第3話 ヤバいこと




 いつも通り、廊下の淵に腰かけて中庭を眺める。中庭を見ることが、いつの間にか学校から帰って来た後の日課になっていた。


 カサカサ、と一つだけの草が揺れている。今日は風もなく、過ごしやすい日のはず。それに、周りの草は揺れていなのに一つの草だけが揺れているなんて変。


──カコン。


 まさか……!


「やっぱり」


 目を凝らして見ていると草の陰から一瞬、小人が出て来た。少しおんぼろの服を着ている金髪の子だった。


「久しぶりに見たぁ。……この頃、見れてなかったからいなくなったのかと思っちゃったよ」


 すると、小人がこちらを向いた。


 ビクリ――。

 そしてその小人は、のどかににっこりと微笑んだ。


「えっ!?」

 ハッとした後、気付いたら小人は消えていた。


「小人って笑うんだ……」

 今まで小人とばっちり目が合ったことも、笑われたこともない。のどかはすぐさまおばあちゃんに、今起きた出来事を教えに行った。




 校門の前に立った瞬間、カバンの中がゴソゴソと動いた感じがした。その音と共に冷や汗が出てきた。


「嘘でしょ、虫でも入ってたりしないよね……」


 私は大の虫嫌いだ。小学校のときのプールの授業中、前の人の肩にバッタがのっていて、それにそのバッタがこちらを向いていることに気づいた私は、悲鳴をあげながら、プールサイドからプールに飛び込んだ思い出がある。今思えば、あのときの飛び込みが今までの人生で一番上手な飛び込みだった気がするけど……。


 虫の中で一番嫌いなのは、カマキリ。あの気持ち悪い大きなきみどり色の目を見た瞬間、自分の目を捨てたいほど嫌になる。脳裏にカマキリの目が映像として残り、離れないあの感覚もいやでいやでしょうがない。

 

 のどかが恐る恐る中をのぞいたが、中には虫一匹も入っていなかった。別に何も問題はない。大丈夫。そのはずだったが……。


「あれ、あれ? ヤバい……! 国語の教科書忘れた!」

 焦りに焦って、カバンの中をかき乱す。……やっぱりない。


「はい、国語の教科書」

 横を見ると、武が国語の教科書を差し出しながら立っていた。


「何の用?」

 私が言った。


「だから、国語の教科書忘れたんだろ? 貸してやるよ」

「う、うん。ありがとう」

 と素直にお礼を言って、のどかは教科書を受け取った。


「いやぁ〜、この前ノート貸してって頼んだ時に、ほかをあたってって断った奴だれだっけかなぁ」


 コイツ、嫌味を言ってるよね……? 


「やっぱり結構です。教科書無くたって平気ですから」

 苛立ったのどかは、教科書を武に突き出した。


「ウソ、ウソ! 冗談だって! ちょっとイジめただけだから」と言って笑った。


 すると、「なに笑ってるの?」と言う声が聞こえた。近づいて来たのは、この前ベンチで会った男の人の一人だった。


「あ、亮さん」と、私が言った。

「お? ちゃんと名前覚えてたね」と言って亮は、のどかの頭をポンポンと撫でた。

 

 頭に優しい感覚がのる。亮さんの手から温かさを受け取ったのか、私の顔は熱を持ちはじめた。


 今は……どういう状況? 突然のことで、脳が理解できてない! 誰も見てないよね? 

 

 気が付けば、さっきまで隣にいた武の姿は消えていて、代わりに亮さんが私の隣にいた。


 亮さんは、のどかをクラスまでおくってくれた。なぜだか亮さんと隣を歩くと、自分でも分からないほどの安心感に包まれた。


 なんだろう、ふんわりと柔らかく、暖かいような。でも亮さんだけじゃなくて、創さん、純斗さんも同じようなものがあった気がするんだよね。




 のどかは毎日おばあちゃんのお弁当を食べるために、あの、人目のつかない隠れるベンチへ向かった。いつもは誰も居なく、シーンと静まり返っているベンチだが、今日は違った。


「なんでいるんですか?」と、のどかが訊くと、「学校だから」と創が答えた。

「まぁ、学校ですけどぉ」


 創と亮と純斗は楽しそうにカメラを見ながら笑い合っている。


「なに見てるんですか?」と私が尋ねると、「写真だよ、ほら純斗の変顔」と言って亮がのどかにカメラの画面を見せた。


「ちょっと、亮! 人の変顔は見せちゃダメっ!」と純斗は必死にカメラの画面を手で隠している。

 

 ここにいる三人は、顔面偏差値が平均以上、いや、平均よりずいぶん上。そんな人たちが変顔をやっても、変顔になってない。そう、変顔をしても顔が崩れていないのだ!


 純斗の変顔を見せたい亮と、見せて欲しくない純斗の戦いをのどかが面白がって見ていると「のどかの変顔も撮る?」と創が聞いてきた。


 普通、女子にそんなことは聞かないでしょ。でも……。


「いいよ、私の世界一の変顔見せてあげる」

 強そうに、私は胸を張って言ってみせた。それを見た創は、


「やっぱいい」

 とあきらめてくれた。


 良かったぁ。私だって、イケメン男子三人を前にして世界一の変顔なんて見せたくないに決まってる……!


「あっ、弁当食べに来たんでしょ。ごめんごめん、俺たちが使ってて」と亮さんはベンチから立ってくれた。


 亮さんは良い所に気付くな〜。気が利く男子は絶対にモテる!!


「いえ、大丈夫です」

 のどかは三人の隣に座った。そして、他愛ない会話を楽しんだ。



 廊下を歩いていたら、この学校は本当に顔面偏差値が高い人が多いことを実感する。実際、今だって、前から歩いてきている二人の男の人は最高にイケメン……!片方はぽ薄い金髪、片方はプリンヘアーだった。(ほとんど金髪で、生え際数センチが普通の黒い髪色)その二人の放つオーラがすごすぎて、私は目を離せずにいた。

 

 でも、まぁ、そんなことしていたらヤバい事が起きるに決まってるよね……?















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