第5話 運命なのかな



「じゃあ、これを誰に答えてもらおうかな」と言って数学の先生が教室全体を見渡す。この声にクラス全員が下を向く中、私は間違って先生を見てしまった。


「はい、のどか。答えてみろ」

 その一言に、クラス中の人たちが安心モードに入った。「あ、骨折してるから、立たなくていいからな」


「はい……。えー、6aの二乗+4ab−4? いや、5……?」

「うーん、途中まで合ってたんだけどな。……はい、次、答えられる人は?」


 なんなの本当……目が合った人を当てないでほしい……。なんか先生ってそういうところない? 挙手する人がいないと、目が合った人を当てるって。先生あるあるだよぉ。


 のどかは気晴らしに一番窓側だったので外を眺めた。すると、どうやら校庭では3年生たちが合同体育を行っているらしかった。あの人達いるかなーって考えながら、一人一人顔を確認して一致させていくが、5人中、誰一人としていなかった。


 不思議だな。たぶん、3年生だと思ったんだけど。て言う事は、2年生か。

 

 たった一年しか変わらないはずなのに、5人はずいぶん大人だ。未熟ではない雰囲気を醸し出している。



 移動教室のため、一人で教材などを持ち教室を出たら、武がたまたま廊下にいることに気がついた。やばい、いるじゃん。私は、知らんぷりして武の横を通り過ぎようとした。でも、松葉づえがいちいち音を立ててうるさいんだよなぁ……。


 気付かれませんように! 話しかけられませんように!


「あれ? のどかも移動教室? 奇遇だな、俺も移動教室なんだー」

 ばれたー! 待ってました~、という感じで武が話かけてきた。


「へぇ……そう」と私が、武にから返事をする。

「骨折……大丈夫か? 荷物、俺が持つよ」

「あ、ありがとう」

 この頃の武はやけに優しい。気持ち悪いほどに。


「あ、そういえば、この前いた人と仲いいの? あの、あの……男の人」

 のどかの歩くスピードに合わせて武も一緒に歩いている。


「この前の?」

 何のことだろうと思っていたら、思い出した。


「あー、亮さんのこと? ん~、亮さんは、仲いいっちゃ仲いいって感じかな?」


 ふーん、と言って武はそっぽを向いた。


「なに、このごろやけに優しいじゃん。昔は私のこといじめてたくせに」

 そう言って私は武を睨んだ。


「そ、それはぁ、昔のことだろ? 俺も大人になったんだよ」

「ふ~ん」


 昔って言っても、まだ、2か月しか経ってないけどさ……。あ~! 早く教室に入りたい! 周りの女子達がみんな、私たちのこと見てるじゃん!





 もう咲かなくなってきた桜がある校門に、あの5人組がいた。


 下校時に5人がこんなところにたむろっていたら、その何倍もの女子たちが集まって来ちゃうでしょ? 陰でファンクラブもあるらしいのに、そんなことも分からないのかな、あの人たち。


