インタールード2
第47話 発想
中田悟は目を覚ました。
スマホの明かりをつけ確認してみると、朝の七時。アラームの設定をしていた時刻より早く起きてしまった。緊張しているのだろうか? いよいよ待ちに待った日だ、無理もない。中田は胸に手を当ててみた。漫才をするため初めて上がった舞台より鼓動は速く、高揚していた。
ぼやけている目を擦り、大きなあくびをする。リモコンでテレビをつけると、朝のニュースがやっていた。
売れっ子芸人が既婚者の女優と不倫したという内容。
中田は鼻で笑い小馬鹿にした。その売れっ子芸人は、まったくこれっぽっちも面白くなかった。ネタもトークもリアクションもなにもかも。確実にナイススマイルの方が面白かった。自分たちに自信はなかったが、そう断言できる。なのになぜ売れているのかわからない。どこが良くてテレビ局は使いたがるんだ? 芸歴は三年ほど長く先輩ではあるが、下のものへの態度は横柄で陰湿だった。売れっ子である理由がわからない。
映し出された顔を見て、そこで中田は気づいた。顔か。男前であるため、人気があるのか――。負けを認めようと思った。仕方がない。顔では誰がなんと言おうと劣っていた。だが、芸人には不向きな顔面と言えなくもなかった。
ブラックコーヒーを入れていると、コマーシャルが流れた。カレーのルーの宣伝だったのに、なぜか焼き肉が食べたくなってしまった。色んな人と網を囲み、肉を頬張っている絵が浮かんだ。今晩、みんなと焼き肉を食べようと思った。結果はどうあれ、それくらい許されるだろう。
コーヒーを二口飲むと、中田は以前から撮っていたテレビ番組を見ることにした。元々目につけていた番組であるため面白い。視聴率もさぞ振るうことだろう。
中田は深夜番組を再生した。深夜番組は比較的自由なため、様々な企画を立てられる。実験的要素もあるために失敗作もあるが、馬鹿らしい良い企画もある。
回転寿司屋に向かい、百円寿司を食べている客に五十円でネタの部分をくれないかという企画。ネタを売ってくれたからといってなんの得があるというのか。面白いことを考える。そしていざ売ってもらうと、別の客の元へ向かい五十円でネタを買わないかと言うのだ。
次は動物霊に焦点を当てた企画だ。犬や猫の霊が肩についてあるため、霊媒師にお祓いしてもらう人もいる。すると肩がすっと楽になる。原因を聞くと、車で轢いてしまったり道端の死骸を見たからではないかと説明していた。では、アマゾンで住むアナコンダを殺した人や死骸を見た人を霊媒師が見たらアナコンダの霊はついているのだろうか? とても長い太い縄みたいなのが体にまとわりついている? ならアフリカに住む人を見たらアフリカゾウの霊がついている人もいるのだろうか。肩の重さはやはり桁違いなのだろうか。立っていられないのでは? 写真を撮ればそれはもうアフリカゾウを撮っていることになるのでは?
中田は声を立て笑った。馬鹿なことを考える発想が面白い。凄いなと思う。
もう一つ、目を引いた企画があった。色んなトリックを考え、探偵に解決させる推理作家には、推理力は果たしてあるのか? そこで作家に番組で考えたトリックを解いてもらう、という実験的な企画。
中田がミステリー小説が好きだという理由だけで、目を引かれたわけではなかった。作家ではないが霧島ならば、見事解いてしまうのだろうか? 期待せずにはいられない。
もう少しテレビを見ておきたかったが、悠長にもしていられない。今日は大事な日、遅れるわけにはいかない。
楽しみだ。数ヶ月ぶりだ。落神村に行くのは――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます