第4話 注意して! 



 バタン――!!!


 やっちゃった……。

 

 のどかは派手につまずき、廊下のど真ん中に顔から転んだ。周囲にいた生徒たちが、私のことを見ながらクスクスと笑っているのが分かる。のどかの持っていた教科書やノート等は廊下を滑って遠くに行き、ペンケースの蓋は開いて中身が出散らかっている。


 いったぁ……。


 右足に雷が落ちたかのような痛みがのどかを襲った。


「おぉー、大丈夫?」

 驚いた様子で近寄って来たのは、さっきまで見ていたイケメンの二人だった。片方は私の散らかった物たちを拾い集め、もう片方は私の手をひき、起こしてくれた。


「すいません、すいません、すいません……」

 恥ずかしくって、私は顔を上げられなかった。


「はい、どうぞ」

 物を集めてくれていた人が、教科書等を手渡してくれた。「大丈夫?」


「あ、大丈夫ですっ……すいませんっ」

 

 私は恥ずかしさのあまり、よく見ずに受け取った後、逃げるようにその場を去った。右足が痛む。だが、恥ずかしさが勝ったため、走ることが出来た。


「あっ、ちょっと! ペンケース、忘れてるよ……。ダメだ、行っちゃった」

「ありゃー、ペンケースないと困るよー。次見かけたら渡そう」

「うん」



 今日もお弁当を食べに、心を弾ませながらあの場所へ向かう。何やらワイワイと話し声が聞こえたので、また、あの三人がいるんだな、と思った。けれど、いつもより声量が大きい気がする。気のせいだろうか。


「こんにちは」と私がみんなに向かって言った。

「やっほー、のどか」と今日も元気で可愛い純斗が言った。

「今日の弁当の中身はなに?」と亮が近づいてきた。「待って、当てるから。うーん……唐揚げかな?」


「えっ、なんでわかったんですか?」

 そう、今日のお弁当の中身は〝唐揚げ〟だった。大好物だからすっごく楽しみにしていたのだ。


「本当? 本当に当たるとは思ってなかった……」と、自分でも驚いている様子だ。


 優等生に見えて、意外とフレンドリーな亮さん。

 いつも通り少し静かで塩の創さん。

 可愛い、癒し系の純斗。

 この三人だけのはずだった……。



「あれっ! 君っ……!」

 ビックリして、その声の持ち主の方へ視線を向ける。


「あ……」と私も思わず、声を出してしまった。だって……。


「君、転んだ子?」

 と、薄い金髪の男の人が言った。


「ちょ、ちょ……そうですけど、転んだ子っていうのは止めてくださいよ!」と私が焦りながら言うと、「やっぱりそうだ、転んだ子だ!」と薄い金髪がはやし立てた。


 やめてほしい……。本当に、恥ずかしいから、やめてよぅ……。


「えっ、転んだ子って何?」と、純斗が興味深そうに言った。

「廊下で派手に顔から転んだんだよ」とプリンヘアーが言った。それを聞いて大げさに笑う三人をのどかは睨みつけた。


「何で転んだの?」

 創が笑いながら聞いてきた。


「知らないよ。でも何かに引っかかって……」とのどかが口を尖らせて言った。

「いえ、その下にはなにもありませんでしたー!」と、金髪が言う。

 

 その一言でもっと笑い声が大きくなる。


 あーあ、もう駄目だ……。


 すると、パシャ――というカメラのシャッター音が鳴った。その音を聞いて全員が、創の方を見た。


「いや、みんないい笑顔だったから、無性に撮りたくなって」と、創が言った。

「なに勝手に撮ってるんだよー! え、どれどれ、見せて」と金髪が言った。


「あの……それで、この二人は誰ですか?」と私が訊いた。

「あー、ごめんごめん、言ってなかったね。こいつは、優弥」と亮が、プリンヘアーを指さした。


「で、こいつがキング」

 金髪を指さした。


「キングでぇーす」

 イケメンなのに、こういう性格なためにイケメンじゃ無く見える。いや、でもやっぱりイケメンか。


 キングは腕、脚すべてに筋肉があって、とても頼もしい。顔も男っぽくて、ハンサム。そして、目が大きいのが特徴。それに比べて、優弥の方はとても細身。目がキラキラして大きくて、少し唇が厚いのが印象的。優弥も純斗みたいにキュートボーイだ。


「よろしく、のどかちゃん」と優弥がにっこり笑った後、何かに気付いたような表情をした。「そうだ、そうだ! これ、忘れ物だよ」


 優弥が服のポケットから取り出したのは、のどかのペンケースだった。


「あ……! ありがとうございます。探してたんです」


 優弥は、少し厚い唇を横に伸ばして笑った。


 食べ終わり、お弁当箱をバックに入れる。


「はぁ……やっぱ、痛いな」


 私は右手で右足全体をさすった。


 派手に転んだときに、酷く痛めちゃった……。骨折してなきゃいいけど。


 その様子を見ていたのか、亮さんが近づいてきてくれた。


「足、痛いの?」

「あ、その、転んだときに、痛めちゃったみたいで……」

「ふーん……」


 亮さんが私の目の前に屈んだ。そして、私の右足を持ち始めた。


「え、え、え、何してるんですか」

「……どう、これは痛い?」


 優しく私の右足を曲げさせた。


「うーん……痛く、ないと思います……あ! 痛いです!!」

「うん、病院に行った方がいいよ、一応」

「はい……分かりました、行ってみますね」


 玄関のドアをおばあちゃんが開ける。


「はい、下に気をつけて、転ばないでよ」

「はいよ……てか、本当に骨折してたなんて……」


 私は見事に骨折してました。

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