第52話 推理②

「おれたちは、結愛ちゃんを探しに向かい、また部屋へ戻ってきました。改めて部屋の様子を探るためです。そこで、三枚ある襖の真ん中がなくなっていることに気づきました。外へ捜索に向かったのを見計らい、モニターを外したのでしょう。ずっと置いておけば流石に気づかれてしまう。モニターはおそらく公民館まで運ばれたことでしょう。それを運んだのは、拓海さんと慎太郎さんだ」

 拓海は腕を組み動じなかったが、慎太郎はおろおろとした。どちらもわかりやすいリアクションではあった。

「沢村家の近くには、三つの橋があります。おれはこの橋にそれぞれ数字をつけました。神社などがある左エリアに向かうための橋は一、ここ中央エリアは二、公民館などがある右エリアは三。三の橋の先には、足跡がありました。朝に雨が降り、ぬかるんだためついたんです。確認を取りましたら、誰も通ってないと言います。村のものも通っていないだろうと。では、この足跡は犯人のものです。

 足跡は、沢村家へ向かう足跡と右エリアの方へ向かう足跡の二種類がありました。その二種類の足跡は、同じ位置にありました。その上をなぞるようにして足跡がついていました。モニターを運んだのが一人だけなら、公民館に戻しに向かうのに一回、帰ってくるのにもう一回と計算は合いますが、大型のモニターのため一人で運ぶのは難しいです。二人で運ぶ方がスムーズにいきます。ここで考えて欲しいのが、どのようにして二人だと持つのかという点です」


 みな顔を見渡し、誰が答えようかと悩んでいた。拓海はこの空気を取り払うように、勢い良く言った。


「モニターの片方ずつを持つだろうな」

「そうですね、端と端を。引越しの作業などで、タンスを運ぶのにそういう光景を見ます。お互いが端を持ち、。あの足跡は、沢村家に向かうのと離れていく二種類ではありませんでした。。なぞるように跡があったのも、モニターを持っていたためです。必然的にその上を通ることになりますからね。結愛ちゃんの捜索から帰り、二人が汗をかいていたのは、重いモニターを急いで運んだためでした。

 家へ戻るのは、公民館にモニターを戻し、巫女である和恵さんを呼びに向かってからです。三の橋にも足跡がついていてもおかしくないのに、残っていなかったのは、戻る際に通らなかったからです。神社のある左エリアへ向かうための一の橋には、三種類の足跡がありました。すべて沢村家に向かうためのものです。拓海さんと慎太郎さんが呼びに向かったと聞いていたため、神社へ向かう二人の足跡がないことに不審に思いました。でもこれで説明がつく。公民館へモニターを戻し、そのまま神社へ向かい和恵さんを呼びました。そして一の橋を通り、沢村家へ。だから三種類の足跡しかなかったんです」


 おれの推理に誰も反論はなかった。しんと静まり返ったが、村長が沈黙を破った。


「では、わしらが犯人であると……」

「犯人――そうでもあり、違うとも言えますね」

「どういう意味です?」

「まあそう焦らず、次は優花ちゃんの消失について説明させてください」

 弥彦と裕貴の表情が険しくなった。結愛の消失を解いたため、緊張しているのだろう。


「おれと瑛華は、統司さんに呼ばれ神社へ向かいました。そこで、斜面を上がった先にある神田川家のガラス戸の前に、優花ちゃんはしゃがみ込んでいました。足を止めまたも手を振ろうとしていると、優花ちゃんは一瞬にして消えました。

 結論から言えば優花ちゃんの一件にも、モニターが使われています。しゃがみ込んでいたため、今回は高さはいりません。モニターは通常の横向きに置かれていました。ただ結愛ちゃんのときと違うのは、窓枠がないため映像の部分が多いという点。そこで視界の悪さで誤魔化しを計りました。斜面はおれの視線より少し低いくらいで、石ブッロクと草によって見え辛いんです。足元は草に隠れて見えず、優花ちゃんの揃えている膝から上しか見えません。

 優花ちゃんがしゃがみ込んでいた場所には、足跡はなく、代わりにHのようなの跡がありました。線は太く、縦の二つの線は八の字のように斜めになっていました。大きさは、縦幅四十センチ、横幅八十センチほどです。この跡の正体はまったくわからず苦戦しました。なぜこのような跡があり、優花ちゃんの足跡はないのかと。けれど、モニターですべてが説明できる。Hのような跡は、モニターのです。モニターを立たせるための、レッグスタンドと言うんでしょうか? モニターを地面に置いていたために、跡がつきました。八の字に斜めになっていたのも、モニターを支えるレッグスタンドだからこそです。跡の大きさも、モニターのレッグスタンドならば不自然ではありません。石ブッロクや草により、レッグスタンドは見えなかった。コードは後ろへ伸ばし見えなくすればいい。

 位置というのは非常に大事で、少しおれが離れたら、レッグスタンドが見えてモニターによる映像だってことに気づくかもしれない。そこで、確実な方法を取ったんです。その通りは狭く、しかも捨てるためなのか引越しでもするためなのか、左手にある民家の壁にソファーや空き缶といった物が置かれていました。狭い道に置かれているため、。その位置が、石ブッロクや草によりおれの視界を悪くするために最良だった。おれの身長を考慮した配置でした。

 神田川家の玄関は出っ張っており、通るときはそれに隠れてモニターは見えませんでした。よく練られた計画です」


 おれは弥彦と裕貴の様子を窺った。二人はなにも言わず、黙って聞いていた。


「一番ネックであるレッグスタンドはなんとか隠すことができたら、モニターの枠は擬態させればいい。視界も悪く気づかない。問題になってくるのは、タイミングよく優花ちゃんを消し、どのようにしてモニターを隠したのかというところ。

 これには、おれたちの前に歩いていた統司さんも絡んでいます」

 統司は眉を動かし、声には出さなかったが驚いたように口を開けた。

「統司さんはおそらく、コードレスのマイクつきのイヤホンをスマホに接続して隠し持っておき、声で知らせたのか指でイヤホンを叩き音を出すことで、優花ちゃんを消す指示を出したんでしょう。

 その操作を行ったのが、弥彦さんか裕貴さんのどちらかです。リビングにノートパソコンがありました、それで操作したんでしょう。そして、モニターを回収しなければならない。まずモニターを家の中に入れます。レッグスタンドはすぐ外せるように仮止めの状態にしておくんです。おれはリビングで、小さい金属の棒を発見しました。これを使ったんでしょう。レッグスタンドとモニターの接続部分である、。そうすると、仮止めの完済です。モニターを置くこともでき、回収も楽になります。うっかりポケットから落としてしまったんでしょうね、リビングにあった金属棒は。

 取り外したレッグスタンドも隠さなくてはなりません。これは結愛ちゃんのときの手口と同じです。回収したコードと一緒に、洗濯カゴへ隠すんです。そこを探られることはありませんからね。――ここまではいいですね?」


 おれは全員の顔を見渡した。瑛華だけがこくりと頷いた。おれも頷き返すと、話を続けた。


「それでは、モニターはどこに隠したんでしょうか? それが凄く重要になってきます。家の中へ大型モニターを入れたとなると、隠す場所はそうそうありません。タンスの中などは、優花ちゃんがいるんじゃないかと捜索されたらすぐにバレます。

 一つ、とてもいい場所があった。ここだと盲点であり、気づかれることはないでしょう。おれは村長さんに感謝せねばなりません。お陰でモニターを隠した場所がわかったんですから。襖と同じように、もう一つ仕事について教えてもらいました」

 おれは背後にある、サワムラ畳店を親指でさした。

「サワムラ畳店。そう、畳です。。村長さんは説明してくれました。この村の畳はすべて同じ種類で、関西間を使用していると。関西間の大きさは、百九十一センチ×九十五センチなんですよ。これはネットで調べましたが、畳の厚みは三センチから五センチほどらしいです。先ほど言ったように、モニターの厚さは三センチですから、ぴったりと合います。大きさも厚みも、すべて好条件。畳の代わりにモニターを置き隠すことができる。

 けれど剥き出しのままではいけない。そこでカーペットです。畳であるのにカーペットがひかれていたのは、モニターを隠すためでした。部屋は模様替えをしていたらしく、物が端へ退けられ、カーペットがところどころ折れたり盛り上がったりしていたのは、隠すときに慌てて引っ張ったからです。むしろ盛り上がりがあることにより、畳より少しでも厚かったら誤魔化すことができます。畳は一枚、事前に取っておいたのでしょう。モニターのために。

 そしておれたちがやってきても、馬脚を表すことなくお二人は対応した。ちょっと弥彦さんが姿を見せるのが遅かったのは、一人で作業していたからかもしれませんね」


 おれはとりあえず一息ついた。意気揚々と説明していたが、心臓は早鐘を打ち喉は乾いていた。あともう一息だ。


「この場合、犯人は誰になるのか? 難しい問題ですね。結愛ちゃんや優花ちゃんにはないわけだし、つまり事件ではない。けれどあえて犯人を――いや、黒幕を上げさせてもらうとすれば、、あなたです! そろそろ出てきたらどうです」

 おれは言うと、サワムラ畳店を振り返った。


 戸がガラガラと開き、沢村とカメラや音声マイクを持った数名のスタッフたちが出てきた。

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