第28話 旧神社をあとにし

 何事もなく村についた。道中、襲われないかと警戒していたが心配は無用だった。


 右エリアを進む。佐田の家の近くで、律と佐田と神田川裕貴が歓談していた。白い歯をこぼし、楽しげに手を叩いている。緊張感の欠片もなかった。村に伝わる神隠しが起こったというのに。すれ違う人たちもそうだ。普段通り、何食わぬ顔をして歩いていた。

 やはりこの村はどこがおかしい。おれや瑛華もお喋りし笑みをもらすこともあったが、忘れているわけではなく、心の底から笑えてはいなかった。しかし村のものは違った。同郷のものが消えたというのに、あまりにも気が抜けている気がした。結愛は帰ってくると楽観視しているためか? 


 先ほどまで不審な男につけられていたために、余計に不思議に感じてしまうのだろうか? 体感であるため、筋立てて説明することはできなかった。


 おれは三人に話しかけた。

「なにを話してるですか?」

「はははっ――え? ああ、いや、村のものにしかわからないジョークだよ」

 と佐田は答えた。

「お兄さんは、なにをしてるの?」

 律は静かな口調で言った。

「さっきまで旧神社に向かっていた」

「どうして?」

「あそこなら人はいない。犯人が住処にしていてもおかしくないだろ?」

「ふうん、なるほど。なにかあった?」

「タバコの吸殻はあったね。旧神社でたむろしてる若者っている?」


 裕貴は後ろでしばってある長い髪を一撫ですると、

「そういえば、旧神社でタバコ吸ってる輩がいるって、問題になってましたね……。若者かはわかりませんけど、こそこそ吸ってるってことはそうなのかも。ねえ、律くん」

「オレは肺がんのもとなんて吸わないよ」

 佐田と裕貴は違いないと笑った。


 タバコの吸殻は、予想通り村人のものだ。犯人ではない。


「実は旧神社に向かったとき、誰かにつけられていたようなんですよ」

「え?」

 佐田と裕貴は声を揃えおれを見た。律は声には出さず、目を細めるだけだった。

「つけらていたのか、はたまた遭遇してしまっただけなのか。でもその男は、山の中に逃げて行きました。追いかけたんですが、駄目でしてね」

「その男っていうのは誰なんだい」

 と佐田は恐る恐る尋ねてきた。


 おれは首を左右に振った。

「それはわかりません。もしかしたら、犯人かもしれません。外部からやってきたとすれば、おれが言ったように住処にしようとしていたのかも。おれのことを、ただつけていただけかもしれませんし」

「そうか……」

「村で見知らぬ人は見かけませんでしたか?」

「いや……」

 佐田は二人に顔を向けたが、ポジティブな反応は返ってこなかった。背丈やおおよその年齢、服装なども伝えたが同じだった。


「じゃあ、その特徴の人物は村にはいませんか?」

「どうだろ、それらしいのは探せばいるだろうけど……」

「それもそうですよね。……村には、観光客が訪れたりしますか?」

 そこで裕貴が横から口を出した。

「そういった話は、村長から聞いた方がいいんじゃないか? さっきサワムラ畳店にいるのを見たよ」


 有無を言わさぬ口調だ。歓談中だったのにつぎつぎに質問され、辟易してきたのかもしれない。


 おれは礼を言い、三人から離れた。

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