第12話 運命の裂け目
「私、好きな人できたんだけど……」
その言葉に5人は勢いよく反応した。
「え!?!? できたの?」
と、キングが目を丸くする。「やっぱ、昨日……いやなんでもない」
「なんだよキング、言えよ」と亮さん。
「いやぁ……」
「昨日、のどか、武ってゆーやつに告られたんだよ」
知らなかった二人が、えっ! と、言いながら椅子から立ち上がった。
「そんなの、聞いてねぇけど」
創さんが私を見て言う。
「言ってないもん! 三人には言わないでって言ったのにぃ……」
私は、武のことを5人にすべて話した。そして、この気持ちのことも……。
「まあ、好きな人……出来たんだけど……誰か分からない」
「なんだよ、それ」
と、創さんが溜め息交じりに言った。
「どうしよう! 私、悪い女かも!? 二股、三股かけてるかもしれない!」
「なーるほど。股かけ女かぁ……。まあ、いままで出会って来たそういう女に、いい人はいなかったなー」
と、腕を組みながらキングは言った。
「だ……だよね……」
意外とその一言に傷付いている自分がいる。
「別に好きな人ができたら、その数が何人だろうといいんじゃない?」
と、創さんが真面目な顔をして言った。なんてイケメンな一言だ、と思った。
まぁ、私が本当に股かけてるか、分からないけどぉ~。
「うわぁー! 悪い男がここにいまぁーす! 通報、通報! えー……警察の番号は……ひゃー!」と、キングがバタついている。
「ちょっと、キングうるさいよ」
亮さんが言った。
「で、好きなのかなーって思ってる人って誰?」
と、純斗くんが言った。
「ん~……それは言わない!!」
えー、と大ブーイングを食らった。
でも、絶対に言わないよ。だってこの中にいるかもしれないんだから。
それは、クールで塩だけどカッコいい創なのか、優等生で優しく包んでくれる亮なのか、筋肉マンでいつも筋トレやってるけど、本当はすごく優しくて明るいキングなのか、何でも話せる人気者のかわいい優弥なのか、すごくとろけるくらい癒されキャラの純斗なのか……分からない。
でも確実にこの中にはいる。
そう思う。
なら……誰に……?
いつも通りの昼休み、ベンチでお弁当を食べていると、亮さんが隣に座って来た。
「ねぇ、のどか。今日、俺の誕生日なんだよね。だからさ……ちょっと俺と放課後、付き合ってくれない?」
と、亮さんは恥ずかしそうに、その大きな目で私の顔を覗いてきた。
「べ、別にいいけど……付き合うって何するの?」
「ん~実は、すごく行ってみたいところがあるんだけど、そこ、カップルが多いんだ。でも、一人で行くと変な目で見られるから……その……のどかに彼女役やってもらおうかなって思って」
聞いた瞬間、吹き出しそうになった。
「か、彼女役!?」
「シーー!」
と、亮さんは人差し指を私の唇の前に立てて、声を潜めて言った。
「静かに!」
「わ、私、そんなに演技上手くないよ?」
「え~、そうなの?」
と、亮は下を向いた。「じゃあ、本当に俺の彼女になる?」
へ?
へ?
へ?
「そ、それはどうかと思いますけどねぇ~」
と、私は焦りを隠すように言った。
いや、もじもじしちゃってるから、ぜんっぜん! 隠せてないわ!
放課後、もう散りきって青々しくなっている桜の木のしたに亮はいた。
「お待たせしました」
と、私が亮さんに近寄り言う。
「さっ、行こう?」
亮さんがふんわりとした優しい笑顔を私に向けた。
亮さんと隣を歩いていると、とても嬉しくなる。なんか、本当にカップルみたい。
「このままじゃあれだし……カップルっぽく、手、繋ぐ?」
亮が、頬をポリポリとかきながら言った。
「へ? 手を……繋ぐんですか?」
今まで、彼氏なんていたことのない私にとっては、手のつなぎ方すら分からない。私が戸惑っていると、亮さんは何も言わず、すくうように私の手をとり、恋人繋ぎをした。緊張しているから、手汗が尋常じゃないほど出ている気がするんだけど……?
「なに? 緊張してるの?」
と、亮は首を傾げながら笑った。
「いえ! 別に緊張なんかしてませぇん!」
「そう? 本当に?」
と、亮は口を手で隠して笑った。
「あ~あ。こうやってのどかと歩いていたら、他の4人に怒られそうだなー」
「なんでですか?」
「だって……みんな、のどかのこと大好きだからね」
「えっ?」
「あ、友達としてってことね」
あぁ、友達として、か。そうか、そうか。そうだよね。なに期待してんだよ、バカな私。
亮さんと来た所は、全く行ったことがない、見たこともない所だった。本当に周りにはカップルがたくさんいて、楽しそうにしている。ここは一体、何のための場所なんだろうか……。
「ここね、一緒に来た人とずっと一緒にいられるって場所なんだって」
亮さんが言った。
「え、そうなんですか……? じゃあ亮さんは、私と一緒にいたいんですか?」
「うん。……最初は、残りの4人も誘おうかと思ったんだけどさ? ここ、カップル多いじゃん。そんな場所に、男5人と女1人ってどういう関係なんだろうって思われるかなと思って、2人だけで来たんだ」
「そうだったんだね」
それから亮さんとは、決まった場所で2ショットを撮ったり、紙に2人の名前を書いて壁に貼ったりした。
そんなことしてたら私、気付いちゃったの。
……亮さんが好きだって。
今まで誰が好きなんだろうと思ってたけど、その答えは亮さんだった。だから、すごく亮さんの近くにいられて嬉しかったの、今日は。私の本当の気持ちを、知った今日はきっと、最高の記念日だ。
*
のどかに喜んでもらえてとても良かった。
最初っから、4人も誘う気なんて無かったよ、本当は。
ここに、のどかと2人で来たかったんだ。
本当にずっと一緒にいられればいいなって思いながらいたよ。
ちょっと、おまじないに期待しよう。
本当に、一緒にいられればいいね。ずっと、ずっと……。
*
ある日、2-0に行ったら、そこには創さんだけが静かに存在していた。カメラを真剣に見つめていたから、私はゆっくり扉を閉めた。
「あれ? 他のみんなはどこに行ったんですか?」と、私が訊ねると、「さぁーな」と、から返事をされた。のどかは窓際の椅子に座っている創さんの隣に立った。
「で、創さんは何してるんですか?」
私が訊いた。創さんは、ずっとカメラの画面を見つめている。
本当に創さんはカメラが好きなんだなぁ~。
「なんで、そんなにカメラが好きなの?」
私がもう一つ質問をした。
「それは……綺麗だから」
と、創さんは、澄んだ瞳をこちらに向けた。
「綺麗な瞬間を、パシャっと撮って、それを永遠にここの中に閉じ込めておける。それって、すごいことだと思うんだ。だから俺は、カメラが好き」
「へぇ~、なかなか格好いいこと言いますねー」
と、私は上半身を左右に揺らした。
「一枚撮っていい? のどかを」
創さんがカメラを見つめながら言った。
「いいよー?」
と、私は創さんのカメラのレンズを見つめた。ポーズもなにもせず、自然体の私で。
――パシャ
「君も、綺麗だね」
創は、のどかにそう、呟いた。でもその声は、のどかの耳に届くことはなかった。
あるときを境に、2-0の教室にはぞくぞく人が入って来た。みんなは相変わらず元気で、騒がしい。声を聞いただけで思わず笑ってしまう。
「おっ! のどか!」
と、片手を上げて近づいて来るキング。キングー、と言いながら私はその手にハイタッチをした。
「なに、二人でいたの?」
と、亮さんが言った。「ならもっと早く来ればよかったな」
その声が私の頬を赤く染めた。
教室でみんなそれぞれ、作業をしている。
創さんはずっとカメラいじくってるし、亮さんは本読んでるし、優弥は音楽聞いてるし、純斗くんは絵を描いている。まぁ、なんの絵を描いているのかは全く分からないけど、まあ、なんかの動物なんだろうなってことだけは分かる。あと、周りを見渡している私を、ずっと見つめるキング。
「なに?」
と、私が訊くと
「のどか、筋トレしよう!」とキングが言って来た。
えー、筋トレ嫌いなんだけどぉ……。
「さっ! この体勢をつくってー。次にーこうしてぇー、こうしてぇー。どう?」
と、言いながら、キングはただでさえきつそうな体勢をつくっている。私はキングのマネを必死でするが、すぐ疲れてしまう。いざやってみると、本当に私は体力が無いんだなって自覚する。
「ダメだね。じゃあ、これを毎日やらないとだね」
キングが腕を組んで言った。
「はい……」
「ちゃんと、毎日やるんだよ? いい? これをやると、病気に絶! 対! かからなくなるからね!」
「はい、はい。毎日やりますよー」
のどかは寝る前、キングから教えてもらった筋トレを毎日欠かさずやった。するとなぜだか、前より風邪をひかなくなった。まぁ、そんな気がする。キングさんの言う通りだなぁ。すごいなぁ。これからも、ちゃんと毎日やらないと!
この頃は、太陽が沈むのが早い。
今日も私は、日直で仕事があった。それに先生から頼まれたこともあって、いつもより、帰りが遅くなってしまった。
もう、みんな帰っちゃったかな?
