第6話 占いって最高
今朝、スマホ占いを見ていたら、私の今日の運勢はワースト3位。仕事運ゼロ、健康運ゼロ、金運イチなのに、恋愛運は星が全部埋まっていて、最高に良いらしい。
これってどういう事なのだろう。恋愛運だけが良い日ってことだよね。なのにアドバイスが、『今日は非常に気を付けてください』だって。
非常に気を付けるってどういうことよ? まぁ、とにかく周りを見て、すべてに気をつけていればいいってことでしょう?
のどかは心の中で今日の占いにツッコミを入れながら、玄関の扉を開けた。
学校の校門の前の交差点で、信号待ちをしていると、桜の木の下でカメラをいじくっている創さんの姿がが見えた。それを見た瞬間のどかの心臓は高鳴った。
「創さーん!」
のどかの声が届くか届かないかの距離にいた創だが、のどかが叫んだ途端、真っすぐ、のどかのいるところに視線を向けた。
気付いてくれた!
私は嬉しくて、思わず手を振ってしまった。すると、創はカメラのレンズをのどかの方に向けた後、手を振ってくれた。
あの、少し冷たい創さんが手を振ってくれるなんて思わなかった! さすが今日は、恋愛運が良いだけある!
青信号に変わった後、走って創のところに行った。
「おはようございます」と私が言うと、「おはよう」と創さんは優しく言ってくれた。
「今は、創さん一人なんですか?」
「ああ。あ、俺じゃ嫌だった? 亮とかが良かった?」
「いや、そういうことじゃなくて。いつも5人でいるってイメージがあるから、創さん一人でいるのが珍しくて」
「あ、そういうこと? 良かった、俺、嫌われてるのかって思った」
すると、創さんはにっこり笑った。
創さんが笑うと、切り目の目はより細くなり、いつもは見えない綺麗な白い歯が見えた。そんな創さんの笑顔に見惚れていると、後ろ側から長い腕が伸びて来た。その腕はゆっくりと首に巻きついてきて、すぐ横からその腕の持ち主が顔を出した。
「おはよう、のどか」
その人は、純斗だった。
「あ、純斗さん、おはようございます」
すると、
「純斗でいいよ」
と純斗に耳元で囁かれた。
「え、でも年上なので……じゃあ、純斗くんって呼びます」と、のどかは純斗の耳に口を近づけて囁き返した。
恋愛運がいいとこんなに進展するんだね。占いなんて半信半疑だったけど、信じてみる価値あるかも!
「やっほ!!」
純斗のあとにやって来たのは、キングだ。キングと一緒に、優弥と亮も一緒に来たようだ。
「あ、みなさん、おはようございます」
こんな人たちが私を囲んでいると、顔の端まで熱が広がりそう。今の時間帯は人がとくに多い。そのせいか知らない人たちがジロジロとこちらを見てきている。それに恥ずかしくなった私は、「じゃあ、中に入りましょう」と5人に声を掛けた。
「はい、明日単元テストするから、準備しておくように」と英語の先生が言った。
そんなの急に言われても困るよ……。それに私、英語苦手だしぃ~。
休み時間の時間さえも有効に使おうと考えた私は、昼休み中、階段を降りながら、単語を暗記をしていた。
「のどかー!」
私は周りを見渡したらすぐそこに、キングがいた。
「あ、キングさん!」
教科書を閉じ、下の方にいるキングの方へ向かおうとしたのどか。一歩、脚を前に踏み出そうとすると、つま先がどこかに引っかかって体重全体が前の方にかかる。
やばい、転ぶっ……!!
私は、病院行きを覚悟した。それぐらい私はまだ高い位置にいたからだ。今度は骨折どころじゃない……! のどかは、強く目をつぶった。だが……。
「あれ?」
身体が止まった、と思って目を開いたら目の前にキングがいて、キングは私の身体を抱きしめていた。いや、それは落ちないように支えてくれているのかもしれない。
「大丈夫?」と、優しい声でキングが話しかけて来た。
「あ、ありがとうございます……」
「危なかった……。落ちるかと思ったよ」
と言って、キングは笑った。「ちゃんと、足の先にも注意を配って、気を付けるんだよ?」
「はい、すみません」と私は謝った。
キングは元気よく手を振り、バイバーイ、気をつけるんだよ、と言って去っていった。私の心臓はまだ、バクバク波を打っている。さっきは命の危機を予感した。キングさんがいなかったら、私は今頃、病院に運ばれていたであろう。
それにしてもキングさん、運動神経いいんだなぁー。あんなに遠くにいたのに、一瞬で私の所まで来たって事でしょ? ただ者じゃない!
