第10話 ありえない奇跡



 ある日、おばあちゃんが倒れた。


 そのとき、おばあちゃんはすごく苦しそうに、胸を押さえていた。呼吸も上手く出来て無さそうに見えた。その後、救急車で搬送された。私はその日、学校を休んで、ずっとおばあちゃんのそばにいた。昼も、夕方も、今の夜だって。


 おばあちゃんの様子が大分落ち着いた頃、


「のどか、明日は学校にちゃんと行きなさいね」

 とおばあちゃんが私に言った。おばあちゃんの腕には点滴用の針が刺さっていて、何個もの薬を投与している。


「え……。でも、おばあちゃんに何かあったら……」

「大丈夫。景子けいこ(のどかのお母さん)が、今から来るらしいから」

「そうなんだね。なら、安心かな……。分かった、明日学校にいくけど、病院にも来るからね」

「分かったよぉ、学校には、気をつけて行くんだよ」

 おばあちゃんは、しわしわの笑顔を私に向けた。


 いやだ、いやだよ。私の大好きなおばあちゃんが死ぬなんてやだ! 絶対にやだっ!




 学校に行ったら、いつもと違う元気がない私を見て5人はすごく心配してくれた。今まで一度も学校を休んだことがない私が昨日、急に私が休んだのが変だと思ったのだろう。


「あー、のどかが死んでなくてよかった」と、創さん。


「何かあったら何でも相談してね」と、亮さん。


「もし体調がだるかったなら、一緒に筋トレしよう! 何でかわからないけど風邪ひかなくなるんだよ!」と、キング。


「のどか、昨日いなかったけどどうしたの? 体調、大丈夫?」と、優弥。


「ぎゅーしてあげる?」と、純斗くん。


 それぞれ違うみんなの優しさがとてもうれしかった。


「大丈夫だよ、ありがとう」



 後から聞いたらおばあちゃんは、生死にかかわる重い病気だったことが分かった。私のお母さんが付きっきりで看病しているものの、少しずつ、元気になってきている。私は大好きなおばあちゃんのことがとてつもなく心配だ。








 のどかはこの頃、元気が無い。俺は、一体何をしてあげればいいんだろう。筋肉しか取り柄が無い俺は、脳の中まで筋肉だからバカだし……。


「のどかは、筋トレとかする?」と、俺がのどかに訊く。

「う~ん、あんまりしない」

 で、会話が終わってしまった。


「そっか……」


 俺は筋トレとかの話の内容しか持ってないのかよ! ほかの話の内容はないのか?


「あっ、何か食べたいものでもある?」

「う~ん、今は、クレープかな……」

 と、のどかが椅子に座りながら窓の外を見ている。今、この教室の空間には俺とのどかの2人しかいない。


「じゃあ、クレープ食べに行かない?」

 と俺が言った。


「キングが奢ってくれるの?」

 のどかが少し目を輝かせたような気がした。


「いいよ、俺が奢ってやる!」


 俺も久しぶりにクレープ食べれて嬉しいし、何より、のどかが喜んでくれているのが嬉しい。こんなにクレープって美味しかったっけ……。久しぶりに食べたから、味まで忘れたのかな、俺。のどかはクレープにかぶりついた後、とても目を輝かせた。


「おいしい?」

 と俺が訊くと、のどかは


「うん……うん」

 と、言った。だか、俺はのどかが食べながら泣いていることに気付いた。


「のどか? どうした?」

「ごめんね、こんなところで泣くなんて。……ビックリしたよね。でも、申し訳なくて……涙を止められなかったの。実は、私のおばあちゃん、すごく重い病気を持ってて、今も、この今の瞬間も病気と闘ってるのに……、私は……のんきにクレープ食べてるなって思ったら、申し訳なくて……。それに、クレープ、おばあちゃんの大好物でもあったから……」


 俺は、バカ者だ。

 大バカ者だ。

 俺は一言も言葉が出なかった。

 何も言ってやれなかった。

 元気を出そうと思ったのに、逆にのどかを苦しめてしまった俺は、大大大大大バカ者だ!!


「ごめんね」と俺が言った。そう言って俺はのどかを優しく抱きしめて、背中を摩った。それぐらいしか、俺は出来なかった。のどかが苦しんでいる姿は俺もそうだけど、他の4人も見たくない。何か、のどかの悩みの原因をどうにか消すことはできないだろうか……。







 私はいつも通り、昼休みにベンチに行った。そこにはちゃんと5人がいた。私は、おとなしく、おばあちゃんの弁当……じゃない、自分で作った弁当を食べていた。


 今にも涙が出てきそう。でも、今は泣いちゃダメ! 5人に心配かけたくない。


私はじっと下を見つめながら、お弁当を食べた。


「のどかー、元気ー?」

 と言って近づいてきたのは純斗くん。


「元気ですよー」と、私は返した。


 すると、純斗くんは、ならいい、ならいい、と言いながら私の頭を優しく撫でてくれた。その優しい行動だったり、優しい言葉とかが私の涙腺を余計緩めさせた。




 のどかはまた、屋上にいた。誰か来ないかなー、と考えながら、地べたに胡坐あぐらをかいている。


「のどか」


 まさか本当に来た!? 


 驚きながら、後ろを振り返るとそこには優弥がいた。


「なに? そんな驚いたような顔で僕を見ないでよー」

 と優弥はのどかの隣に座る。女の子が胡坐をかいて、男の子が体育座りをしている。なんか……対照的で面白い。


「私ね、今、誰か来ないかなーって考えてたの」

「そうなの? じゃあ、その想いが通じた僕は、のどかの運命の人だったりして?」

 優弥が真面目な顔で言った。いつもは可愛く笑っている優弥が真剣だとなんだかおもしろい。私は堪えられず、笑ってしまった。


「ちょ、何で笑うのー?」

「ごめんごめん! なんか面白くって」

 と顔の前で手を合わせて笑いながら謝る。


「でも、優弥のおかげですごく元気が出たよ、ありがとう!」

「僕、何もしてないよ」

 ただ前を見て優弥は言った。これからの未来が見えているような、そんな……目だった。


「あのね……本当は私、この頃、精神的にも本当にキツかったの。おばあちゃん、治るのかなって。ずっと心配で……」


 すると優弥は、少し微笑んで「おばあちゃんは治るよ」と言った。


「なんでそんな、根拠もないこと言えるの?」

 と私が訊いた。


「さぁね」

 そして優弥は少し、厚い唇を横に伸ばした。





──── 1か月後 ────




「えっ!! 治ったの!?」


 お母さんから電話がかかって来た。


 検査をした結果、急激にどんどん回復していって、病気が跡形もなく消えたらしい。ベテラン医師でも、今までこんなこと見たことがないと言う。


 そんなのってあり得るの? もう喋れないくらい、病弱していたおばあちゃんの病気が、治った? こんなすごい奇跡もあるんだね。ありがとう、神様!!


 そして、のどかは2-0へ走った。勢いよく扉を開け、こう叫んだ。


「みんな! おばあちゃんが治った!!」

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