第13話 クライマックス
今日のみんなは異常なほど、テンションが高かった。昨日とかとは比べものにならないほど……。何か良いことでもあったのかな?
「思い出つくらない?」
私の隣のベンチに座っている優弥が言った。
「思い出?」
と、亮さんが言う。
「なんかさ? 考えて見たら、みんなであんまり思い出つくってなかったなって思っちゃって」
「じゃあ、なんか思い出つくろうよ!」
私が言う。
「うん! いいね。つくろう!」
と、元気に純斗くんが言った。「優弥のわりにいいアイデアだねー」
「へへへ」と優弥が笑う。
今度の週末にみんなで出かけることになった。遊園地、カラオケ、映画館、水族館、いろいろ。もう、全部行っちゃおう!
今日は朝から忙しい。
どの服がいいだろうとか、化粧は濃い方が良いかな、薄いナチュラルの方がいいかなとか、色々考えてバタバタしている。私は、カジュアルでラフな白いTシャツにジーンズを履いた。化粧は薄くした。その姿を、みんなはベタ褒めてくれた。
最初は、水族館に行き、前半私は、ほとんど優弥と一緒に行動していた。私たちは世界でも珍しいピンクの魚がいる水槽の前に立った。だが、このピンクの魚を見ることはあまりできないようで、魚は大体は人には見られない陰にそうなので、とてもレアらしい。
「ねぇ、見て! この魚、可愛くない?」
優弥が言った。優弥が指さした魚は珍しくもピンクの色をしていた。なんとも無自覚、強運の持ち主だ!
「わぁー、ピンクー。可愛い! なんか縁起が良さそう」
と、私は優弥に笑ってみせた。
*
「わぁー、ピンクー。可愛い! なんか縁起が良さそう」
と、のどかは可愛らしく笑った。
可愛い……。
のどかは可愛いよ、すごくね。
今、僕の隣にいてくれて、ありがとう。
少しだけでも君がいてくれるだけで僕は大きなパワーを手に入れることができる!
この瞬間が続けば、ずっと続けばいいのにね。
そうすれば僕は、一生パワーに困ることはないのにな……。
……僕は決めたんだ。
のどかは僕のことなんて友達としか思ってないから、僕は今日で片思いを辞めにするよ。亮と、幸せになればいいね。
そう、僕は明日から、のどかの一生の友達!
*
水族館の後半では、私は創さんと一緒にいた。創さんは、ずっと写真ばかり撮ってて、まったく魚なんて見てないように思えた。
「創さん、ちゃんと楽しんでますか? 魚たち、見てます?」
と、私が訊いた。
「ああ、見てるよ、ちゃんと。レンズ越しでね」
創さんは、まだカメラをいじくっている。
「直でちゃんと見ればいいのに……」
――パシャ
左側から、私に向けてカメラのシャッター音が飛んできた。
「な、なに撮ってるんですか?」
私は目を大きく開いて言った。
「記念に」
と、創さんは目を細め、白い歯を見せて笑った。
*
よく撮れた、のどかの横顔が。
この顔、
この服、
のどかのすべてを……ここに閉まっておきたい。
今、ここで、のどかを引き寄せて抱きしめたい。
そして誰にも渡したくない。
……でも見えるんだよ、君の心の中がさ、小人だから。
亮だろ。
亮だったんだろ、好きなやつ。
俺なんかいないんだ、どこにも。
本当に……亮は、本当に幸せ者だよな。
*
水族館の次にみんなでカラオケに行って、その次に遊園地に行った。遊園地では、純斗くんとキングと一緒にいた。ジェットコースターに乗った時なんて、キングが「ママー!!」って叫んでた。それが本当に面白くて面白くて、私はジェットコースターに乗りながら爆笑していた。
純斗くんが、アイスを食べたいと言うので買おうと思い、私は列に並んでいた。すると、さっきまでテーブルに座っていた純斗くんが隣にいた。それに驚いて私は、うぉ! と声を上げてしまった。純斗くんはただ何もいわず、じっと私の目を見ていた。
「そんなにアイス、食べたいの?」
と、私が訊くと、少し遅れて
「うん!」
と、純斗くんが言った。
*
僕はアイスが食べたいわけじゃないんだ。
僕はただ……ただ……のどかと一緒にいたいだけ。
悲しい、悲しいよ。僕は本当は悲しいんだから!
