぽっかりと穴が空いているようでもあった。
「私を守る、小人さんたち、ありがとう。
大好きだよ」
君が笑ったら、僕たちも嬉しくなる。
君が泣いたら、僕たちも悲しくなる。
君が怒ったら、僕たちはすぐに慰めにいくよ。
だって僕たちはずっと君を守っているからね。
― 完 ―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます