第11話 好き



「えっ!!!」と5人揃って声を上げた。


「えっ? 本当!? 本当!?」

 と純斗くんが跳びはねて近づいてきた。


「本当だよ!」

「マジか……スゲェーな」

 生まれて初めて虹を見たような目で私を見つめながら、創さんが言った。


「本当に良かったね、のどか」と亮さん。奥では、泣いているキングを慰めている優弥が見えた。


「なに、泣いてるの?」

 と私が言うと、


「泣いてなんかないっ!!」

 と、強気でキングが言った。あんなに男らしいキングが泣くなんて。私まで泣きそうになるよ……。私は唇を必死に噛み締めた。


「じゃ、じゃあ、放課後みんなで何か食べに行こう!」

 と、急にキングが涙声で言った。


「うん! 行く行く!」と乗り気で私が言った。





 放課後、5人に案内されて町の裏道に行くと、今にもお洒落な看板があり、お洒落な赤色の扉があった。中に入ると、カランと音が鳴った。北米のデザインが、すごく心地良かった。嗅いだだけでお腹が空いてきてしまいそうな、そんな匂いがそこら中に漂っている。大きな木のテーブルを6人が囲むように座った。


「みんな、どうやってこんなにお洒落なお店を知ったの? 私ここの街、隅から隅まで知ってるけど、こんなお店初めて見たよ」

 と、私が周りをキョロキョロしながら言った。


「知る人ぞ知るお店だからねぇ~」

 と純斗くんがドヤ顔をして言った。


「何だよ、その顔」と言って、亮さんが純斗くんの頬を引っ張っている。


 なんか……私たち、昔から知ってるみたい。何年も、何年も前から一緒にいる親友たちみたい。そんな感情に襲われるのはこれで何回目だろう。この場所も、ありえないほどの安心感があり、もう家みたい。絶対この人たち、私の前世と何か縁があった人たちだよ、きっと……。


 この店は建物やデザインだけでなく、料理までお洒落だった。出てきたのは、ピザ、ポテト、ハンバーガーなどなど。みんな美味しそうに食べてる姿を見ているだけでこちらまでも良い気分になる。自然に頬が緩む感覚があった。


 すると、――パシャ、という音が鳴った。


「ん?」

 と、私が横を見ると、隣に座っていた創さんがこちらにレンズを向けていた。

「その笑顔、好き」

 創さんがカメラを下げてから言った。


「え? ふぇ~?」


 この笑顔って何!? ど、どの笑顔よ!?  


 自分で自分の頬をつねってみた。創さんはただ、私の方を見て微笑んだ後、4人の会話に入っていった。


 結構食べ終わって、みんなグダ〜、としているなと思ったら、優弥以外、みんな寝ていることに私は気づいた。優弥はまだぴんぴんしていて、ちょびちょびとオレンジジュースを飲んでいる。


「ふぅ、お腹いっぱい!」

 と私がお腹に手を当てて言った。


「本当だね。よく食べたよねのどか、あーんな量」と隣にいた優弥が言った。

「私、結構大食いだからね」


 少し会話が途切れて、沈黙が続いた。すると、隣にいた優弥が体をこちらに向けた後、顔を近付けた。その瞬間、私の心臓の音が速くなった。


「ねぇ、僕、当たったでしょ?」

 嬉しそうな顔で優弥が言った。


「何が?」

 と、私が優弥の方に体を向けて訊いた。


ってこと」

 とただでさえ大きい目を見開いて言った。


「あ、本当だー! 確かに言ってたね、治るって!」

「ほら! 言ったでしょー? 僕はすごい能力を持ってるんだから!!」

 と、大きい声を出しながら、顔を遠ざけた優弥。


「ちょっと、シー! みんな起きちゃうよ!」

 優弥の声があまりにも大きかったから注意した。


「大丈夫、起きないから。特にキングなんてさ、頭叩いても、お尻叩いても……リコーダーを吹いても起きないんだから」と言った。「ここまで寝ていると起きるのには時間がかかるんだよねー」


 すると、店員さんが、そろそろ閉店時間です、と言いに来た。


「あ、分かりました。すいません」

 と、私が言った。


「じゃあ、そろそろ帰らないとね。あーあー、こうなったら起こすの大変だよー」と言いながら、優弥は隣にいた亮さんの身体を揺らした。が、全然起きない。


「本当だ……。どうしよう……。あっ! どうだ! じゃあ、まず、キングを起こそう!」

 のどかは、キングを起こし行った。


「だから……キングは一番起きないって……」

 優弥がため息を吐きながら椅子から立った。


「キングー! キングさーん!」

 と、激しくキングの身体を揺らした。


「……ん、ナニ……ナニ、何!?」

 と、叫びながら勢いよく立ち上がったキング。


「え、起きた……!?」

 優弥が口を開けたまま閉じない。


「あっ、起きたね。……あのさぁ、頼みがあるんだけど、みんなを運んでくれない?」

 と、私が体を左右に揺らしながら言った。腹筋が一番割れている、一番の筋肉マンのキングに頼めばみんなを運んでくれるかと思ったのだ。すると、キングは伸びをした後、しゃがみ込み、私の脚に手を回し、軽々と私をお姫様抱っこをした。


「はい、じゃあ行きますか」

 と、言うキング。


「ちょ! ちょっと待って! 運ぶのは私じゃないよ!」

 と、キングのムチムチの腕を叩きながら言うのどか。


「寝ぼけてるよ」

 と優弥が言った。「運ぶのは、寝ている人たち」


「あ、そう?」とキングは言い、私を降ろした後、三人を一気に抱きかかえた。




 結果的に、私たちが私の家に着くまで全員起きた。


 静かな夜の町に響き渡る笑い声。

 家を見上げると、星がチカチカと輝いていた。今まで生きてきた中で、今見ている星が、一番綺麗な気がする。


 気づいたら家に着いていた。私は、後ろを振り返る。


「じゃあね、みんな」

「うん、じゃあね!」

 と、まだまだ元気な優弥が言う。他のみんなも「じゃあね」と言う。


 こうして5人に見送られるなんて、なんて私は幸せ者なんだろう、と思える瞬間だった。今まではどん底だった人生だったけど、神様はちゃんと人に幸せを平等に分けているのかもしれないと思った。





「ねぇ、一気に告白されたらどう思うかな、のどか」

 と、純斗が言った。


「はぁ? お前告白すんの?」

 と、創が言う。


「いや、そうなのかなぁーって思っただけだってー」

 純斗は創の肩を叩きながら言った。


「僕たち小人なんだよ? 知ってるよね?」

 と、優弥が片手に持った飲み物を飲みながら言う。


「知ってるよ」

「一緒にはどうせいられない。あの未来がある限りね」

 と、俺が言う。


 あの未来とは、あの未来のこと。のちに分かるんじゃないかな……。


「でも、どうせいつかは消えるでしょ? 居場所が……」

 と、腕をブンブン回しながらキングが言った。


 学校の敷地内の中庭の道の途中で、男5人組が堂々と恋の話をしていることが面白くなった俺は、笑いを堪えるのに必死だった。


「だったらやっぱり、のどかのことを好きな気持ちは、自分たちの心に留まらせておいた方がいいんじゃない?」

 と、キングが自分の胸を拳でトントン、と叩いて言った。


「なに格好つけてんだよ!」

 と、純斗はキングに体当たりした。「それに、告白するって僕、言ってないでしょ? なに真剣に考えてんだよ」


「それくらい、みんなものどかのこと好きなんだよ」

 と、俺が言う。


「でも、僕の気持ちは亮より強いと思うよ!」

 純斗が俺の方を向いて言った。


「何で俺に言うんだよ!」

 と、俺が言う。


「だって、亮、モテるから」

 純斗が口を突き出して言った。


「今それ、関係ないじゃんかよ!」

 俺は純斗のことを突き飛ばした。


 すると、「みんなー!」と言う声が聞こえた。前を見ると、のどかがこちらに走って来るのが見えた。


 え、でも、今は授業中なんだけど……?


「やっほ!」

 と、のどかは、俺たちの目の前まで来て言った。


「いや、『やっほ!』じゃないよ! 今、授業中だよ?」

 と、キングが言った。


「え~、たまにはいいじゃん、仮病なんてさ? だって、教室から、みんなが見えたんだもん! だから『ちょっと、お腹痛いです……』って教室出てきちゃった。私、バレないかな?」

 と、のどかが二ヒヒ、という顔をみんなに向けた。


「はぁー」と、俺がため息をつく。


 いつからこんな子に育ったのだろうか。のどかが仮病を使って授業を抜け出してくるなんて……はあ……。


「ダメだよ。ちゃんと授業行けないと」

 と、優弥が言った。


「えー? でも、そう言ってるみんなは何で今ここにいるの?」

 素直で純粋なのどかの目がみんなを見渡している。


「そ、そそ、それは……。ね?」

 優弥は非常に戸惑った様子だった。


「言ったでしょ? 俺たちは問題児なんだって」

 俺が言った。









 教室の窓から5人の姿を見たら、身体が「動きたい!」って「行きたい!」って言ってる感じになった。ムズムズして、胸の奥の奥が騒いで、たまらなかった。


 気が付いたら5人の前にいたんだもん。変だよね、私。5人がいると嬉しいし、5人のそばにいたいし、5人の顔が見たい。ずっとそばにいたい。


 これって――恋?

 じゃあ、一体、私、誰かに恋しているの……? 誰かが好きなの……?



 のどかは廊下を歩いていた。武……いないよね。絶対に見つからないようにしないと! マキに見られたら、次、何されるか……。


「おい……」

 低い声が聞こえた。


 後ろを振り返ると、私を見下ろしている武がいた。武は、何か言いたそうだったが、私はすぐさま前を向き、何もなかったかのように歩きはじめた。


「おい!」

 私は手首を捕まれた。


「な、何!? やめてよ!」

 武の手を振り払おうとするが、なかなか離れない。周りを見ると、同学年の生徒たちが私たちをを見ている。その中に……マキもいた。


「やばい……」

「やばい? ……何がやばいんだよ、ああ、マキ?」

「ちょ、やめて、離して!」

「チッ……ちょっと、場所変えるぞ」

 

 そういって、武はのどかを屋上へと連れ出した。


「おい……この頃、俺のこと、無視してない?」

「してない」

「嘘だろ、正直に言えよ。俺、お前のこと、中学から知ってんだよ、態度が違うことぐらい分かるって」

 

 私の何を知ってるっていうの。私を笑い者にしてたくせに……。


「私のこと、ほっといてよ! 武には私のことなんて何も分からないでしょ? そんなに私を弄んで楽しい?」

「俺は……お前のことが、好きなんだよ……」

「は……?」

 

 私のこと、好き……? 

 こんな人見知りで、いじめられっこで、地味で、目立たなくて……そんな私を、好きになる人がいたなんて……。


「ごめんなさい……ごめんなさい、私は、武の気持ちには応えられない……」

「まあぁ、だとは思ってたよ……ん、分かってた。あれだろ? あいつら……5人の中にいるんだろ、好きな人」

「ごめん……」

「……ん」

 武は、下を向いた後、空を見上げてから出口の扉へと向かった。



「はぁぁぁ……」

 私は、武が屋上からいなくなった後、体全体の力が抜け、その場に座り込んだ。


「いやぁ~、すごい場面に遭遇しちゃったねぇ~」

 と、声がした。


「え……キング……それに純斗くんと優弥まで。いつから、そこに……?」

 

 私は驚いた。目の前には、イチゴミルクをストローで飲んでいる優弥と、私のそばギリギリにしゃがみ込んでいる純斗くんと、鍛えあげられた腕の筋肉がポケットに突っ込んでいるキングがいた。


「お、お、お、お願いだからくれぐれも、他の2人には言わないで……ね?」

「分かった、分かったからぁ」と、純斗くん。いかにも言いますよ、という顔つきをしている。


「嘘っぽい」

 優弥が純斗くんを横目で睨んで言った。

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