だが、周りは暗く、廊下が怖いほどだ。もう、学校に残っている人はいないだろう。
私が階段を下りる音が空気を伝って、壁に跳ね返る。だが、後ろからもうひとつの足音が聞こえた。
「のどかちゃん?」
後ろから、マキの声が聞こえた。下る足を止め、マキを見た。
「マキ……まだ、いたんだ」
「あなたを待ってたの。ちょっと話したいことがあって」
マキは、私に近づいてきた。私の一段上に立っているマキの顔が怖かった。
逃げなきゃ……。逃げなきゃいけない……!
──バン!!!
私は、マキに階段から落とされた。
頭の中では必死に逃げようと思っていたけれど、恐怖でか、全く体が動かなかった。
痛い、体の至るところが痛くて動けない……。
マキはゆっくりと私に近寄って来る。そして、私の目を睨んだ。
「武に近づかないでって言ったでしょ、約束を破ったから……あんたのせいで……あんたのせいで……」
マキは私の髪をむしり取るように掴んだ。
「痛い……や、やめてよ……」
「あんたのせいで、私は武に……!」
「おい! 何やってんだよ!!」
そういって、階段を下りて助けに来てくれたのは亮さんだった。
「のどかから離れろっ!!」
亮さんは、マキを簡単に吹き飛ばし、軽々と私を持ち上げた。一人で立つことができなかった私は、亮さんにお姫様抱っこされた。
「お前が武にフラれたのは、のどかのせいじゃなくて、ただ、お前に魅力がなかっただけだろ。のどかを傷つけんじゃねぇよ!」
亮さんはそれだけマキに言い捨てて、私を抱えながら昇降口へ向かった。
「はい。もう、ここなら安心でしょ。俺もいるし」
「亮ぅ……ありがとうぅ……」
私の目からは涙がボロボロと流れた。こすっても、こすっても止まらなくて、頭にのった亮さんの温かい手がより私を安心させた。亮さんが来てくれなかったら、私はどうなっていただろう……。
「足、大丈夫? さっき、立ててなかったけど」
「大丈夫、大丈夫」
自分では、そういったが、今でも全く足に力が入らず、ズキズキと痛む。
「……足、貸して」
亮さんは、私の膝らへんに大きな手を置き、目をつむった。何が魔法でもかけているかねように……。
「うん、もう大丈夫。きっとこれで歩けるはず」
そういって、亮さんは私を立たせた。
「えっ……嘘でしょ……」
さっきまで立てなかったのに、今は普通に立てる……。
「魔法をかけたんだ、のどかに」
「それって……どんな魔法?」
「それは、ひ・み・つ」
そして、亮さんは優しく微笑んだ。
「亮さん……ありがとう! 大好きっ!」
私は、亮さんに抱き着いた。
「なんだよ、急に。今は誰もいないからいいけど……。じゃあ、一緒に帰ろうか?」
「うん!」
周りの木々も、より青々しくなり、前より気温がぐんと高くなったある日。のどかがおばあちゃんと夕食を食べていると、おばあちゃんが真剣な顔つきで話し始めた。
「のどか。おばあちゃんね、この家を取り壊そうかと思ってるのよ」
この家を〝取り壊す〟!? また何でそんなことを急に言うのよ!?
「どういうこと?」
と、私は訊き返した。
「ここを取り壊すって?」
「この家、すごく古いでしょう。これを取り壊して、新しい家でも建てようかなって思っててさあ」
おばあちゃんは、焼き魚を箸でつつきながら言った。
「私は、反対だよ! 絶対反対! この家、すごく好きだもん!」
私は反論した。
「でもね……歩くだけで軋むところもあるし、
「そんな簡単に崩れないよ!」
私は、持っていた箸を音を立て置いた。
私は必死に抵抗した。
絶対にこの家を壊してほしくない! と思った。
その後も必死に反対した。
反対したけど、結果的に自分の頭の中で、ここはおばあちゃんの家だし、おばあちゃんの言うとおりにしてあげようかなって思った。
だから、おばあちゃんに壊すことを許してしまった……。
*
「やっぱり、こうなっちゃった」
と、ベルトを付けていて足が長い小人――優弥が言った。
「うん。俺たちが見えていた未来は、本物だったんだね。残念だけど」
と、シルクハットをかぶっている小人――亮が言った。
「本当に運命って決まってるんだ……」
と、残念な顔をして言った。少し耳がとんがっていて、ふわっとしたグレーの髪の小人――純斗だ。
「でも、のどかにはいつも通り、接しよう。今、のどかは一番、落ち込んでいるだろうから。俺たちが悲しんだらもっと悲しむだろう?」
と、青色の合羽を着た黒髪の小人――創が言った。
その言葉を聞き、少しおんぼろの服を着た金髪の小人――キングが頷いた。
5人の小人は一斉にのどかを見つめ、みんな同じような表情をした。
*
家の取り壊し工事は、一か月後に始まることとなった。
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