第46話 村人の気持ち

 夜、大人たちは公民館に集まっていた。二回目の神隠しが起こったため、和恵から改めて話しがあった。村の大人たちは床に座り、和恵に向いていた。おれや瑛華も参加し、端っこの方に座っている。


 壁際に一人立っている和恵はみなの視線を集め、やがて口を開いた。

「みんなも知ってる通り、二回目の神隠しが起こったね。まさか二度も……。正直に言うと、私も困惑している」

 大人たちにざわめきが生まれた。巫女の発言で、自分たちにも被害が出るのではと思ったのだろう。すると和恵は、なだめるように両手を出した。


「慌てるんじゃない、慌てるんじゃ。……いいかい、焦ってはいけないよ? 禁止事項にもある通り、普段通りにしておけばいいんだ。神様を驚かせてはいけないよ。そうすれば何事も起きない。二人もちゃんと帰ってくるし、むしろ神様から祝福を受けてると思った方がいいねえ」

 安堵の雰囲気があった。巫女に人々の気を落ち着かせる力があるのか、安心していいんだ、という都合の良い思い込みによる作用かもしれない。

「巫女として、そう感じてるんだ。普段通りにしておけばいいって。みなが怖がるのも不安がるのもわかる。特に子供のいる家庭はねえ。でも明日が終われば、みんなも笑っていられるさ。日々、神様を想って祈るから、みなも頼むよぉ」


 めいめい奮起するように声を上げた。顔を見合わせると頷き、声をかけ、まるで飲み会のように盛り上がっている。おれには現実逃避にしか見えなかった。胡座をかいてるだけでは、なにも解決はしないというのに。


「ちょっといいですか!」

 おれは声を上げると立ち上がった。一斉に視線がこちらに向いた。和を乱そうとする者への睥睨。惨たらしく突き刺さり、怯みかけた。

「なんだい」

 と和恵は言った。


「祈ろうが祈るまいとどちらでもいい。やっぱり警察に連絡するべきですよ!」

 ざわめきが生まれた。先刻の和恵の発言よりも大きく、不快感がある。瑛華は心配そうにおれを見上げていた。

「ちゃんと捜査してもらって、結愛ちゃんと優花ちゃんを捜索してもらうべきです」

「いや、だからね……」

「祈ってすべてが解決はするなら苦労はありません。おれの力が足りなかったのかもしれませんけど、おれは昨日、ここで神様のためネタをしました。けれどどうです? 今日、優花ちゃんが消えてしまいました。しかもおれの目の前で!」


 今度はしんと静まり返った。だがぐうの音も出ないわけではなく、反証の言葉を頭の中で構築してるのだ。


「まだ間に合いますよ、警察に連絡しましょう」

「それで神様の気分を害したらどうするんだい」

 和恵はうんざりしたように言った。そうだ、そうだ、と周りから声が上がった。みな怒っていた。一致団結しようとしてるところを無駄に煽る不届き者であると、思われている。おれの発言を封殺しようとしているのがわかった。

「で、ですけど、今も結愛ちゃんや優花ちゃんは怯えてるかもしれません。怖いのはわかります。でも一番怖がっているのはその二人だ! それに神隠しなんかじゃなく、これは人の手によるものですよ!」

 おれは集まっている大人たちは見渡し、必死に言った。何人かは苦しそうに目を伏せたが、大多数は憤りを宿した視線を向けていた。ここまで言ってもわからないのか……。


 一人の男が叫んだ。

「なんてこと言うんだ! これで神様がお怒りになられたらどうするんだァ!」

 すると次々に怒号が上がった。

「そうだ、どうするってんだ! あんたが変わりに消えてくれるのか!」

「よそ者が勝手なことをいいやがって!」

「村のことを知ってんのかよ! おおう!」

「元々、あんたらが原因じゃねえのか! あんたらがこの村に来たからよお!」

 おれもこれには頭にきた。

「おれたちのせいって言うんですか! おれたちがなにをしたんだ!」

「来たことが問題ってんだよ」


 口髭の生えた四十代の男が勢い良く立ち上がった。おれを指さすと、

「それによ、もし人の手によるものだったらお前が解決するじゃねえのかよ!」

「それは……」

「色々聞き回ってんだろ、調べてんだろ! 成果を出せってんだ!」

「お、おれたちだって――」

 反論しかけたところで、男はぴしゃりと言った。

「てめぇの力がねえっからって都合いいこと言うんじゃねえ! いったいなにしてやがんだ、情けねえぞ!」


 グサリと、胸に突き刺さった。

 成果も上げれず、未だに解決の糸口も見つけられていない。目の前で二人が消えるところを見たというのに! なにもできていない……。

 悔しかった。なにも言い返せない自分がいた。悩みながらも、探偵芸人として自分を模索していた。おれに才能はなくなにをやっても駄目なのか。うだつが上がらないまま終わっていくのか。持っている人間だと思ったのに、ただの凡人だったか――


 下を向いているおれに、男は鼻を鳴らした。

「いきなり黙りやがって、勝手な行動をするんじゃねえぞ」


 おれは拳を握った。ちくしょう。上手くいかないものだ。

 座ると、握った拳に瑛華が手を置いてくれた。言葉はなかったが、想いや暖かさは伝わった。


 そうだ、まだ終わったわけではない。

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