ずっと一緒にいたいのに、いれない。
虚しい。
悲しい。
こんな気持ちなんて苦しすぎる。
のどかはいいね、幸せそうで……。
*
私は列に並びながら、亮さんのことを考えていた。今、何してるんだろうって。なに乗ってるんだろうって。やっぱり私、亮さんが好きなんだね。
*
俺はテーブルに座って純斗とのどかを待っていた。すると、遠くに亮がいるのが見えた。俺は亮に、あることを伝えに行った。
「亮!」
俺は走りながら近づいた。
「あっ、キング。お前たちここにいたんだね」
「うん。……あのさ、話があるんだけど」
「……何?」
亮は体をこちらに向けた。
「あー、今日、のどかに告白してもいいぞ、お前」
「は? 何だよ、急にそんなこと」
と、亮は笑いながら言った。
「俺が見る限り、確実にのどかは亮のことが好きだ。俺とか……他の人じゃなくて……お前のことをな」
亮は何も言わず、少し下を見つめていた。
「だから、告白しろ。大丈夫、みんな知ってるよ。のどかは亮のことが好きだって。きっと……。いや、このチャンス逃したら
「でも……」
と、亮は言った。
「いいから! ……俺たちいなくなるんだぞ? 伝えられなくなるんだぞ? だったら、今のうちに言えよ、伝えろよ。きっとのどか、喜ぶはずだからさ」
亮は少し遅れて、コクっと頷いた。
良かった……。
やっと納得してくれた。
俺は、亮とのどか二人に一秒でも、幸せでいて欲しい。
それが俺の願いだ。
大体、恋というのは叶わない方が多いんだ! だろ?
俺は初恋だ。
初恋は実り難いって言うし……。
だから、これは仕方ないのかもしれない。
そういうことにしておこう! 悔しいけど。
*
辺りは一気に暗くなってきた。遊園地内はどんどん人が少なくなっている気がした。私たちはメリーゴーランド前で集まった。
「なぁー、そろそろラストにしようぜー」
と、キングが言った。
「ラスト、何に乗る?」
亮が周りを見渡しながら言う。
「じゃあ、亮以外、みんなでメリーゴーランド乗ろうぜ! さっき、メリーゴーランド乗りたいって優弥、言ってたし」
キングが、優弥と肩を組みながら言った。
「え? 僕そんなこと言ってない……」
と、優弥がきょとん、としながら言った。
いいから行くぞ、とキングが優弥を無理矢理引っ張りながら残りの2人も連れてメリーゴーランドの方に行った。その場には私と亮さんたけがが残った。
「残っちゃったね……」
と、亮さんが言った。「のどかは何に乗りたい?」
「私は……」
周りを見渡すと、目に飛び込んできたのはキラキラ光る観覧車だった。
「あれがいい!」
「観覧車? いいよ、行こう」
2人は、その小さな揺れる箱の中に閉じ込められた。見える景色はどんどん高くなっていく。私は、男の人と乗るなんて初めてだから何じゃべればいいのか全く分からない。何じゃべればいいんだろう、と困っていると亮が先に喋り始めた。
「のどかに一言、言っていい?」
「うん」
「俺さ……」
二人の空間に沈黙が続く。お互いの鼓動の高鳴りが早くなる。それをかき消すように、亮は口を開いた。
「俺、のどかのこと……好きなんだ。めっちゃくちゃ……好き。あ、これは友達ってことじゃなくて、普通に恋愛的に……」
これは……告白ですか?