「あ~! のどかだぁ~!」

 そう言って走って来たのは純斗だった。純斗は私の近くギリギリのところまできて、私の腕をつかんだ後、残りの4人のいるところまで連れて行った。


「ちょっ、やめてよ、やめてよ」と言いながら、のどかは純斗の腕を叩く。もう、周りの女子たちが見ているでしょう? 叩いたら、すぐ離してくれた。


「ねぇー、どこ行っていたの? 昼間、待っていたのに来ないし」と優弥が言った。

 今日は、たまたま武に誘われたから、嫌々一緒にお弁当を食べたんだった。だから、いつもの所には行かなかったのだ。


「ごめん、待ってたなんて知らなかった。今日はたまたま一緒に食べる人がいて」と私が下を向きながら言った。


「まぁ、ね? それなら仕方ないよ」と亮が4人に向かって言った。

「ちゃんと来てよー? 僕たち、のどかに会うのが楽しみなんだから」と、純斗が言った。その言葉に涙が出そうになる。


「それはお前だけじゃねーの?」

 と、キングが言うと純斗はキングのことを思いっきり叩いた。キングは痛そうな顔をのどかに向けた。私はそのキングの顔を見たら、笑いが込み上げてきて吹き出しちゃった。


「あ! それに! やっとギブスとれたんだから! 安静にね!」

 純斗が言った。


「そうだぞ! もう二度と、骨折しないようにな!」

 キングも言った。


「はい……すみません」


 私を待っていてくれている人がいたんだ、学校に。すごく、すっごく嬉しい。ずっと一人だったから、そんな存在があるだけで、毎日が楽しくなる。それに目の前にいる、5人みたいなイケメンと一緒に話せてる自分が信じられないぐらいで……。本当に嬉しい。私もう、今日、死んでもいいよ!


 それから毎日、私はしっかり、私を待っていてくれている人たちの所へ行った。時々、武から「一緒に食べない?」って誘われても、私は毎回断った。だって私は、あの人たちに会うためにベンチに行くから。



 のどかはいつも通り、ベンチに座ってお弁当を食べていると、のどかの隣に亮が座った。


「今日もおいしそうだなぁー」

「亮さんもそうですけど、みんなは何か食べないんですか? いつも不思議に思ってましたけど、いつも食べているの私だけですよね?」

「俺たちは……今、ダイエット中なんだ」


「ダイエット?」

 とのどかは訊き返した。


「みんなこれ以上痩せちゃったらどうなるんですか? ……ああ、ダメだ、みんなゾンビ、いや、スケルトン、いや違うな……ガイコツになっちゃいますよ! ガイコツに!! それに、栄養が行き届かなくて、倒れちゃったり……? ああ、やっぱりダメ。ちゃんと食べてください」

 のどかはそう言って、自分のお弁当のおかずの一つを箸でつまんだ。


「はい、あーん」

 亮は戸惑いながらも、小さく口を開けた。のどかはお弁当の中身の卵焼きを亮の口に入れた。


「どう? おいしい?」と私が訊くと、亮はもぐもぐしながら頷いた。

「あ、そういえば。亮さんたちって2年生ですよね。みんな何組なんですか?」


 すると、亮は目を泳がせた。ははは、と笑った後、「クラスは教えられないなー。俺たちは教室にはいないんだ」と亮は言った。


「教室にいないんですか? って事は、みんな、問題児なの?」

「ん~、そうかもね。だから、よく俺たちは、屋上か、使われていない教室にいるんだよ」

「使われていない教室? そんなところがあるの?」

「あるよ。三階に、2-0っていう、ずっとカーテンが閉まってる教室があるでしょ。そこ。少し怖そうな雰囲気があるから、誰も入らないんだよ。ここか、屋上にいなければ、そこにいるから、のどかもいつでも来てね」

「うん」

 そう返事した後、周りを見渡したら、さっきまで騒いでいた残りの4人の姿がどこにもなかった。


「あれ? みんなどこに行ったんだろう」

「本当だ、誰もいなくなってる。だぶん、その教室に行ったのかもね」と亮が言った。


――キーンコーンカーンコーン

 昼休み終わりのチャイムが鳴り終わったと同時に私と亮さんは立ち上がった。


「じゃあ、残りの授業頑張ってね」と亮さんは言って、優しく微笑んだ。

「はい。亮さんも」

「うん」

 亮は、じゃあ、と言って先に建物の中へと去っていった。



 やはりあの5人は不思議だと心の底から思った。あんなにイケメンで美少年の集まりで、どう見たって問題児には見えないのに、問題児って言うし。気付けばいなくなっているし、一緒にいると懐かしい感じがするし、私たちは会って数ヶ月しかたってないのに相手は私の事をすごく知ってるように見えるし、すぐ私を分かってくれて、気持ちを悟ってくれるし……。


 これって〝運命〟なのかな。

 出会うべくして出会った人たちなのかな、あの5人は。

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