すると私は、朝の占いのことを思い出した。
『今日は非常に気をつけてください』
非常に気をつけてって、このことだったのか……。全身の鳥肌が立つ。やっぱり占いは、信じるべきかもしれない。
放課後、私は誰も居ないいつものベンチに向かった。静かな場所なので、明日のテストに向けての勉強をする場としては最適である。
「ほにゃららを避けるという意味の、avoid。huntは、推し進める、ね。……えーっと、この単語は、なんて読むんだ?」
眉間に皺を寄せて、考える。
「ほにゃららを集めるって意味の、ガ……ガ……」
「gather?」と誰かの声がした。
「へ?」
声した前を見ると、そこには亮が立っていた。
「多分、それgatherだと思うけど、あってる?」と亮が私に近づきながら言った。
「あ……本当だ、当たってる」
自慢気に微笑みながら亮さんは、私の隣に座った。
「なに、こんなところで勉強?」
「はい、明日が英語の単元テストなので……」
「あー、そうなんだ」
「亮さんは、勉強得意ですか? 私、英語が苦手で……もし得意なら教えてほしいんですけど」と言って、亮さんの顔をちらっと見た。
「いいよ。俺でいいなら教えてあげる。俺、勉強することしか取り柄ないし」と、背もたれを付きながら言った。
亮さんは、見た目通り、優等生だった。『勉強できる』って感じで、教えるのも上手で。イケメンの人が勉強まできでちゃダメでしょ。めちゃめちゃ完璧すぎる。
「あ~、なるほどぉ~。やっと分かりました!」
「うん。……これぐらいかな」
「亮さん、ホントにありがとうございました。もうこれで、明日のテスト100点です!!」
亮さんは、ははは、と笑った。「じゃあ、テスト返されたら点数教えてね」
「もちろんです! 絶対100点とりますからっ!」
「うん」
亮さんは目の横にシワをつけて笑った。気が付くと、辺りは少し暗くなっていた。
「じゃあ、私そろそろ帰りますね」
亮さんは周りを見渡した後、「送るよ」と言った。
「いいですよ、一人でぐらい帰れますし」
「こんなに暗くなるまで教えちゃのは俺だから、ね?」
亮さんの瞳は湖のように澄んでいた。
「じゃあ、お願いします」
のどかと亮で歩いていると、「のどかは毎日歩いて通ってるの?」と亮さんが訊いてきた。
「はい、そうです。家が近いので。家って言っても、おばあちゃん家ですけどね」
「ふぅーん。あ、のどかはさぁ、好きな人とか……いるの?」
その質問に、身体中の細胞が反応した感覚があった。
「な、なんでそんなこと聞くんですかぁ?」
「いや、ただ気になって。もしかして、あの人かなーなんてさ」
「え、誰ですか?」
亮さんは、上を向き、夜空を見上げた。
「あの人には近づかない方がいいよ。のどかが嫌な思いをしちゃうかもしれないからさ。……ほら、武ってやつ?」
「武ですか?」
「うん」
知らない車が2人を追い越していった。
気がつくと、もう家に着いていた。
「あ、私の家、ここなんです」
亮さんと歩いると、家までの距離がとても短く感じた。この時ばかりは、この家が他人の家ならいいのに、と思った。
「そう。じゃあ、また明日ね」
「はい。また明日……」
亮さんは私が玄関に入るまで見送ってくれた。のどかの頭の中には、のどかが家の中に入るのを待っている亮さんの姿がずっと残っていた。
「のどか、おかえり」と、おばあちゃんが出て来た。
「ただいま」
「今日ちょっと遅かったんじゃない? 帰り道、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫。先輩がおくってきてくれたから」
「あら、それは良かったわね。……もしかして、〝彼氏〟とか?」
「も、もうぅ、やめてよぉ。別にそんな仲じゃないから!」
「そーおー?」
「そうだよ!」
私は小走りで自分の部屋に向かった。
翌朝。
「やばい! 遅れるぅ!!」
今日は珍しく、30分寝坊してしまった。
「いってきまーす」
玄関のドアを勢いよく開けると、「え――」
そこには信じられない光景があった。
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