「ゴっ! ゴホっ、ゴホっ!」
急にむせてしまった。
「大丈夫?」
と、さっきまで前に座っていた亮さんが、私の隣に来た。
「だ、大丈夫です」
と、咳込みながら言った。
「ちょっと、ビックリしすぎて……」
「ごめんね、急に。でも、伝えるには、今しかないと思って」
「ありがとうございます。実は私も……」
と、そう言いかけると、目の前が亮さんの顔でいっぱいになり、唇に温かい感触がのった。それはとても優しく、柔らかく、離してもその感覚がずっと残っていた。
それが私のファーストキスだった。
離れた瞬間、亮さんは、
「何も言わなくていいから。何も言わないで、お願い」と悲しい声で言った。
*
何も、言ってほしくない。
もし……もし、のどかが本当に俺のことを好きならもっと。
「付き合ってください」なんて言いたいけど……言わない。
本当に付き合えたなら、
それ以上嬉しいことはないけど、
それ以上悲しいことは無いよ。
俺たちは、もう少しでいなくなるんだ。
のどかのもとから去るんだ。
俺は、本当に意地悪だと思う。
でもこれは、これからの君のためなんだ、ごめんね。
*
その後、私たちは何もしゃべらなかった。観覧車を降りた頃には他のみんながいて、にこにこ私たちに笑いかけていた。
「どう? 楽しかった?」
と、キングがキラキラした笑顔で訊いてきた。
「うん、まぁ」
と、私は答えた。
帰り、家までみんながおくってくれた。あっという間に家に着いてしまった。
「本当に今日はありがとう、みんな。楽しかったよ、いい思い出が作れました」
と、私が言った。
「いや、こちらこそありがとう。僕も超~楽しかったよ!」
純斗くんがぴょんぴょん跳ねながら言った。
「いっぱい写真撮れたし」
と、創さんが言った。
「疲れたでしょう。ぐっすり寝てね」
と、優弥が手を振って言った。
「うん! じゃあね」
と、言って私は家に入って行った。
そして、今日は家が取り壊され始める前日の日。
その日もいつも通り、学校に行った。その日はいつもよりお弁当の中身が豪華だった。そして、私の周りにはいつも通り5人がいた。
「あれ? 今日、豪華」
と、創さんが隣に座った。
「はい。そうみたいです」
と、私はルンルンに言った。
すると、創さんは「そうだ、そうだ」と言って、なにやらポケットから取り出した。
「はい、これあげるよ」
と、言って私の手にカメラを置いた。
「え? カメラ? なんでこんな大切な物を私に?」
「プレゼントだよ、ただの」
と言って、すぐ立ち去ってしまった。
不思議だな~。あんなに毎日大切に持っていたカメラをくれるなんて。
私はすぐ、中身を見ずに、ただカバンに入れた。
そして次の日。
家の取り壊し工事が開始された。
やっぱり、大好きな家を壊されるのはとても悲しい。私は、やるせない気持ちでただ崩れていく家を見ていた。
工事が始まって一週間が経ったある日。
私は勉強を教えてもらおうと、亮さんを探した。けれど、亮さんの姿はどこにもなかった。すると、廊下を歩いている創さんを見付けた。
「創さん! あの、亮さん、どこにいるか知ってます? 探してもいなくて」
「いると思うよ」
と、創さんは答えた。
「そうですか……ちょっと探してみます」
次に会った、キングにも尋ねてみた。
「亮さん、どこにいるか知ってます?」
「え? 亮? 亮ならあそこにいるよ」
「あそこって……どこですか?」
キングは一生懸命、指を指すが、私には全く亮さんの姿なんて見えない。
「どこですか?」
「え……? あー! あ、あれ、亮じゃなかった。ごめん、ごめん、分からん!」
「そうですか。分かりました」
*
俺は、すぐさま創の所へ走った。
「創! 大変だ!!」
「何だよ、キング」
「のどかがさ、のどかが……亮のこと見えないんだよ」
「は?」
「亮、どこにいるって聞かれたから、あそこだよって言っても、全然亮のこと分からなくて……。見えないんだよ。それって、アレだよね?」
「ああ、あれだと思う」
やっぱりはじまったんだ。
俺たちの居場所が確実に無くなり始めている。
そりゃあ、そうか、壊してるんだから……。
居場所がなくなり始めてるってことは、のどかは、俺たちのことを忘れ始めてるってこと。今までは、居場所があったから、守る人がいたから、見えていただけ。それがなくなったら、完全にのどかは俺たちのこと見えなくなる。声が聞こえなくなる。今までのこと全て、忘れてしまう。楽しかった思い出、全てを……。
「悲しいけど、やっぱりカメラやっといてよかったわ」
と、創が言った。
「うん、そうだね」
と、俺は固くなった顔の筋肉を無理やり伸ばして笑った。
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